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セイノーとラクスルが合弁設立、ハコベル事業移管

2022年6月10日 (金)

M&Aセイノーホールディングス(HD)とIT企業のラクスルは10日、トラック配送のプラットフォームを運営する合弁会社「ハコベル」(東京都品川区)を、ことし8月に設立すると発表した。

ラクスルが2015年に始めた車両手配と配車管理のプラットフォーム事業「ハコベル」を本体から切り出し、セイノーHDの資本を入れて合弁化する。両社はハコベルを企業や業界を横断したオープンなインフラに成長させることにより、トラックの実車率の向上や環境対応など業界全体の課題解決につなげたい考えだ。

▲記者会見後に写真撮影に応じる(左から)セイノーHDの田口義隆社長、合弁会社の社長に就任する狭間健志氏、ラクスルの松本恭攝社長兼CEO

両社のトップが品川区のラクスル本社で共同記者会見を開いて発表した。合弁会社はセイノーHDが50.1%、ラクスルが49.9%出資し、ことし8月1日付で設立する。資本金は10億円。ラクスルでハコベル事業を推進してきた狭間健志執行役員が合弁会社の社長に就き、社員もラクスルの約60人が移籍する。本社も品川区のラクスル本社内に置く。

合弁会社は、荷主と物流会社のトラックをIT技術でマッチングさせる従来のハコベル事業を土台に、荷主・物流会社とも、より多くの企業に参加を呼びかけ、物流プラットフォームの業界標準を狙う。セイノーHDの田口義隆社長は会見で、荷物とトラックのマッチングを強化することで「40%に過ぎない実車率を高めるとともに、CO2排出も削減したい」と、事業の公共性を強調した。

▲記者会見するセイノーHDの田口社長

セイノーHDにとっては、急成長するラクスルの技術開発力をグループに引き入れることで、トラック運送業界で加速するデジタル化をリードしたい狙いがあるとみられる。田口社長は、特定の企業系列に寄らない「オープンパブリックなプラットフォームを目指す」と何度も強調した上で、「そのためにはニュートラルな(中立的な)ラクスルと組むのがよいと考えた。当社は(プラットフォームの)ピースの一つになる」と述べた。企業規模から過半の出資をするが、社長や本社所在地などをラクスルに譲り、「セイノー色」をいくぶん薄める考えとみられる。

▲記者会見するラクスルの松本社長兼CEO

ラクスルは、セイノーグループが持つ全国規模の配送網や倉庫群、鉄道輸送事業、ドローン開発といった物流の総合力とつながることを強みにする。次々と台頭しているプラットフォーム同士の差別化を図る狙いとみられる。松本恭攝社長兼CEO(最高経営責任者)は「自社単独でハコベルを展開しても、このままでは業界の仕組みを変えたり、物流の新たなインフラにしたりするには時間がかかると判断した」とし、規模や資金力のある大手と組んだ理由を語った。(編集部・東直人)

輸送業界の「救世主」としてハコベル事業、物流DX化の先導者として新たな方向性を模索してほしい

まさに、両社の意向が合致したというべきか。セイノーホールディングス(HD)とラクスルが「ハコベル」事業で合弁に踏み切った。車両手配と配車管理のプラットフォーム事業として、いわば物流業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)化の象徴ともいうべきハコベル事業を、ラクスル本体から切り離して合弁会社に移管するという大胆な決断に至った背景には、「物流の2024年問題」など難題が山積する輸送業界で、なかなか進まない業務効率化を一気に進めたい狙いも透けて見える。

車両管理のプラットフォーム事業に2015年に参入し、配車業務のデジタル化を推し進めたラクスルは、このハコベル事業をオープンなインフラに育てたい思惑を強めていたようだ。「ラクスルのハコベル」よりも「ハコベルのラクスル」という打ち出し方を優先する戦略がそれを強く示唆している。

物流業界が抱える構造的な課題の一つに、トラックの実車率の低さがある。トラックが走行した距離のうち、実際に貨物を積載して走行した距離の比率が、日本は世界でも低水準にある。こうした非効率な輸送実態を打開するため、荷主と物流会社のトラックをIT技術でマッチングさせるビジネスに着目したのが、ラクスルだった。そして今回、このプラットフォームをトラック業界で加速するデジタル化の起爆剤にしようと考えたのが、セイノーHDだった。

裏を返せば、ハコベルが非常に輸送業界におけるDX化の本質を突いた、完成度の高いビジネスモデルであることの証左である。セイノーHDとの合弁会社に委ねられるハコベル事業だが、ラクスルには出資比率とは別の物差しで影響力を堅持してほしい。そして、実車率の向上という業界の最大級の課題における現実的な着地点を模索してもらいたいと強く希求する。(編集部・清水直樹)