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大型企画「物流2024年問題対策会議」

「生命線」としてのトラック運送、農水省が対策解説

2024年1月1日 (月)

話題2024年問題と切っても切り離せない業界が、農産物、食品流通だ。23年12月15日に開催された、LOGISTICS TODAY主催の大型企画「物流2024年問題対策会議」では、農林水産省食品流通課の戎井靖貴・卸売市場室長が登壇し、農産物や食品流通の現状、その対策について解説した。

▲農林水産省食品流通課卸売市場室長の戎井靖貴氏

戎井氏は、「農産物・食品流通は24年問題に耐えられるのかー農林水産省が示す対応策ー」と題して講演した。

戎井氏は、同省で24年問題への対応を担当する。JAなど産地や運送会社などと意見交換を進めながら、取り組みを推進しているという。「農産品については、トラック輸送におおよそ97%を頼っている」状況を示し、「トラックは生命線だ」と語る。

特に、生鮮食品の輸送の特徴として、手積みや手下ろしなどの手荷役作業が多いこと、出荷量が直前まで決まらないこと、市場や物流センターでの荷下ろし時間が集中することで待ち時間が長いこと、産地が消費地から遠く、長距離輸送が多いことなどを資料で示した。

戎井氏は「農産品は、北から南まで、季節ごとにリレー方式で生産している部分もある。季節ごとに産地が変わっていく。その意味で、長距離輸送が不可避な業界になっている。1000kmを超えるような長距離輸送もある。24年問題には、しっかりした対応が必要だ」と業界の実態を説明した。

だが、トラックドライバーについて、おおよそ40代か50代の年齢層が一番分厚く、この層のドライバーに頼っているのが現状。一方で、20代は10%もおらず、個別の運送会社に聞き取ると、20代は日帰りが良く、家に帰宅できない職には就きたくない傾向があるという事情がネックになって新入社員が入ってこないという。

こうした事態に、農水省はどう対応するか──。

戎井氏は「今まで通りの運送をしていては、なかなか難しい。運行時間は減らせない。1運行当たり、3時間生じている荷待ち、荷役時間を減らしていくしか方法はない」と語る。

昨年6月に政府がまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」では、荷主、物流事業者における物流負荷の低減策として、荷待ち、荷役時間の削減などが盛り込まれた。他にも、鉄道や内航海運を活用するモーダルシフトの推進などが提起されているが、農水省でも4つの柱を掲げて対策に臨む。

トラック輸送の対策として、まずは、中継輸送や集荷、配送と幹線輸送の切り分けによる、長距離輸送の削減を目指し、戎井氏はこれを「マラソン形式をリレー形式に変えてつないでいく」と説明する。

さらに、標準仕様パレットの導入や、スマートフォンで卸売市場などにトラックの到着時間を予約するトラック予約システムの導入を進めるなどして、荷待ち、荷役時間削減の実現を目指す。JAなどでは共同輸送や段ボールサイズの標準化を進め、積載率の向上と大ロット化を図ることも重要なテーマとなる。

また、トラック輸送への依存度の軽減を図るため、鉄道や船舶へのモーダルシフトへの転換を進め、「コールドチェーンも、しっかり確保していく」(戎井氏)ことにも力を注ぐ。

課題解決に向け、全国で取り組み始まる

中央卸売市場は全国に60か所以上あり、地方市場では1000を超える。さまざまな業者が行き交い、ネットワークが広がる。

講演では、全国の現場で実際に取り組まれている事例も紹介された。戎井氏が「大変良い共同輸送の事例だ」と取り上げたのは、JA高知県園芸流通センター。共同輸送だけでなく、積載率を向上させたり、システムを導入したりしているほか、幹線輸送と地域物流を分離するなどの取り組みも実施している。

同センターでは、県内全JAの荷物を一挙に集める一元的なパレット共同輸送を00年から始めている。小口多品目で積載効率の悪さを解消するために、JA側が主導して運送会社2社と連携してセンター機能を構築した。

地域の集荷については、延べ100車が午前中から遅くとも午後3時までに荷物を集める。午後3時以降から同6時までの間に、センターで出荷先市場ごとに60〜70車にそれぞれ載せ替える。センター内は、一定温度に保たれ、作業はフォークリフトや自動搬送機などで自動化され、効率化されているという。

さらに、センターと各JAの出荷場ではデータ連携ができており、前日のうちにどれくらいの荷物が来るかが分かり、調整することが可能で、配車計画もしっかり立てられ、市場ごとにほぼ満車で出荷できているといい、戎井氏は「積載効率を最大化できている」と話す。

大分青果センターにも言及した。同センターでは、福岡県境などの地域を除き、大分市を中心にしたJAグループの荷量の4割ほどを集めている。加えて、センター敷地に隣接している貨物を積んだトラックごとなどで輸送できるRORO船のターミナルを活用して、モーダルシフトも推進しているという。

大阪市中央卸売市場本場では、取り扱い数量の増加などに伴って、売り場施設が手狭になったことなどが原因で、場内が混雑化。野菜卸売場で荷待ち渋滞が2〜3時間を超えるケースが慢性化していた。

そのため、搬入トラックが荷下ろし場所にスムーズに移動できるよう、産地トラック専用レーンを設置。荷下ろし後のトラックがスムーズに退場できるよう、駐停車禁止レーンを設置して、退場の動線を確保した。戎井氏は「渋滞の解消が進んだ」と評価した。

他省庁とも連携し、重点施策を推進

農水省の対策の重点領域について、戎井氏は「そもそも物流を効率的に運ぶため、パレット化が十分にできていない部分がある」と指摘。トラックドライバーらの負担軽減のためにも「荷下ろしなどに相当時間がかかり、物流が滞ってしまう」状況の改善を目指し、パレット化の推進を第一に挙げた。

次に、積載率を上げるために、できるだけ共同輸送や、共同した物流を考えていくことを重視するとした。運賃は、人件費や燃料油の価格などが大きく影響する一方で、戎井氏は「積載率を上げることで運賃、コストを抑えることもでき、荷主とドライバーとがお互いにウィンウィンになれる」と指摘した。こうした観点は、従来、運送会社などに任せっきりになっていたが、農水省は経産省や国交省とも連携した省庁横断的な取り組みを進めていくという。

また、24年問題を踏まえて、発着荷主企業などに、物流の適正化や生産性向上を目指す「自主行動計画」の作成を促していく施策については、戎井氏は「予算面でも支援策を用意している。相談していただければ、伴奏型として一緒に取り組みを進めることもできる。課題解決に向けてしっかり対応していく」との方針を述べた。

戎井氏は、24年問題について「物流の担当だけでなく、例えば営業の担当、夜間に荷受けをする担当など、皆で物流のことを理解し、お互いにコミュニケーションをとって、課題があれば改善していくことが大事だ」と語る。

「事例の紹介はまだ十分ではなかった。各地域で紹介していき、良い事例を参考にしてやっていただきたい。個別に相談も乗っていく」と、全国での好事例を横展開していく取り組みにも力を入れていく。