ロジスティクス日本全国にある6万社の運送業者はほとんどが中小、零細企業。こうした規模の小さい運送業者が企業譲渡などで吸収、合併を行うスモールM&Aが活発化している。こうした状況が生まれた背景や、今後の展開などについて、運送業のM&Aを多く手掛けるスピカコンサルティングの山本夢人氏に聞いた。
運送業界で盛り上がりをみせるスモールM&Aとは?
赤澤(以下A):2023年も年の瀬が迫ってまいりました。来年24年は、物流業界にとって非常に重要な年になるであろうと、皆さんも考ていらっしゃるんじゃないでしょうか?昨今の物流の世界は、トラック運送業を中心として、中小零細企業が占める圧倒的な比率の高さ、数の多さというのが特徴となっています。また、人手不足と同時に後継者不足といった問題も起きてきています。なかなかドライバーが集まらず、事業維持ができなかったり、同業他社と比較して競争力で劣ってしまったりする。さらには、後継者が確保できず黒字倒産が起きたりということもあります。
こうしたことを受け、運送業者の中には早めに次の手を打っておこう、積極的にM&Aを模索しておこうという動きもあるようです。こうした動きはコロナ前からある程度、顕著になってきていたわけですが、コロナ禍が過ぎた以降の最近は物流の需要がこれまでに増して大きくなってきています。こうした中で、物流、特に運送業界でM&Aに関してどのような動向の変化が見られるのか?、このあたりのところにフォーカスしていこうと思っております。本日は、物流のM&Aに大変お詳しいスピカコンサルティング・山本取締役を招きしております。
まず、山本さんは、もう最初から物流M&A専門にコンサルティングをされていたんでしょうか?
山本(以下Y):私が企業のM&Aのコンサルタントを仕事にするようになって8年ですが、前半の4年はさまざまな業種をお手伝いさせていただいておりました。キャリアの後半のここ4年ほどは、物流業界に特化してコンサルティングを行っておりまして、今は9割9分が物流業界のM&Aという形ですね。
A:9割9分!すごいですね。そんなに需要があるんですか?
Y:たくさんありますね。例えば、トラック運送業ですと国内に法人が6万社ありますが、公にされているだけでも、年間に100件のM&Aがあります。公表されてないものも合わせると、その倍ぐらい、200件ほどのM&Aが行われているかと思います。この数からすると、ニーズ、市場性はすごくあると感じています。
A:そんなに件数があるんですね!私の体感としては、ここ数年、物流業界、特に運送業の世界において小規模なものを中心に、ものすごくM&Aが活発になってきていた印象がありますし、まだまだこれからということなんでしょう。1991年の物流2法の改正前は運送業者の数は3万5000から4万社といった規模感だったので、そこから数が膨らんだ6万社の今であれば、年間200件という数字もまだまだ伸びそうですね。
Y:今後も運送業におけるM&Aの動きは活発化していくと考えますが、これにはいくつか理由があると思います。物流2法が改正されて、運送業者が2万社以上増えました。その頃に起業された方がそろそろ事業承継の年齢になってきているというのが一つあります。
A:30代で起業されていれば、今はもう60代半ばですね。
Y:運送業のオーナーの年齢的にも事業承継の時期に入ってきているわけですね。年齢を重ねれば重ねるほど、事業承継はできるだけ早くやらなければなりません。つまり今は運送業の世代交代が集中する時期に差し掛かってきているというわけです。これは非常に納得できる理由だと思います。
A:運送業という業態は中小や零細が多くて、事業承継を考えたときに、血のつながりのある子供に跡を継いでみたいな考え方になりやすい。創業者の年齢が60代半ば以降になってくると。やはり跡継ぎを探すわけですが、適当な人物を跡継ぎに考えたらいいんじゃないかと思うんですが。
Y:跡継ぎを考なければいけないのは、本当にその通りです。じゃあ誰がいいのかということですね。オーナーさんの心情として一番多いのはやっぱり親族、お子様に継いでいただくっていうのはすごく安心感もあり、社内でも理解が得られやすい方法ではあります。一方で、今の物流業界は多品種多品目小ロットが当たり前になり、すごく複雑化してきています。モノを運ぶっていうことだけをとってみても、今までみたいに単純にモノをA地点からB地点まで運ぶということだけでは顧客から選ばれなくて、もっと付加価値を求められる時代に入ってきている。そうした背景を考えた時に、「果たして誰が適任者なのかをしっかり考なきゃいけない」と考えるオーナーさんが増てきているのが実情ですね。
A:なるほど、事業承継した後のことを気にする人が増えてきたということですね。
Y:これから自分が経験した以上に難しい時代になっていくのに、それを果たして自分の子供にやらせていいものかどうかというところに疑問を持たれたり、躊躇(ちゅうちょ)される方というのはやっぱり増えているんですよね。
A:実際に山本さんが扱われたなかで、そういうケースもあったんでしょうか?
