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赤澤亮正自民党トラック輸送振興議員連盟幹事長×鎌田正彦SBSホールディングス社長

新年物流対談、どうなる2024年の官民物流対策

2024年1月1日 (月)

話題3か月後に迫った改善基準告示の改正。荷主、元請け、運送事業者はそれぞれの立場で対応を進めている。いよいよ「2024年問題」の新年を迎えた今、物流業界を先導する者たちは何を思うか。

LOGISTICS TODAYでは自民党トラック輸送振興議員連盟幹事長を務める赤澤亮正財務副大臣(衆議院議員)と、大手物流企業SBSホールディングスを率いる鎌田正彦社長を迎え、官民それぞれの立場から24年問題をどう捉え、立ち向かおうとしているのかを聞いた。

A:赤澤亮正氏(自民党トラック議員連盟幹事長/財務副大臣)
K:鎌田正彦氏(SBSホールディングス社長)
M:赤澤裕介編集長(モデレーター)

M:こんにちはLOGISTICS TODAY編集長、赤澤でございます。本日は新春特別企画ということで、自民党トラック議員連盟の赤澤亮正衆議院議員、SBSホールディングスの鎌田正彦社長をお迎えしております。このお二人に、24年問題について忌憚(きたん)なく語っていただこうと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

A、K:よろしくお願いいたします。

M:実はこの収録は23年12月に行っているんですが、12月は物流業界はまさに繁忙期。しかも24年問題を翌年に控えた繁忙期という、緊迫感のある時期でもあります。24年問題で物流の世界はとても揺れているような状況です。最近は政界を巡るメディアも騒がしくなってきておりますが、赤澤議員の周りはいかがでしょうか。

▲(左から)SBSホールディングス社長の鎌田正彦氏、自民党トラック議員連盟幹事長の赤澤亮正氏、LOGISTICS TODAY赤澤裕介編集長

A:実は今回の対談のお話をいただいた時点では、私は自由民主党の政務調査会長補佐であり税政調査会の幹事という身分でして、それを踏まえてお話をさせていただければと思っておりましたが、急きょ、財務副大臣就任という事態になりました。ということで若干立場が変わってお話をさせていただく形になります。

それから現在、政府・自民党が国民の皆さまから大変なご批判、お怒りを受けております。党内の派閥の裏金問題が発覚いたしまして、今大変なお叱りをいただいているところです。私自身も自民党の所属議員ですので、先頭に立って党の立て直しに努めてまいるとともに、政治資金についても、国民の皆さまの不信や疑念を払拭していこうと考えております。そうやって信頼を取り戻した上で、今日お話しするような24年問題の対応をしっかりやっていきたいという思いで今日この場に来ていることを、冒頭に申し上げさせていただければと思います。

M:連日、自民党の裏金問題の報道があり、先導者たる政治家の皆さんにクリーンであってほしいという思いは多くの方が持っているかと思います。しかしまた一方で、24年問題対応でゆるがせにできない政策、施策が目白押しになっていることもあり、物流業界としては、関連法の法制化などのスケジュールに影響しないだろうかという不安もあります。

A:先ほど申し上げたような政治への信頼を失うような問題が起きると、なかなか国会での審議が進まないこともあります。24年問題解決のための法案審議に影響が出たりということにならないためにも、トラック業界の皆さまのみならず、国民の皆さまにご迷惑かけないようにしっかりやっていければと思っております。

M:日本を代表する物流企業、SBSホールディングスの鎌田社長も、経営者のお一人としてこの今の政府の状況、あるいは24年問題の行く末を不安に思われてたりされますか?

K:24年問題というのは、実は24年からスタートして、そこから永遠に続いていく問題だと思っています。これは物流業界の力だけではどうしようもない問題で、政府を巻き込み国と一体となって解決していくしかありません。元々人手が集まらないなかでの24年問題ですが、こうした人材不足というのは、来年以降も続いていくのは確実です。外国人労働者の問題などもあり、赤澤議員や政治の力を動かしていくということは非常に重要ですので、今日はそのあたりの話を伺えればと思っております。

トラック業界を「稼げる」「持続可能な」業界に

M:この配信は24年の1月1日、0時に配信開始になるわけですが、物流企業の経営者の方も、いつもの年とは違う感じで24年の元旦を迎えられるんじゃないかなと思います。

