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JR奥羽線の運休2か月、物流守ったトラック代行

2022年10月18日 (火)

短報記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「奥羽線は7日早朝に運転再開、JR貨物」(10月5日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクスことしは日本の鉄道開業から150周年の節目の年。10月14日の「鉄道の日」を中心に、全国各地で記念イベントがにぎやかに開かれている。鉄道物流にとっても大事な節目であるが、お祝いムードの一方、本年も自然災害が鉄路を直撃し、長期運休でサプライチェーンが大きな影響を強いられた。秋田県のJR奥羽線で起きた貨物列車の長期運休と、被害を緩和したトラック代行輸送を振り返り、鉄道物流の課題を考える。

▲8月3日時点の奥羽線下川沿駅・大館駅間の状況(JR貨物提供)

日本貨物鉄道(JR貨物)は10月7日早朝、夏の大雨と土砂災害の影響で運休していた奥羽線の秋田貨物駅(貨物専用駅、秋田市)・大館駅(大館市)間の全線で2か月ぶりに運転を再開した。駅員らは万感の思いで列車を見送った。それまで、東北地域を中心に多くのトラック運送会社とドライバーが代行輸送を担い、本州と北海道を結ぶ貨物の動脈を守った。元の職場に戻ったドライバーたちも、鉄路の再始動に安どの気持ちを抱いたことだろう。

通運連盟の会員会社が結集

8月3日から東北地方を断続的に襲った大雨の影響で、奥羽線は盛土が流出するなど大きな痛手を被った。本州から北海道に送る宅配荷物や北海道からの農産物の輸送が滞る。JR貨物は線路を管理するJR東日本と協議を重ねた末、荷主企業らに対して「運転再開まで数か月かかる見通し」と伝えた。迂回列車の準備と並行して、トラック代行輸送をまず8月5日から秋田貨物駅・大館駅間と仙台貨物ターミナル駅(仙台市宮城野区)・秋田貨物駅間で開始した。9月21日からは秋田貨物駅・東青森駅間にも範囲を広げた。

▲代行輸送を行う大型トレーラー(9月21日東青森駅で、JR貨物提供)

代行輸送にあたった運送会社とトラックは、全国通運連盟(本部・東京都千代田区)の会員企業から集められた。8月、JR貨物と同連盟が対策会議を共同開催し、会員に協力を呼び掛けた。ただ、奥羽線は非幹線で、代行輸送区間も都市部から離れている。「東海道線や山陽線に比べて、この地域で走っているトラックは少なく、必要台数を集められるか不安もあった」(連盟関係者)という。広域の運送各社がかなりの台数を提供してくれたことで、なんとか必要台数が集まった。

一部区間の一時的な再開を挟みながらも、貨物列車の運休とトラック代行輸送は8月5日から10月6日までの2か月余りに及んだ。トラックが運んだ鉄道コンテナ(12フィート)は合計1882個。JR貨物は「連盟や運送事業者の協力をいただいたことで輸送力を確保できた」と感謝している。

課題は貨物駅のインフラ

▲代行輸送を行う大型トレーラー(9月21日秋田貨物駅で、JR貨物提供)

一方、コンテナを貨車からトラックに移し替える作業は、順調とばかりはいかなかったようだ。接点となった秋田貨物駅は、大都市部の貨物ターミナルと比べれば小さな施設。集まってきた多数の大型トレーラーの駐車スペースが足りない。

JR貨物は、車で15分ほど離れた貨物専用駅の秋田港駅(秋田市)構内にあるコンテナヤードを駐車スペースとして活用することを考案した。大型トラックが20〜30台止められる広さがある。JR貨物の所有地だが、同社も出資する第三セクターの秋田臨海鉄道に貸し出されていた。臨海鉄道も協力し、臨時の「トラック基地」が実現した。

こうした貨物駅のキャパシティーや機能の不足、他の輸送モードとの連携不安は、この数年、相次ぐ激甚災害による鉄路の長期寸断で露呈した鉄道の弱点だ。国も対策に乗り出している。

国土交通省は、貨物駅で代行輸送の大型トラックにスムーズに荷物を積み替えられるインフラ整備を進める方針。2023年度予算の概算要求に整備費を盛り込んだ。ホームを延ばし、導線を広げ、駅構内に多くの大型トラックが同時に入り、駐車もできるようにするなど、ハード整備を急ぐ。手始めにJR山陽線エリアの貨物駅から着手するが、今回の代行輸送を教訓に東北エリアも今後の整備対象となる可能性がある。

自然災害頻発、ノウハウを共有

JR貨物は奥羽線での一連の対応を振り返り、職員への教育マニュアルの重要性も指摘している。今回は、秋田貨物駅など代行輸送の拠点駅に臨時の要員を派遣し、迅速で臨機応変な対応に努めたという。同社では、過去の災害対応を生かした教育マニュアルを事前に作成・配布し、社内でノウハウを共有してきた。「今回の災害でも一定程度、効果を発揮できた。今後も自然災害の頻発が想定され、さらなる備えを検討していく」としており、奥羽線で得た新たなノウハウ・教訓も次の時代に受け継がれる。(編集部・東直人)