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大型ひさしで倉庫荷役効率化、4月に建ぺい率緩和

2023年1月6日 (金)

(イメージ)

行政・団体倉庫物流の効率化につながるとして、国土交通省は2023年4月、倉庫に設置される大規模なひさしについて、現行の建ぺい率の規制を緩和する。建築面積に算入しない対象範囲を、倉庫の端1メートルから5メートルへと拡大する。建ぺい率制限の合理化により大型ひさし設置の普及が後押しされ、積み降ろしの荷役作業の効率化につながりそうだ。

22年12月に予定していた建築基準法施行令の一部を改正する政令は、1月にずれ込んで公布される予定。

住宅局が昨年10月に公表した建築基準法施行令を一部改正する政令案によると、貨物の荷降ろしや類似する業務を行うために設ける倉庫、または工場のひさしに関して、敷地境界線との間に空地を確保するなど、安全・防火・衛生上の要件を満たすことが条件。容積率に関しても延べ面積に不算入とする。

建ぺい率の設定は、敷地内に一定の空地を確保し、いわゆる建て詰まりを防ぎ、建築物の採光や通風を確保するとともに、火災時の延焼防止や避難といった安全性などを確保するのが目的。建築基準法に基づき、用途によって上限が異なる。

▲大規模ひさしに係る建築基準法施行令の見直しの方向性(出所:国土交通省)

大型ひさしは、雨天時にひさしの下での荷さばきが可能になる。このため荷役作業の生産性アップが期待でき、物流効率化にも寄与する一方で、軒先から1メートルを超える部分については建築面積として算入されるため設置を控える傾向があった。

日本倉庫協会の久保高伸会長は、1月5日に発表した年頭の挨拶のなかで、今回の規制緩和を同協会が長年要望していたことと説明。「東日本大震災の後から要望をはじめ、ついにことしの4月から実現されることとなった」と歓迎するコメントをしている。

法的な観点での問題解決アプローチ、実効性に期待したい

国交省が建築基準法施行令の一部改正に踏み切るのは、サプライチェーンの最適化・強靭化に欠かせない物流倉庫における安全性と作業効率の向上を促すためだ。

消費スタイルの多様化や新型コロナウイルス禍による宅配ニーズの高まりを背景としたEC(電子商取引)サービスの定着が進むなかで、倉庫機能の強化は物流政策における喫緊の課題になっている。製品の保管や仕分け、検品などサプライチェーンの「扇の要」である倉庫の持続的な運用は、まさに経済の安定的な成長を促すからだ。

ところが、こうした倉庫機能の確保を脅かす問題が相次いで顕在化している。まずは物流倉庫で頻発する火災だ。大阪市此花区で2021年11月に発生した日立物流西日本の倉庫火災では医薬品の供給に支障が出た。サプライチェーンが健全な倉庫機能を前提としたものであるという事実を、改めて認識する機会となった。

▲大阪・舞洲で起きた日立物流西日本の倉庫火災の様子(2021年12月2日撮影)

さらに、倉庫で働く従業員の不足も懸念材料だ。「物流の2024年問題」を翌年に控えて、輸送ドライバーの確保が社会問題になっているが、倉庫スタッフの採用も厳しさを増している。就労スタイルの多様化で、短時間アルバイト求人など新たな取り組みも生まれているが、長期にわたって安定した就労を見込めるスタッフが絶対的に不足しているのが実情だ。

国交省はこうした倉庫機能の持続的な確保こそが、国民の経済活動を含めた生活の基盤になると判断。今回の法改正は、大型ひさしの設置に関する規制緩和だけでなく、時代に即した施設の耐火性能や庫内の換気規制を含めて、倉庫業務における安全性と効率性を追求する手段として、関連事業者への対応も求めた形だ。

倉庫の大型ひさしに関しては、降雪の多い地域を中心に荷役業務の負担を軽減する効果がある。荷主や消費者から輸送品質のさらなる向上を求める声が高まるなかで、天候による荷役への影響を抑えることのできる取り組みは、実効性のある業務効率化につなげられる。さらに、建ぺい率の規制緩和は火災発生時などにおける安全性の確保だけでなく、就業環境の改善にも寄与する。

倉庫の現場を担う事業者は、その機能強化を図る手段として、先進的なIT機器やシステムの活用によるDX(デジタルトランスフォーメーション)を考える傾向にある。もちろん、こうしたDXによる問題解決も有効な方法であるのは間違いない。とはいえ、法的な観点で実現できるやり方も存在する。今回の法改正が、問題解決へのアプローチにおける新たな実績になれば良い。(編集部・清水直樹)

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