24年問題というのは直接的には改善基準告示の改正によって、トラックドライバーの長時間労働が制限され、これによって起こるさまざまな問題を総称して24年問題と呼んでいます。政府はなぜ、このような災害級に影響のあることをやろうとしているのか。まずは、24年問題は天災ではなくて政府が引き起こしているということ、そしてそれは物流業界に悪意があってやっているのではなく、目的があるということ。これを理解しておくことが、問題への対処の第一歩かと思います。

A:最初に申し上げるべきなのは、まさにご指摘のあった時間外労働規制です。トラック業界では今までこれが規制されていませんでしたが、24年4月からは残業時間が制限されます。ほかの産業では残業は年に720時間までとなっていますが、トラック業界の特殊性を考慮して960時間ということで、規制が初めて導入されます。

実際、各方面からご不満ご批判の意見はいただいています。その多くは、ただでさえ人手不足で苦労してるのに、その規制のせいでトラックドライバーの一人当たりの労働時間が減るんだから、状況が悪化する一方だろうというものです。実際なんの手も打たなければ、24年4月以降には、今日本の物流業界が提供できている輸送力は14%不足すると言われています。同じ状態が続けば、30年には30%不足する。それがわかっていてなぜ残業時間の制限をするかといえば、今すぐにでもそういった規制をしていかなければ、物流業界で働こうという人がますますいなくなってしまうからです。

統計を見ると、物流業界は全産業平均と比べて労働時間が20%長い。それに対して賃金はというと、全産業平均と比べて10%少ない。これから人口が急減少してどんどん人手不足になる世の中で、全産業平均と比べて2割労働時間が長くて1割賃金が低い業界に、これからも人が来てくれるだろうか?人手不足がますます進む一方なのは明らかです。労働時間を長くして多く稼ぐのではなく、質の高い労働で多く稼ぐ方向にしていく必要があります。

以前ですと、2〜3年は寝る間も惜しんで宅配便の仕事をして資金を集めて独立して事業を興そうという若い人たちが、物流・運送業に入ってくるということがありましたが、今はそれほどのうまみがない業界になってしまっています。

24年問題にまだご理解をいただけていない一部の物流業者の方からは、時間外労働規制を入れるのはやめてくれ、そんなことするから余計に人手不足になるなんてことを言われます。しかし、この規制をやめてしまったら、それこそ物流業界は最後です。働き方改革がどんどん進むほかの分野とますます差がついて、パワハラが横行する過酷な労働のブラックな業界として、物流業界はどんどん人が来なくなってしまう。それでは業界の発展は図れません。

「働きたい人には好きなだけ働かせればいい」というのも、一見もっともらしい意見ではあります。しかし、それを認めたら最後、働き手よりも会社のほうが立場が強いので、それほど働きたくない人も含めて過酷な労働をすることになるのは明らかです。国全体と物流業界の持続的な発展、国民の豊かで安全・安心な暮らしと幸福を実現していこうと考えると、政府としては今、このタイミングで規制をしていくしかないわけです。

ここで働き方改革をやらないと、トラック業界はますます人が入ってこない業界になっていってしまいます。ほかの業界、ほかの産業分野では働き方改革進んでいってそちらの方が働きやすいととなれば、トラック業界、物流業界に入ってくる人の数がどんどん加速度的に減るということになってしまう。

M:トラック運送業界は稼げる業界だという時代が長く続きましたが、鎌田社長が創業されたのはその頃では?

K:僕が最初にこの業界に入ったのは40年ほど前ですが、当時はものすごく給料が高かったんです。しばらくトラックドライバーをやって、それこそ寝る間も惜しんで頑張れば、独立するぐらいのお金が十分稼げたんです。しかし、運賃がどんどん下がっていって、物流の規制緩和で会社が増えると、ますます下がりました。

今、タクシー業界と比べると、トラックドライバーの方が年収が100万円ほど低い状態です。なぜタクシードライバーの方が高いかというと、あちらは運賃を国が決めているからです。トラックよりも給料がいいのに、それでもタクシー業界はドライバーが足りない。トラック業界は右肩下がりで何十年も給料が下がっていて、もっと給料が安い状態です。ドライバーを確保するなら、とにかく給料を上げることが一番大事だと思ってます。給料を上げて、それに応じた価格転嫁をした適正な運賃をお客さんに求めるのが一番です。つらい思いをしながら働いている人たちの年収が低すぎます。業界ごと、車種ごとの最低賃金を決めたり、運賃を上げていかないとこの状況は何も変わりません。