Y:あります。その会社は社長さんが70歳で、娘さんが40歳代という会社でした。娘さんは会社に入って10年ほど経っていて、すでにナンバー2の幹部として実質会社の切り盛りをしていました。社長は娘さんに会社を継いでほしいと思っていたわけです。
A:では問題ないですね。
Y:問題ないと思いきや、実はこの娘さんの方から相談を受けたんです。この方は独身だったのですが、今のこの人生がこれから20年、30年と続くことに、すごく悩んでたというんですね。簡単に言うと、それは嫌だというわけです。ご自身は女性ですが、運送業界は男性社会で嫌な思いをすることがあったとか。あとは、夜中電話が鳴るのが、心情的にものすごくしんどい、と。夜中に電話が鳴るということは、大きな事故やトラブルが起きたということです。そういうことが起きれば、それは社長である、経営者が対応しなければいけないわけで、そういう毎日が続くのかと思うと、やはりしんどいという気持ちがあったみたいです。
A:厳しいことを言うのは簡単なんですが、実際にその方が望んでない人生を送らざるを得なくなるというのは、残酷ですものね。
Y:娘さんから、当時の社長であるお父さんにその話をされまして、社長も今までそういう話を膝詰めでされたことがなかったので、びっくりされたんですが、娘さんの気持ちもよくわかるわけです。それに、そんな気持ちで続けたら、会社も良くなるものも良くならないだろうと。じゃあ、別の方に経営をお任せできないかということで、ご相談いただいたわけです。
A:これは、簡単に答えが出せませんよね。
Y:事業承継、ご親族に継がせるパターンもあれば、社員に継がせたいというパターンもありますし、第三者に譲る、いわゆるM&Aするという3つのパターンがあります。しっかり全部の選択肢を出して、比較検討して初めてベストの回答が出てくるはずなんですが、割と皆さん、あちらがダメならこちら、こちらもダメなら最後にM&Aといった形で、消去法で考られることが多いようです。
A:比較と消去法の違いということですね。
Y:事業承継という結論に至るのは難しいし、その過程でいろいろ考えなければならないことはありますが、比較検討をしっかりしたかどうかっていうところが、すごく大事ですね。そのための情報集めがまず大変だと思います。
A:さっそく一つヒントが出てきましたね。
運送スモールM&Aは売り手も買い手も積極的
A:読者の中には「スモールM&Aって、そもそも何ぞや?」という方もいるかもしれないので、物流業界のM&A事情がどういうものなのか、簡単にご紹介いただけますか?
Y:トラックを10台から100台ぐらい持っていて、1億から10億ぐらい売り上げている運送業の方が譲渡したいというケースが多いです。譲渡する理由としては、当然事業承継の問題であったり、後継者不在問題、最近ですと24年問題の対策を自分たちでやっていくのか、他社に任せた方がいいのかを悩んだ末に、やはり他社に任せたいというのもあります。課題が多い業界でもあるので、ほかの人に任せた方が会社がより良くなっていくのではといった理由をよく伺います。
A:従業員のためになるんじゃないかということですね。
Y:逆に譲り受ける方も、鼻息荒く、いろんな会社さんが活発にM&Aを模索しています。
A:鼻息荒いというのは、どういう会社が買い手になるんですか?
Y::規模の話でいうと、売上規模が譲渡企業の10倍ぐらいの会社さんですね。なので、トラックを30から40台代持たれている企業であれば、その10倍の300から400台のトラックを持っていて、売上が30億くらいの企業が譲り受けたり、というケースが多いです。
A:物流業界では歴史的に、こうした形のM&Aが多い傾向があったんでしょうか?それとも、物理業界ではもっと別のM&Aがあって、最近そういう傾向が出てきたということなんでしょうか?
