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デベロッパーと3PL、マテハンも競争と協調の時代へ

2024年3月28日 (木)

イベント3月28日、LOGISTICS TODAY主催のオンラインイベント「第二回 物流議論 攻めるデベロッパー、守る3PL|人との共存か、無人化への転換か -人手不足時代の倉庫運用最適解を探る-」が開催された。

登壇者は、宮地伸史郎氏(野村不動産都市開発第⼆事業本部物流事業部次⻑)、和⽥吉朗氏(野村不動産都市開発第⼆事業本部物流事業部事業三課⻑)、⼭崎整氏(タクテック社⻑)、吉野豊氏(アイオイ・システム社⻑)、曲渕章浩氏(SBSホールディングスLT企画部部⻑)。モデレーターはLOGISTICS TODAY編集⻑の⾚澤裕介が務めた。

冒頭のオープニングでは野村不動産・宮地氏と赤澤が登壇。24年問題を踏まえ、デベロッパーはどのようになっていくのかという赤澤からの投げかけに対し、宮地氏からは「何もかも3PLに任せっきりにするのではなく、デベロッパーから働きかけられることもあるのではないか」との示唆があった。

第1部のセッションでは「3PL、デベロッパー、ソリューションベンダーが協調する物流のかたち」と題し、宮地⽒に加え、SBSHD・曲渕⽒、タクテック・⼭崎⽒、アイオイ・吉野⽒が登壇。

▲(左から)野村不動産の宮地伸史郎氏、SBSHDの曲渕章浩氏、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介、タクテックの⼭崎整社長、アイオイ・システムの吉野豊社長

新規拠点に、完成時点で自動化ソリューションを投入するなど、野村不動産は従来のデベロッパーの立ち位置から大きく踏み込んだ取り組みを行っている。こうした動きについて宮地氏は「3PLは労働力や現場でのノウハウを集約する産業であるのに対し、不動産業は資本集約型。現場での仕事に習熟した3PLの業務を、デベロッパーが資本を投下することで後押しするのは理にかなっている」との見解を示した。

これに対して曲渕氏も「3PLが拠点の開発まで手掛けることはできないので、デベロッパーは我々にとってはなくてはならないパートナー」として、野村不動産の動きに肯定的な姿勢を見せた。加えて、ニトリやユニクロなど、自ら製造、流通、販売を行う製造小売業が自前の物流拠点を展開している現状を踏まえ、「物流業界は業界全体で叩き合いをしているので利益が出にくくなっており、投資がしにくい状態。今のやり方だけでは、3PLが20年後、30年後まで生き残ることは難しいだろう」と危機感をあらわにした。

▲Landport習志野「テクラム・ハブ」

また、宮地氏は自動化倉庫の導入を「荷主、3PLに倉庫を便利に使ってほしい」からと説明。効率化、省人化して倉庫を便利にするソリューションを紹介する場としての機能もあるのが、野村不動産がLandport習志野に作った物流企業が参画する協業コンソーシアム「テクラム」だ。宮地氏によれば「そうしたソリューションの情報を提供、紹介していくのもデベロッパーの役割の一つ」なのだという。

登壇していた山崎氏、吉野氏もテクラムに参画するタクテック、アイオイの経営者で、それぞれ同じマテハンメーカーであり、競合する関係でもある。

吉野氏いわく「倉庫の自動化はスタンダードがないままに革新が進んでいる。システムの組み合わせが試せる仕組みが必要だが、それがテクラム」なのだという。

タクテック、アイオイのように競合が並べられてしまうのはある意味シビアな面もありそうだが、山崎氏によると「1社のソリューションだけで何もかもは解決できない。顧客目線に立てば、必要とあらば競合のソリューションを提案しながら、全体の課題解決をすることが必要」な時代になってきているという。また実際に、タクテックの製品にアイオイの技術を導入して開発が進んでいるアイテムもあるとのことで、想像以上に競合同士の協業が行われていることがうかがわれた。