M:これは物流企業の経営者の生々しい意見ですね。経営者として24年問題というのは避けて通れない問題ということで、受け入れられているのでしょうか。

K:これについてはしっかり立ち向かっていきたいと思っています。ドライバーや社員の待遇を改善して、この業界に入って良かったと思ってもらいたい。社員やその家族の皆さんがハッピーになれる業界にしたいという思いがあります。そして、昔のように稼げる業界にしたい。それが僕の本当の気持ちです。

A:賃上げの話になると真っ先に返ってくるのが、原資がないという声です。価格転嫁もできない、と。これだけガソリン代、軽油代が上がっているのに、転嫁しようとしても荷主が「うん」と言ってくれない状態でどうやって賃上げするんだ、そんなことやれば会社が潰れちゃうよという声が圧倒的に多いんです。

トラック業界が持続的発展を続け、ドライバーの給料を上げていくためには、生産性を上げていくしかないです。機械化やデジタル化を進めて、一人のドライバーがやれる仕事を増やしていって、その結果として賃金も多く取ってもらうということを実現していかないと、うまくいかないだろうと思ってます。

最低賃金については私も同じ意見で、成長全体化に関する骨太方針を議論する時にも何度も意見を出してきました。今の最低賃金制度というのはひどいもので、今の最低賃金だと暮らしていけないわけです。鳥取県だと最低賃金は900円で、年に2000時間働いても年収180万円。ところが、我が国で言われているワーキングプアの水準は年収200万円なんです。ワーキングプアは、年に200万円以下しか収入がない、もう暮らしていけない水準を指していますが、鳥取県の最低賃金だとそれよりも20万円も少ない。国民が、生活保護を受けないで自分で働いて暮らしを立てるという、たいへん尊い決断をしても、今の最低賃金だと暮らせない。私は、そんな状態でずっと国民を放置しているのはたいへん恥ずかしいことだと思っています。最低賃金の下限を定めるような法律があってしかるべきでしょう。

実は衆議院法制局とも協力して、条約にも違反しないでできる形の法案を作ってあります。作ってはあってもなかなか現実化に向けて動いていかないので、私はちょっとイライラしてるのですが。鎌田社長もおっしゃった、業界ごとの最低賃金があってもいいんじゃないかというご指摘は本当に傾聴に値すると思います。

経営者と労働者と有識者で相談して賃金を決められればいいですが、今のようにその3者で協議すると、なぜか暮らせない最低賃金になってしまう。最低賃金は少子化対策の原因でもあるし、女性活躍の敵である男女の賃金格差の原因でもあります。賃金格差は最低賃金よりも高い金額で生まれるので、最低賃金をどんどん上げてしまえばその男女の格差も今ほど生じにくいはずです。子どもを作れない、結婚ができないというのも、結局は所得が少ないのが問題です。所得が少ないから子どももたくさん作れない。最低賃金の問題は少子化対策や女性活躍など、国の最優先課題にも関する問題なので、これはトラック業界のためだけということではなく、取り組んでいく必要があると思っています。

荷主にも、燃料代が上がったら運賃に価格転嫁する必要があることを理解してもらうための努力は続けていきます。これは、法整備なども含め、物流やサプライチェーンがどういう構造で成り立っているのかをちゃんと理解してもらい、サプライチェーンが円滑にまわっていくためには下請けの人がどのくらいの収入が必要で、そのためには運賃をいくら払うべきなのかなどを認識してもらいたい。物流と荷主であればやはり荷主の方が力が強いので、その方たちの理解なしには全体としてうまくいくわけがありません。時には健全な圧力を掛けることも含め、状況を改善していきたいですね。

とにかく普通に暮らせる賃金を国民に用意をする。その前提として価格転嫁を含めて最大限、各企業が賃金を上げるための原資が得られるのようにしていきたい。そのなかには、最近よく言われるDX(デジタルトランスフォーメーション)による業務プロセス改善も含まれます。実際に、DX導入で社員が半分で済むようになった業界もあります。政府からDXやその導入プロセスの典型的なものを紹介したり、わかりやすいカタログのようなものから選んでいけるようなもの作って、DX導入を後押ししていきます。