Y::物流業界のM&Aはもともとこういうパターンが多くて、今はその数が増えてきているという形です。
A:なるほど。そうしたM&Aのうち表に出てくるものは年間100件程度で、表に出てこないものも含めると、山本さんの実感では全体で200件前後であるというわけですね。で、今後は2024年問題などの物流業界の課題を背景に、さらにスモールM&Aをしていく動きが加速していく、と。このスモールM&Aについて実例を上げながらお話しいただきましたが、先ほど話に出ましたお父さんの会社を継ぐのが嫌だといった娘さん会社は、規模感でいうとどのくらいの会社だったんでしょうか?
Y:売上でいうと3億くらい、トラックが30台程度あるような実運送の会社さんでした。
A:荷主がいなくて困っていたりとかは?
Y:地元で安定した荷主さんがいて、利益自体も出ている会社さんでした。
A:利益が出ているのに事業売却を検討しなければいけないというのは、非常にもったいない気もするわけですが、嫌なものは仕方ないですよね。継ぐ気がない人に会社を継がれても従業員の働く意欲が下がるのは火を見るよりも明らかですよ。その会社は最終的にはどうなったんでしょうか?
Y:こちらでいろいろと候補先を探させていただき、譲り受けたいということで3社が手を挙げてくれました。その中から1社を選ぶという流れです。
A:買い手側と売り手側、それぞれ何を一番基準として重視するんですか?やはり値段ですか?
Y:もちろんそういった経済的な面での希望はもちろんあるものの、やはり安心して渡せる相手かどうかというのはすごく見ていますね。社長は会社の映し鏡。会社同士のお見合いの場でトップ同士が話し合いをすると、会社のカラーがどうしても滲み出てきます。売り手の側としては、自分たちの会社のドライバーや従業員の皆さんとの感覚が合うかどうか、文化がマッチするかなどを、会話の中で探っていかれていました。
A:今後も物流業界のスモールM&Aが件数としても割合としてもさらに加速していくという見通しを山本さんも持っていらっしゃるし、私もそうなる気がしています。こうした傾向が加速する理由というのは、簡単にいうとお尻に火がついてるということではないんでしょうか。つまり急がなきゃいけない。急いで売らなければいけないし、急いで買いたい。そういった売り手側、買い手側の事情が相まって、スモールM&Aの増加ということになっていくのかなと思うわけです。ではなぜそうなっているのかという要因をいくつか考えてみると、その一つのきっかけとしては、コロナがあるんでしょう。新型コロナウイルスが5類に移行された後、急速に観光客が戻ってきて、物流も活発になってきましたよね。それまでの数年間のコロナ禍と比較した場合に、明らかに社会の状況に変化が訪れています。コロナ以前に戻ったのかはわかりませんが、この一連のコロナの影響というのはあるんでしょうか?
Y:コロナが始まった当初は、コロナの影響を受けた会社が事業承継を検討し始めました。そうした他社の動きに気付いた他社のオーナーさんが、うちも早めに準備しておかなくてはということで、動き出していました。直接コロナの影響を受けていなくても、影響を受けた他の会社の状況を見て、あらゆる状態に備えが必要だということで、情報を集めるという会社さんが増えました。
A:つまり、運送会社の、経営者をはじめとする人々が、対岸の火事とは思わなくなってきた。明日は我が身と思うようになったわけですね。
Y:そうです。それも重要な要素だと思っています。
A:先ほど選択肢というお話がありましたが、比較して選べるという状況から、だんだんと選択肢が減ってきて、消去法的に判断して、最後はもう言い値で売るしかないといった状況を避けるためにも備えが大事ですね。
Y:コロナ禍の前ですと、運送業でも黒字企業の譲渡相談が多かったんですよ。運送業だと、全体の平均をとると赤字になるという業界ではあるんですが、コロナの前は黒字企業が、自分達が選べる立場のうちに動いておきたいということで、企業承継に動く方が多かった。先ほどの父娘さんの運送会社の話も、売りに出す時点で利益が出てましたし、すぐに譲渡しなければいけないわけではなかった。
A:売り手側とすれば、ちゃんと高く買ってもらおうと思えば、利益が出てるうちに、売れる商品価値が高いうちに売りたい。買い叩かれないようにしなきゃいけないというのが当たり前だった。
Y:そうなんです。でも、今は違います。今はやはりコロナの影響を受けた会社が世の中的に多いですね。もちろん、黒字企業が同じような理由で相談にくることもあるのですが、やはりコロナの影響で、いよいよ自分たちの力だけでは心配だという相談が増えました。そういう会社の場合は、当然赤字に陥ってしまっている場合が多いです。
A:なるほど。今お話を伺いながら思ったのは、赤字企業側は、どうせ高く買ってもらえないから、急いで売らなければいけないという、焦りみたいなものがM&Aに走らせるのでしょうか。今回話題にしている運送業界のスモールM&Aは、それによって直接的な利益の拡大を求めるために行うものなんでしょうか?
