ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

【年頭所感】海運再生の年に[日本船主協会]

2013年1月4日 (金)

話題日本船主協会の芦田昭充会長による年頭所感(要旨)は次の通り。



一昨年、昨年と、我が国海運業界は厳しい局面を迎えたが、私は「展望」を「十(テン)望」と言い換え、10項目の、経営環境の改善や業界の前向きな取り組みなどについて話してきた。ことしは是非「十望」をかなえ、海運「再生」の年にしたい。

700ドルを超えていた燃料油価格は600ドル台に下がり、500ドル台をうかがう水準にある。船腹供給の過剰についても、市場メカニズムを通じて需給バランスの調整が働き始めている。

海上荷動について言えば、中国の資源・エネルギー輸入が、経済減速を言われる昨今でも引き続き旺盛な伸びを示している。自動車の海上荷動きは着実に回復し、LNG・LPG輸送も好調だ。コンテナ船では、損益が大幅に悪化する中、各社が独自にパフォーマンス指標を開示するなどしながら持続可能な運賃水準の回復に努める方向に転じたことは、特筆すべき動きだった。

安全運航や環境保全にも資する解撤や減速航海に向けた努力、一方での海洋開発事業といったフロンティアへの進出とあわせ、外航海運各社が、W.チャン・キム氏(INSEAD教授)らが言うところの、血みどろの競合を繰り広げる「赤い海」から斬新なアイディアや差別化を進めた新たな市場である「青い海」へと舳先を巡らす、革新的・創造的な動きだと見ることもできる。

以上に加え、「十望」の10番目に掲げたのが、当協会の活動で関係の深い「決められる政治」への期待だった。

昨年9月、トン数標準税制の拡充に向けて、その前提となる海上運送法の改正が成立した。我が国にとっての安定的な海上輸送の重要性につき多数の超党派の国会議員の理解を得、通常国会終盤の慌ただしい日程をぬって同法の可決・成立を見たことは誠に心強く、有難いことだった。

国土交通省の尽力、経団連・造船業界などからの支援も感謝に堪えない。いよいよこの4月を見込む拡充トン数標準税制の適用開始、そして船舶特別償却制度などの海運税制の存続に向け、関係各位の理解を得ながら、引き続き取り組んでいく。

ソマリア沖・アデン湾の海賊問題に関しては、脅威は依然として極めて高く、西アフリカなどへの伝播の動きも見られる。昨年も海賊対処法が延長され、我が国自衛隊による断固たる護衛・哨戒活動が継続している。また、当協会が強く要望してきた武装ガードの日本籍船への乗船警備を可能とする措置についても、国会、関係省庁の理解・尽力のもと、次期通常国会に法案を提出するための準備が整いつつある。

昨年6月、イラン情勢が緊迫化する中で緊急上程されたイラン積み原油輸送に係る賠償義務履行担保に関する特別措置法の成立とあわせ、意を尽くして説明すれば、政府・国会でも果断に決断いただけるという思いを、私たちは強くしている。今年も、国際的な競争環境のもとで日本海運が置かれた状況、それに基づく要望、そして四面環海の我が国で海運が果たしている大きな役割などについて、関係者に更に理解を深めてもらうべく、渉外・広報活動の強化に取り組んできたい。

当協会の取り組むべき課題としては、このほかにも温室効果ガス(GHG)排出削減などの環境問題への対応、水先制度の更なるレビュー、パナマ・スエズ両運河通航料値上げをはじめとする国内外のコスト増加・規制問題への対応、日本人海技者の確保・育成、IFRS(国際会計基準)への対応、内航海運でのカボタージュ制度の堅持や船舶老朽化・船員高齢化問題への対応など、枚挙に暇がない。

温室効果ガス問題は、IMO(国際海事機関)で決定された新造船への燃費規制と本船上でのエネルギー効率管理が、いよいよこの1月から開始される。海運業界としてはしっかりとこれに取り組むとともに、いわゆる経済的手法は、同じくIMOでの議論を通じて、国籍を問わず一律に適用され公平性が保たれるとともに、実態から遊離した総量規制の導入によって国際物流が阻害されないよう、働きかけを強化していく。

水先制度は、上限認可料金の引き下げが昨年実施されたが、引き続き水先人養成問題の解決をはじめとするレビューが必要だ。

パナマ運河では、主要な船種の通航料がここ10年間で50-180%も上昇している。今年10月にも再値上げが予定されおり、政府、国際海運団体・各国船主協会とも連携し、値上げの撤回や海運業界との建設的な協議を求めていく。