M:DXの導入も政策パッケージなどに含まれている話題ですね。

A:物流問題については政府としても強く意識をしていますので、総理から23年3月31日に物流改革に向けた政策パッケージを作ってほしいという話がありまして、6月2日に政策パッケージもでき上がっていますし、そこから抜き出した物流革新緊急パッケージも10月6日に出されており、DXも含め、できるものから手をつけていこうということになっています。

パッケージの中には、私も力を入れている高速道路のトラック速度規制の引き上げも入っています。今は車両も安全になってきてますので、そのほかの車が100キロで走ってるのに、トラックが80キロでいいのか、という議論があり、警察が道路交通法に基づいて安全を確認し、速度引き上げを検討するという流れになっています。そのほかにもモーダルシフトや物流拠点のデジタル化、パレット標準化など、物流業界が仕事をしやすい環境づくりをしていきます。また、国民の意識を変えてもらって再配達率を下げるために、ポイント制の導入なども検討しています。

あと、規制としてはトラックGメンの監視体制強化を進め、11〜12月には集中監視月間を実施しています。

業界団体としてはの全日本トラック連盟が法律改正に挑んでいて、標準運賃の告示なども行われています。実際は、そこで提示されているような標準運賃にはなっていないんですが、こういう荷物をこうやって運べば標準運賃でいえばいくらになるなど、具体的に示されています。荷待ち、積み下ろしなども含めて、運送にかかった時間と労力を元にした運賃をしっかり提示されており、これはかなりの努力をされていると受け止めています。全ト協を含め、業界としてやられている努力については我々もできる限りのサポートしていますが、まだまだ足りていないのが実情。引き続き後押しをしていきたいと思っています。

M:政府の支援策というのは、今の物流産業が持続可能な産業に変貌し、うまくソフトランディングできるようにという施策かと思います。それはそれとして理解できるのですが、目下、物流企業ではすでに人手が足りなくなってきているという状況もあるんじゃないでしょうか。鎌田社長、外国からの人材をもっと確保するなど、人材確保の面の課題で感じられていることはありますでしょうか。

K:先ほど最低賃金をどんどん上げていくというお話がありましたが、これは私も正しい方策だと思います。岸田総理が最低賃金を1500円に向けて上げていくとおっしゃってますが、それをやることによってドライバーの給料も上がっていくわけです。ただ、最低賃金が1500円になった時には、今の物流のやり方だと、もう利益が出ません。今はロボット化などがとても進んでいますが、最低賃金が1300円を超えてくると、さらにロボット化、IT化を推し進めて人件費を下げていかないとコストがかかりすぎてしまって、価格転嫁しきれなくなってきます。

だからそこは、最低賃金を上げながら、ロボット化による効率などでコストを調整していかないといけない。そんな時代は、もうすぐそこまできてます。我が社もロボット化などを進めていますが、それはやはり最低賃金1500円時代を想定しているわけです。

しかし、そうやって賃金を上げていっても、日本では物流トラックドライバーになりたい人、倉庫内作業員がまったく集まらない状態が続いています。今は外国人の特定技能制度が1年限定になっています。しかし1年だけでは、現場で全然戦力にならないわけです。この在留期間を10年にして、家族の帯同、永住など認めて働けるようにならないと人材不足の解消にならない。我々物流業界もそうだけど、旅館やホテル、居酒屋など、日本全体どこも人が足りていません。物流業界でいうと特に運送業、トラック業界の運転手、倉庫内作業員が不足しています。規制を緩和して、もっと外国人労働者がどんどん日本に入れる政策を取ってほしいと思っているのですが、いかがでしょうか?

A:まず、最低賃金については、鎌田社長は政府の見解を前提にお話をしていただいていて、私も政府の方針を支持する立場です。この立場を前提に、政府からちょっと怒られてしまうかもしれない持論を申し上げますと、30年代半ばに1500円を実現するというのは、ちょっと遅すぎると思っています。もう諸外国で最低賃金1500円を実現している時に、日本で最低賃金1500円が実現するのはさらにあと十年以上先と言われたら、これを待ち望んでいる国民からしたらがっかりでしょう。そこはもっと加速していかなきゃいけません。