Y:運送業に関しては、実はそうではないんですよね。
A:やっぱりそうですよね。私も運送業界のM&Aは他の業種のM&Aと違うところがあると感じていました。これは運送業界のM&Aを専門に手がけている山本さんだからお話しいただけるところかと思うので、ちょっと詳しめに教ていただいてよろしいですか?
Y:まず、運送業界、物流業界の企業というのは、決算に載っている数字だけじゃない価値というのがいろいろとある業界なんです。例えば、どんな荷主さんと取引をされているのか、どんな立地にあるのか、コンプライアンス回りがどうなっているのかなどです。こうした価値は、決算書を見ても全然現れないところなんですね。今例に挙げたような価値があるから、このくらいの条件で売りに出せる、買ってもらえるということもあるわけです。このあたりが他の業界のM&Aとは根本的に動機が違いますね。
A:ひょっとしたら将来、ここ数年以内の間に売るかもしれないという方が見てらっしゃるかどうかわかりませんが、その方たちが売る前にどういうところに気をつけたらいいというアドバイスはありますか?
Y:どこに気をつけるべきなのかを知っておくのが大事といいますか…。
A:なんだか禅問答みたいになってきましたが、でも確かに自社の強みや弱みを知っておいて、何を変えなければいけないかをあらかじめ把握しておくことは必要そうですね。
決算書だけではわからない運送業者の「企業価値」
Y:以前お付き合いした会社さんで、5年ぐらいじっくりお付き合いをして売却されたお客様がいまして。事業承継は売りたいからすぐ売るということももちろんあると思いますが、世の中の流れとか、経営者のライフプランなどいろんな要素があって売却のタイミングが決まるものです。なので、売却のタイミングも一概に今がいい、5年後がいいとは言えなくて、もろもろの条件を検討した上でないとわからないことではあります。オーナーさんのライフプラン一つとっても個人個人で事情はばらばらです。私たちはM&Aのコンサルティングのほか、バリューアップコンサルティングというのを事業として行っています。数年後を見据えて企業価値を向上させ、企業価値が上がったところで譲渡したいというお客様もいらっしゃいますので。では、それまでにどういうことをすれば、それにかなう状況になるか、企業価値が向上するのかというところのお手伝いをさせていただくこともあり、そういうケースでは数年単位でのお付き合いになります。
A:M&Aのコンサルティングというのは、だいたい売り手側に寄り添うものなんでしょうか?
Y:いえ、M&Aの仲介では両社の間に立つ立場になるので、いざ交渉が始まれば、完全に中立に立つのが大原則。M&Aを行うためにどうしていけばいいかみたいなところは事前に助言はさせていただきますけれども、その時の評価はどちらかの味方をするのではなく、フラットにやります。
A:M&Aはなんらかのサービス事業をしている会社の売り買いということで、この場合運送会社が売り物、商品になるわけですよね。この商品の価値を上げるのは、コンサルタントにとっては当たり前のことなんでしょうか?
Y:当たり前でもないですね。そこまでやっているのは、実は私たちの会社くらいかと思います。
A:とても手間かかりますもんね。
Y:そうしたことをするとなると年数がかかります。数年かけてのお付き合いになるので、ビジネス上の考え方の相違で、お付き合いできる、できないというのはもちろんありますが。
A:ちなみに、コンサルタントの方は1年に平均して何件くらいM&Aの案件を扱ってらっしゃるんですか?
Y:平均的な数字でいうと、年2件から3件ぐらいでしょうか。
A:山本さん個人もそのくらいの件数を扱う感じですか?
