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1Q増収で黒字転換も許可取り消し影響は7月以降本格化、代替コストが利益圧迫へ

日本郵便、点呼不備問題で外部委託費65億円

2025年8月8日 (金)

財務・人事日本郵便で発覚した大規模な点呼不備問題が、同社の収益構造を揺るがす事態に発展している。同社が8日に発表した2026年3月期第1四半期の決算説明資料の中で、一連の問題を受けて国土交通省から受けた一般貨物自動車運送事業の許可取消処分に伴い、その対策費用として集配運送の外部委託費が年間65億円程度増加するとの見通しが、初めて明らかにされた。4-6月期の郵便・物流事業は、JPトナミグループの連結子会社化や郵便料金の値上げ効果などで4億円の黒字(前年同期は364億円の赤字)に転換したが、処分の影響が本格化するのは7月以降。年間65億円という巨額のコスト増が、黒字化したばかりの同事業の利益を再び圧迫するのは避けられない情勢だ。

8日に発表された日本郵便の第1四半期(4-6月)決算は、一見すると堅調な内容だった。郵便・物流事業の営業損益は、JPトナミグループの連結子会社化の効果もあり、前年同期の364億円の赤字から4億円の黒字へと劇的に改善した。しかし、この数字には今回の行政処分の影響がほとんど織り込まれていないとみられる。内部調査で全国2391局に及ぶ点呼不備の全容が明らかになったのが4月23日、国交省が処分方針を示したのが6月5日、そしてトラックやバンなど2500台が使用できなくなる許可取消処分が下されたのが6月25日。代替輸送体制が完全稼働したのは6月26日からであり、そのコストインパクトが表面化するのは7月以降の第2四半期決算からとみられる。

決算説明資料で明記された「年間65億円程度」の集配運送委託費の増加は、使用できなくなったトラック・バンの輸送力を外部の運送会社で代替するための費用だ。これはあくまで「現時点で確度が高い」金額であり、今後の状況次第ではさらに膨らむ可能性も否定できない。代替輸送の42%を担う自社の軽バンも特別監査が進められている最中で、「使用停止処分が下される可能性がある」からだ。第1四半期で確保した4億円の黒字が簡単に吹き飛んでしまう規模のコスト増が、通期にわたって同社の収益を圧迫し続けることになる。

コスト増の要因は、外部委託費だけではない。軽バンによる代替策が現場の非効率化と人件費の増加を招いている。日本郵便の関係者によると、特に地方部では、代替に必要な数の軽バンやドライバーを確保することが難しく、外部委託に頼らざるを得ない傾向が強いという。これまで1台のトラックで運べていた物量を運ぶには、複数台の軽バンと、それに応じた数のドライバーが必要になる。さらに、カゴ台車やパレットが使えないため、荷役は必然的に手積み・手降ろしとなり、作業時間も増加する。

(出所:日本郵政、クリックで拡大)

第1四半期決算では、人件費が前年同期比で157億円増加しており、この代替輸送に伴うドライバーの増員や荷役時間の増加が、第2四半期以降、人件費をさらに押し上げる可能性が高い。年間65億円の外部委託費に加え、こうしたオペレーション変更に伴う潜在的なコスト増が、黒字を維持できるかの大きな焦点となる。

コスト増への懸念が高まる一方、第1四半期の事業実績自体は、料金改定が収益を支える構図が鮮明になった。総引受物数は40億500万通・個で、前年同期比4.5%の減少。内訳を見ると、郵便物が5.7%減の29億7000万通とマイナス基調が続いているものの、料金改定の効果で営業収益は400億円の増収を確保した。一方、荷物分野では、11月からの運賃値上げが発表された「ゆうメール」が2.6%減の7億6800万個と減少したが、「ゆうパック」が2.2%増の1億3200万個、「ゆうパケット」が6.9%増の1億3600万個と堅調に推移。荷物全体では19億円の増収となった。

(出所:日本郵政、クリックで拡大)

料金改定によって収益基盤を固め、黒字転換を果たした矢先に発覚した大規模なコンプライアンス違反。その代償として背負うことになった年間65億円のコスト増は、日本郵便の経営にとって重い足かせとなる。7月以降の物数動向と、コスト増を吸収し、再び赤字に転落することなく事業を継続できるのか、同社の手腕が厳しく問われることになる。(鶴岡昇平)

日本郵便、軽バン代替と外部委託で「トラブルなし」

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