加えて、DX化、ロボット化などのデジタル導入。これは本当に必要です。

私の知り合いで、不動産賃貸やっている人ですが、その跡継ぎがデジタルに詳しいと言うので、帰ってきて家業を全面的に業務プロセス改善して、デジタル化したんです。そうしたら古い社員が半分辞めてしまったそうです。でも、社員は半分になったけど、週休3日になって、利益が2.5倍になった。毎日みんなタブレットなりスマホを持って、画面に出てくるひな形に打ち込むだけで、仕事がどんどん進んでしまう。数字は自動集計されて、1日終わると今日会社としてどれだけの仕事ができたかが一目でわかる。

最初のうちは先代も不安で、お前のやろうとしてることは本当にそれで大丈夫なのか、お前はどこかの星から来た宇宙人じゃないのかなんて言ってたそうですが、今はスマホでその一日の成果を見るのが楽しみになっているそうです。スマホをいじってるだけで仕事になってしまう。

ありとあらゆる業界で、こういうDX化は進めていった方がいいですね。ただ一つ注意点があって、なかなかDXを取り入れられない業界、企業というのもあるわけで、そういう消極的な人たちが見て、どんなサービスができる、どんなコストが下げられるというのが一目でわかるカタログというのは必要だと思います。そういうカタログを各業界ごとに作って、どんな企業も取り入れられるようにすると、業界全体が変わっていくはずなんで、そういう情報の整理はやっていきたいですね。

もう一つは省力化。農林水産業でよくある話ですが、省力化するための機会を作っているのが全部中小企業。例えばホタテの皮むき機なんかは、作っているのが1社だけだから、研究開発のインセンティブもあまりない。そうすると、機能を改善するための研究開発も全然進まないということになってしまう。作っているのが中小企業だからリスクも取れないから仕方ない面もあります。

この機械を使うと、以前は10人かかっていた仕事を3人でできるようになった。でも、さらに研究開発して一人でできるようにというのができない。でも省力化は必要なので、行政が中小企業に予算付けて開発できるようにしていく必要もあります。導入支援だけでなくて研究開発支援をやっていくことも大事です。

あと、外国人労働者についてですが、現在日本では技能実習制度と特定技能制度という2つの制度が走っています。先ほど鎌田社長がおっしゃったのは技能実習制度。途上国に貢献する目的で、日本にやってきた外国人に日本の技術を覚えてもらい、日本のファンにもなってもらって、国に帰ったら自国のその分野のリーダーになってっもらおうというものです。

特定技能制度について言うと、これには一号、二号という区分があって、一号は通算で上限5年まで在留できます。業界ごとに人手不足の度合いを出して、受け入れられる外国人労働者の数を決めていきます。通算5年までなので、1年限りではない人手不足対応用の制度は一応あるということになります。相応の知識また経験を持った状態で海外から来て、さらに5年経って熟練した技能を身につけるようになると家族を呼べるようになります。要件を満たせば家族を呼ぶことが可能で、配偶者も対象になります。更新手続きは必要ですが在留期間も上限なしになります。

こうなってくると外国人から見れば魅力的な制度で、うまく運用していくべきでしょう。今は大変な円安なので仕送りのために来てくれる国も減っています。我々が得意になって外国人は、もう皆さん日本に来たくてしょうがないんだなんて思ってはだめ。いろんな条件をつけて、日本に入れてやるなんて言っていても、外国人からしたら「日本になんて行きたくないよ」と言われちゃうのが関の山なんです。

ただし、特定技能制度は定められた業界にのみ使える制度なので、まずはまだ対象業界として定められていないトラック運送や倉庫分野について特定技能制度の対象にしていかないといけません。トラック輸出と倉庫業も入れていくことも当然必要だと思ってます、人手不足ということで外国人を入れる制度ですが、相当程度の知識または経験が必要になります。ある意味で即戦力の人材です。

人手不足解消のために外国人労働者を連れてくるというのであれば、じゃあどういう仕事がいいのかきちんと決めないといけない。役所が業界に対して無理解なままで制度を作ると、現実に即さない人材しか来ないということになってしまいます。

外国人が入ってきて、私は倉庫の中の作業ができる資格はあるけれど、一歩外に出て積み下ろしなどを手伝う資格がないから日本人だけでやってくださいなんて言っていたら、日本にやってきたはいいけれど、職場に溶け込めません。それだとうまく制度として動かないので、現実にあったルールを定める必要があります。そのあたりは関連官庁、行政に伝えてちゃんした制度にしていき、トラック輸送、倉庫の分野の人手不足を現実的に捉えるところまでこぎ着けないといけないと思ってやっております。