Y:私の場合は平均すると、年8件くらいでしょうか。
A:ほかの人の4倍ですね。
Y:年間で17件という年もあったので、あくまで平均でですけど。
A:それもすごい数字ですね。
Y:その数を扱えたというのは、物流、運送業という業種に特化してノウハウを鍛え上げたというのが大きいと思います。検討の際のいろんな論点であったり、企業や案件を見るべきポイントというのがわかってきますし、M&Aの相手企業を探すスピードも、やっぱり業種の専門性を持ってやった方が間違いなくうまくいきますよね。そういう要素がかみ合ったこともあって、私の場合は案件の数字が伸びたのかと思います。
A:市場で売りたいという人が増えたとことも関係するんでしょうか。
Y:それはもちろんありますね。
A:ここ数年で、買い手側の意識の変化というのはありますか?
Y:新聞やメディアで頻繁に扱われるようになって、M&Aという言葉を見ない日がないんじゃないかという感覚もあり、皆さん、興味を持つようになったのは大きいですね。一昔前だと、M&Aは大きな会社がやるものだと思ってたところがあるかと思いますが、今や中小の経営者の方が「自分たちも事業を譲り受けられる会社なんじゃないか」と気付いてきていますね。どこかの企業が売りに出たら、自分たちも手を挙げていいんだというマインドが育っている感じがします。私たちにお問い合わせいただく運送会社の中で、譲渡したい企業が1つあると、買いたいというお問い合わせが9件あるというような状態です。
A:買い手過多。売り手市場なんですね。
Y:今のところはそういう感じですね。
A:10倍ってすごいですよね。そうなると以前に比べて売値も高く評価されるようになってきてるのでしょうか?
Y:売却の金額は上がっています。今はM&Aで譲渡したい方が増えています、案件が増えているとなれば、譲り受ける側イコール買う側は選り好みできるということですので、需要と供給は近いうちにどこかで逆転していくのではないかと思います。
A:来年4月1日に運送業界において改善基準告示が変わりますよね。いわゆる、トラックドライバーの所定内労働、年間の総労働時間が960時間に制限されます。それによって、今まで運べていたものが運べなくなるんじゃないかという懸念があって、日通総研(現:NX総合研究所)がそこを調べたそうです。調査によると、24年の段階で、14~15%輸送力が足りないそうです。30年になると30%を超えるぐらい足りなくなってくると。こうなると日本の物流は崩壊するのではないのかというのが、物流の24年問題ですよね。そこで、先ほどの需要と供給によって運送業のM&Aの動向が決まってくるのだとすればどう考えたらいいのでしょうか?24年問題で経営が成り立たなくなった会社、つまりドライバーが確保できなくて売らざるを得ない会社がどこも売りに出るだろうから、加速度的に売り手が増えて、供給過剰になっていくんじゃないか?24年問題は運送業のM&Aに何らかの影響があるとお考えですか?
Y:物流、運送業のオーナーさんの多くが、24年問題の対策を自分たちでやっていくのか、それとも他社と一緒に組んでやっていくのかというところが、一つの譲渡理由としてありますので。直近の24年4月までに譲渡したいという案件がすごく増えたのは事実です。
A:24年4月までに“譲渡しちゃいたい”。
Y:そうなんです。それ以降、自分たちで対応するアイデアもなければ、手間もかけられないので、早めに他社さんに買ってもらいたい。逆に、実は譲り受ける方、買う方も同じような悩みがあるんですね。ある程度の規模の大きな会社でも、拠点がなくて、長距離運行になっている部分が多分にあるので、24年4月までに他社を譲り受けて何とかしたいという鼻息の荒さがあるんです。
A:譲り受ける目的、理由は、自社の輸送力の確保ということでしょうか?
Y:そうですね。そのほかにも、管理基準に則るようにするためには間に拠点を持っておかなければ仕事ができないので、いい案件があれば、高くてもいいから譲り受けようみたいな方もいらっしゃいます。
A:つまり24年4月が近づくにつれて、売り手側も買い手側も、相手がいるうちに早く何とかしたい。今が年間200件のM&Aを扱われてるとして、24年はどのくらいの件数になりそうでしょうか?
Y::3~4割は増えそうな気がしています。社内での成約件数の上がり方を見ても、数年前は仲介ができる大きな会社さんであっても、10件くらいだったものが去年30件くらいになっていますので、その傾向を見てると、やっぱり100件くらい増えても驚かないですね。
A:年間300件というのは結構なインパクトがありますよね。スモールM&Aだけで、年間で3000社がなくなるってことですよね?私も立場上、公平であらねばいけないと思うので伺うんですけれども、運送業のM&Aで山本さんのようなM&Aコンサルタントに仲介などをお願いするケースは割合としてはどうですか?
