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ONEなどが茨城に「内陸港」、2024年問題に対応

2022年8月24日 (水)

短報記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「ONEジャパン、茨城県坂東市に内陸CY開設」(8月2日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクス日本ではまだ珍しい「内陸港」が今月、茨城県坂東市に開設された。コンテナ海運大手のオーシャンネットワークエクスプレスジャパン(ONEジャパン、東京都港区)と地元・坂東市の吉田運送が設置した施設で、東京港や横浜港への中継拠点であり輸出入手続きも行えるため、荷主や運送会社にとってメリットが大きい。トラックドライバーの長時間労働が規制される「物流の2024年問題」への有効対策としても期待される。

LOGISTICS TODAYは24日、この「坂東インランドコンテナヤード」(CY、正式名・坂東コンテナターミナル)を現地取材した。2万平方メートル超の敷地に、3層、4層と積み重ねられた巨大でカラフルな海上コンテナ数百個が立ち並ぶ。貿易港のコンテナターミナルで馴染みのある光景だが、それがのどかな田園地帯の中に現れると、「おおっ」と、やはり意表を突かれた感じを抱いてしまう。朝にはコンテナを積み降ろしに来るトレーラーが出入り口前に長蛇の車列を作るという。

「内陸港」としての運用はまだこれからだが、ヤードのオペレーターを務める吉田運送の吉田孝美社長は「8月1日の開設以降、多くの輸出入企業(荷主)や物流企業から利用したいという要望が相次いで届いている」と手応えを語った。まずは輸入コンテナの受け入れに向け、着々と準備が進んでいるという。

▲「内陸港」を開設した吉田運送の吉田社長

この坂東インランドCYは、東京港や横浜港と北関東を結ぶ陸運の中継拠点(ハブ)だ。従来は、北関東の荷主の元と東京港などの間を100キロ以上かけてトレーラーでコンテナを運んでいた。往復のどちらかが空コンテナとなることが多く、使い終わったコンテナは再び離れた港に戻さねばならなかった。そのコストが北関東の荷主らを悩ませていた。

その解決策として地元の運送会社がこれまで開設してきたのが、インランドCYの前身に当たるコンテナ置き場「内陸デポ」だ。輸出企業はコンテナに荷物を入れて内陸デポまで運べば、そこから先はデポの運送会社や船会社が東京港・横浜港まで輸送してくれる。輸入企業も逆ルートの輸送メリットを受けられる。使い終わった空のコンテナを荷主間で回す「ラウンドユース」も行う。こうした負担軽減メリットから、吉田運送も2007年以降、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の坂東インターチェンジなどに近い坂東市の本社敷地と、栃木県佐野市にデポを開設。北関東や南東北の荷主や運送会社と、ONEジャパン、マースク(デンマーク)といった世界の名だたる船会社とを橋渡しし、成長してきた。

▲内陸に立ち並ぶ海上コンテナ

今回、開設したインランドCYは、この内陸デポをベースに、船荷証券の取り扱いをはじめとする保税・通関機能や、セキュリティー対策、傷んだコンテナのリペア(修復)など、貿易港の機能を内陸施設として備えたものだ。北関東の荷主などにとって、地元に近い「内陸港」で輸出入手続きが完了するため、デポ以上に負担が軽減される。輸送の効率化によりトレーラーが排出するCO2も削減でき、東京港の混雑軽減にもつながる。

デポからインランドCYへのステップアップは、ONEジャパンが吉田運送に働きかけ、実現した。ONEジャパンは日本の海運大手3社の合弁会社ONE(本社・シンガポール)の日本法人。吉田運送と長い取引があり、同社がデポの運営で国内屈指の企業に成長したことや、吉田社長はじめ新しいことに挑戦する姿勢に期待を寄せた。

ONEジャパンの要請と期待に応え、吉田運送はインランドCYの整備のため、専門業者が船荷証券を発行できる環境を整えたほか、施設内のフェンスや侵入探知機、夜間照明などのセキュリティー対策を施した。コンテナリペアのための溶接機も導入、社員4人は船会社で板金技術の研修も受けた。

▲インランドコンテナヤードの意義を語る吉田社長

ONEジャパンと吉田運送がインランドCYの役割として、最も期待するのが「2024年問題」への対応だ。すなわち、これまで内陸デポを使ってこなかった荷主や運送会社も港湾機能が加わり中継拠点としての利用メリットが増大したインランドCYを積極的に活用するようになれば、トラックドライバーたちに長時間労働をさせずに海上コンテナを100キロ以上運べるようになる。ONEジャパンの担当者は「海運会社である当社も、日本の物流業界が直面するこの深刻な課題の解消に取り組まねばならない」と狙いを語った。吉田社長も「2024年問題で内陸の物流が止まってしまえば、船にも荷物が届かない。船が運んできたコンテナも内陸に届かない」と話し、陸運と海運が連携して課題解決を図るインランドCYの意義を強調した。

ONEジャパンも吉田運送も、荷主からの好反響に乗り、いよいよ坂東インランドCYの最初のオペレーションに臨む。坂東の次の「内陸港」の開設も視野に入れながら。(編集部・東直人)