M:これは24年問題とタイミングを合わせていくことも大事そうですね。先ほども鎌田社長からお話がありましたが、24年問題は24年で終わるのではなく、24年から始まる問題なのかなと言う気がしております。そこで、この問題に向き合っていくためには、物流企業や荷主企業が、日本の物流を将来的にどうしていきたいのかというビジョンがすごく大事なのではないかと思います。それをこの産業で働く人たちが共有できるような、こういう業界ならやりたいなって思えるような絵を描けるかどうかが重要な気がします。

例えば日本はずっと貿易立国、さらに言うと自動車立国でありました。ただ、自動車の場合は、将来的にそもそもその産業自体のあり方が変わってくるかもしれない。しかし、物流業界は変わらないのではないのか。日本の物流技術は、冷凍技術や宅配技術を代表として、国土交通省が東南アジアなどの海外にどんどん輸出しようとしてきた技術でもあります。ある意味、日本が世界的にリードしてきた技術の一つが物流ではないかと思われる面もあります。将来において物流立国として国を興していくというのはあるのでしょうか。

A:たいへん夢のある話で、必ず実現していかなければならないと思います。やる以上は、国富を大いに生んでほしい。私自身は旧運輸省、現国土交通省で働き、今は衆議院議員を務めており、営利企業で働いているわけではないのですが、物流業界の皆さんには、働く以上はしっかり稼いでいただきたい。稼いでもらって税収もアップしたいし、それによって国が豊かになるってことをぜひ実現したい。

日本で徹底的に人手不足になって、それでも物流で利益が出るというのは本当にすごいことです。24年問題を乗り越えて、ちゃんとした物流を提供しながら生産性は上がり、働いてる人の賃金はどんどん増え、売上も伸び利益も伸びたらどうでしょう。これは、海外にも間違いなく売れるビジネスモデルになり得る。物流で世界に攻め込めるということです。

中国をはじめ、人口ボーナスがある国はたくさんありますが、必ず人口減少に転じます。そうなった時に、我々ができ上がったビジネスモデルを持って助けにいく。

M:たいへん夢のある話ですね。

A:中国だけじゃなくて、インドだってそうなり得る。そうなったら、市場規模は10倍以上です。

K:ヨーロッパ出張して物流センターの視察に行ったんですが、日本企業の方が全然レベルが高くて、我々が入っていける余地はすごくあることがわかったので、日本企業が世界に出て世界の物流を受けるっていう選択肢はあるかもしれません。

A:例えば豊洲や大田市場に集まる生鮮品も、翌日、あるいは即日に、世界中で食べてもらえるようになれば、相当稼げるはずで、そこは総力を挙げて、目標を定めてやっていくってことは本当に必要だなあと思います。

日本は課題先進国なんて言われますが、人口減少のなかで生産性を上げていくというのは日本が直面していて解決せざるを得ない問題。うまく解決できれば物流界を先頭に、世界で貢献できるし、大きな国富を生めるはず。日本が世界の中心になって経済を回していくことも期待できると思うので、本当に力を入れてやっていきたいと思います。

M:鎌田社長、物流が日本社会を先導していく未来というのは、なかなかワクワクする話ですよね。

K:そこでもう少しお話を伺いたいんですが、最近進められているライドシェア。物流に取り入れることはできないんでしょうか?例えば一般の家庭の人が配達したり、一人親方が2トン車で配達をしたりといった配送は難しいんでしょうか?

A:さすが鎌田社長の発想はすごい。実際、旅客よりも物流の方が、ライドシェアはやりやすいと思っています。

アメリカでもウーバーが小さい女の子を死なせてしまったとか、強盗やレイプなどの事件もありました。日本でも昔は東海道に雲助が出てお金を取ったりというのもありましたし、人が地面から足が離れると、いろいろと怖いことがある。

一方物流であれば、言い方はちょっと悪いけれど、ラストワンマイルから先は、近所のおじちゃんやおばちゃんが、買い物袋に荷物入れてそれぞれに入れて届けるのでもよかったりするわけですよ。もちろん荷物が濡れたり壊れたりということはあるかもしれないけれど、旅客に比べたらいろんな実験をしやすいので、さまざまなことを試しながら実現を探っていくのは良いと思っています。