Y:6割くらい?半分は超えてるような気がしてます。いろんな検討をした結果依頼してくるというのも含めてですが。駆け込みというか、他に選択肢も検討できず、というケースですね。
A:売り手側も買い手側もそうかもしれませんが、いかに選択肢を増やすかというのが、有利にM&Aを進めるポイントかなという気がします。だとすれば、そういう選択肢についての知見が豊富なコンサルタントの方に、余裕のある初期から相談する方がいいんじゃないか?と思うのですが。
Y:おっしゃる通りです。
A:来年の4月までM&Aの案件がすごく増えて、競合がとんでもなく増えてしまうわけですよね。だから、本来売りたい値段よりも安く売らざるを得ない市場環境になる可能性があるわけですよね。それがはっきり予想できるんだから、今からその手を打つ。そのうちの一つとして、M&Aコンサルタントを活用していくべきですよね。今現在で、60%の案件がコンサルタントを介しているわけですし。ではM&Aコンサルタントに相談したい場合は、どういうルートがあるんでしょうか?
Y:直接お電話をいただく方はいらっしゃいますね。新聞などでセミナーの告知が出てたりもしますので、そういうのを見てお問い合わせをするというのもあるかと思います。あと、経営者の方にはコンサルティング会社からDMが届いていたりするので、そこに連絡をしたりとかでしょうか。今の時代、毎日いろんなお手紙もらったり、電話やファクスなどがたくさん届きますよね。
A:いわゆる営業ですね。
Y:コンサルティング業界では専任で仕事を請け負いますので、ノウハウのないところに頼んでしまうと、1、2年はその会社だけにしか相談できなくなってしまいます。
A:運送業のM&Aならではのノウハウにも色々あると思いますが、具体的にノウハウどう変わってくるのかを一例挙げていただけないでしょうか。
Y:先ほどちょっと触れたように、どんな荷主と付き合っているのか、どんなエリアにあるのかといったことで条件が変わってきます。そのほか、倉庫がある土地を所有しているのかしていないのかなどもありますね。何がどうなっているのがいいのかというのは、譲り受ける側の会社の価値観、買い手のニーズによってもちろん変わってきますが、そもそもそうした情報を持っているのかどうかで算定価格が違ってきます。企業価値を図る目安の一つとして株価というものがありますが、株価と同じように決算書の数字だけ見て、運送業の企業価値は測れません。決算書の純資産や利益がこれだから、利益の何年分かを足してこのくらいの数字で買いますというやり方をしてしまうコンサルタントというのは実際多いんです。でも、それらの数字に現れない価値を、正しく市場価値として判断し、評価に反映できるかというところがすごく大事になりますね。なので、同じ売上、同じ車両を持っていたとしても立地で価格が変わってくるというのはありますし、直請けなのか、2次請け、3次請けなのかで違いますし、例えば同じ利益が出てたとしても、企業の価値は変わってきます。
A:ものすごくよくわかります。例えば10人ドライバーがいたとしても、30年間連続で無事故無違反の会社と、事故ばっかりで、昔は100人いたけれども、今30人に減ったという会社だと、企業価値が全然違いますよね。後継者の問題などでやむを得ず売らざるを得ないけれども伸びている、という会社であれば、買い手にとっては当たりですよね。
今のお話を聞いて思ったのは、果たしてうちの会社いくらで売れるんだろうって、気になって仕方がないですよ。逆に言うと、買い手側もどうすれば適正な価格を提示できるのか?買い手側の意向からすれば、少しでも安い方がいいのかもしれないし、でもそうでもないかもしれない。決定力っていうのが、単に安い高い以外の要素の方が今は強いとおっしゃられたので、買い手側が意識すべきポイント、重視すべきポイントみたいなのもあるかもしれないですよね。今日は時間がなくなってきてしまったのですが、山本さんにまたそのあたり詳しく教えていただきたいですね。
売り手はどういうポイントを重視しないといけないのか?買い手はどこに気をつけないといけないのか?単に、安い高いだけじゃない。ポイントというのがあるはずなので、そのあたりのところを深掘りしたいですね。LOGISTICS TODAYの立場としては、売り手も買い手も両方がウィンウィンの、業界にとって質が上がっていくM&Aをサポートする取り組みの一環として、山本さんのお力をお借りしてぜひやらせていただきたいと思っております。山本さん本日はどうもありがとうございました。