第2部では野村不動産の和⽥吉朗氏が登壇し、「テナント援護射撃、顧客との連携深める野村不動産の拠点開発戦略」をテーマに発言。

05年に国内不動産企業として物流拠点開発に先鞭を付けた、老舗デベロッパーの野村不動産。これまで首都圏を中心に開発を行っていたが、現在は大阪、名古屋、福岡など地方にも拠点を展開し始めている。

▲野村不動産の和⽥吉朗氏

和田氏は「単に床を貸すビジネスではこの先が見通せない」と語り、「継続的なサービスを行うなど、『貸して終わり』ではない倉庫を作っていく」とし、テナントが入居してからも、季節波動によって空いたスペースに入る荷物を探すなど、新しい取り組みを紹介した。

また、前述の「テクラム」に集まったDX(デジタルトランスフォーメーション)、自動化、マテハン、ロボティクスなどのソリューションを紹介、利用してもらえる仕組みをスタート。ロボット、無人フォークリフトなどのレンタルやマテハン機器選定のサポートも受けられるという。しかもこれらのサービスは「野村不動産のLandportに入居していなくても利用可能」(和田氏)なのだという。

こうした倉庫の効率化、省人化へのサポートと同時に、野村不動産が重要課題と考えているのは「人材確保」。人材の入り口としてはLandport専用の求人サイトを立ち上げ、LINEスキマニやタイミーなどと連動して求人を行うことができるなどでテナントの採用をサポート。また、「休憩所やカフェを、若い人や女性も働きやすいデザイン、環境にしているほか、レンタルの充電器や傘などを用意して、ちょっとしたお困りごとに手助けができるような体制作りをしています」(和田氏)。会議室は、ポストコロナで一般的になったリモート会議に使いやすいように改装するなど、テナント企業のオフィス環境も見直しているという。「クリスマスや七夕など、季節ごとのイベントに合わせたデコレーションなど細かい所も気を配るようにしていますが、特に女性ワーカーからは良い反応が返ってきています」(和田氏)

第3部は、国内のマテハン・自動化ソリューションのトップランナーであるタクテック、アイオイの経営者がそろい踏み。「物流変⾰時代、代表ソリューションベンダーの展望」として⼭崎⽒、吉野⽒が登壇した。

両社の強み、弱みについての言及に次いで、ベンダーの視点からは完全自動倉庫はまだ難しい段階にあり、「部分的な最適化が現実的」(吉野氏)といった見解が示された。

また、第1部のセッションで言及のあった、タクテックとアイオイの協業について赤澤が深掘り。現在、タクテックのピッキングカート「Gカート」はカタログ落ちをしているが、その矢先に医薬品の卸の企業からオーダーが入ってしまい、山崎氏は「カートのゲートは自社製のシリンダー式よりもアイオイの電動式が最適と判断」し、共同開発を提案。吉野氏から快諾を受け、1年ほど前から共同開発を行っているのだという。

吉野氏も「アイオイのソリューションは導入を希望する企業によっては過剰な場合がある。しかしそうしたときにもアイオイとしての提案を行えるよう、自社のショールームにタクテックの製品を置き、相手のスケールに応じた課題解決ができるようにする」考えだという。

2回目となる「物流議論」は野村不動産のデベロッパーらしからぬ取り組みもあり、「攻めるデベロッパー、守る3PL」として対立を思わせるタイトルを謳っていたが、ふたを開けてみればデベロッパーと3PL、競合企業同士のいずれもが協業、協調路線という内容となった。物流自体、倉庫、運送業、トラックドライバー、倉庫作業員など多くの人々の手によって支えられる産業。新たな時代もやはり、たくさんの人の手によって、荷物は運ばれていくのだ。

24年4月1日まで、残すところあと3日となる3月28日、第2回物流会議は好評のうちに幕を閉じた。

アイオイとタクテック、競合メーカーが協業関係に