旅客の場合は運行責任は誰が取るのか、安心安全を誰が担保するのかというのがとても大事になってくる。そこを適当にやっている白タクというのは許しがたいものがあります。それに、日本はほかの国よりも安全で、安心して旅行ができるからというので海外からインバウンドの観光客がやってきてくれているのに、人が足りないからといって白タクで何とかするというのは、それはちょっと話が違うと思うんです。それでも本当に人手が足りないから、地方からじわじわと始めていくということですね。

モノを運ぶことについて言えば、もちろん責任も生じますが、人を乗せた時の安全、安心と比べればもっといろいろ実験できるはずなんで、実態がわかればいろいろ工夫もできると思うので、いろいろ教えていただければと思います。

M:SBSグループもこういう実験をどんどんやっていくんでしょうか?

K:やはり働き手がいないので、いろんなことを考えて試して、それで正解を導き出していかないと生き残っていけません。どんなことでも徹底的に挑戦していく会社にしていきたいと思います。

M:これは24年元旦に配信される番組なんですけれども、おそらくほとんどの物流関係者は、悲壮感をもってこの年を迎えているのかもしれません。ただ今の話を伺うと、実はワクワクするようなことがたくさんあるんだから、この業界に夢を持ってもっとたくさんの人に来てもらいたいと思えるような感想を持ちました。

荷主企業や物流関係の方もたくさんご覧になられているかと思いますが、お二方からそれぞれの立場でお一言ずついただけますでしょうか。

A:悲壮感を持つ部分も必要ではありますが、やはり物流の世界は宝の山だと思います。日本人としては、兵站(へいたん)のことを考えずに第二次世界大戦で大失敗をした国として、リベンジした方が良いと思います。あの戦争で日本が見落としていたのは兵站であって、とにかく戦車や兵隊の数そろえるのはいいけれど、どうやって運んで、運んだ後に食べものや光熱のことをどうするかというのがまったく抜け落ちていた。

日本というのは、兵站、ロジスティクスについて考えていなかったことで、大失敗した経験を持つ国なわけですよ。そんな日本が、ロジスティクスの分野で世界のトップになっていくということは、世界に貢献していけるということでもあるし、過去の経験を生かして国として賢くなっていけているということでもあります。

そうしていくためには、この業界関係者が力を合わせていくことも、力を持っておられる荷主さんの理解も絶対に必要です。それから24年問題から逃げずに働き方改革についてもしっかり受け止め、平均労働時間も減らしていくし平均賃金も上げていく。その決意を物流企業の経営者の皆さんにも持っていただかないといけない。物流企業で働いている皆さんにも、お客さんに対して最大品質の物流、配送を提供するのだという使命感を持っていただきたい。経営者はその気持ちに賃上げで応えていくことが必要です。

あと行政や政治も、制度・法律という形で政令告示を作ることの責任はものすごく重い。国の予算で応援をしたりということもしながら、日本国の物流に関係するすべての関係者が総力を挙げて協力していけるようにしていきたいです。24年は、みんなで力を合わせて世界を変えていく元年にしたいですね。

M:ありがとうございます。非常に力強いお言葉をいただきました。

その物流業界に身を置き、まさに24年問題に向き合うお立場でもある鎌田社長はいかがでしょうか。

K:今日は本当に素晴らしいお話を伺いしました。僕がこの業界に入ったのは45年前です。45年前は物流業界という言葉はなくて、運送屋さんとか倉庫屋さんとかの「屋」がつく名前で呼ばれてました。そういうのもあって、社会的な地位というのは必ずしも高くなかった。これをなんとかほかと対等以上にしていきたいという気持ちはいつもありました。製造業、メーカーがあって卸問屋があって小売があってというサプライチェーンの一番上に我々がいけるようにしたい。

物流の地位を向上させて、喜んで参入してくる人をもっと増やしたいんです。

アメリカだとスタンフォード大学の理系から物流業界にどんどん人が入ってくる。日本では、東大を出ても誰も物流業界には来ないわけですよ。日本の優れた人材がもっともっと集まって、国を変えていけるような業界にしたい。24年はそうした、赤澤議員のような方と力を合わせて物流業界を底上げし続けて、素晴らしい人材が集まってくる業界にしていく元年としたいですね。

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