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工場立地・人口増加で活性化する、つくばエリアの物流市場

エリアの成長を物流で支える、TX沿線の拠点開発 

2024年7月31日 (水)

話題茨城県は巨大商圏を配送エリアに収める関東の物流要衝であり、地域の工業を物流面で支えるとともに、東京や埼玉などへの最終配送拠点にも位置付けられる。

本誌では、境や境古河など圏央道の4車線化の進展に伴って県西部での物流施設の供給が活発なことを紹介したが、茨城県の物流マーケットの主流は、常磐道沿線の県南エリアにあると言って良いだろう。今回の特集は、そんな茨城県下の物流市場の中心地である、つくば市、つくばみらい市に焦点を当てる。

新規工場立地全国1位、高まる茨城県下の物流ニーズ

▲工場の新規立地件数・立地面積は都道府県別でも上位となっている(経済産業省「23年工場立地動向調査」より引用、クリックで拡大)

茨城県の物流地としての優位性は、首都を含む巨大消費圏へ外縁からアプローチできるエリア特性とともに、北関東の底堅い「製造業」の物流需要にある。23年度の「工場立地動向調査」(経済産業省)によると、同年度の茨城県の工場・研究所の新規立地件数75件で全国1位、立地面積も165ヘクタールで北海道に次ぐ2位となっている。20年の工業統計調査で工業出荷額の高い都道府県ランキングでも茨城県は7位にランクインし、製造業の集積地帯としての特性とともに、それを支える物流市場の重要性も浮かび上がる。

茨城県の倉庫供給面積は全国8位(437万4600平方メートル)、開発比率(フロー:開発中の面積が供給面積に占める割合)10位(20棟、114万4900平方メートル)、フロー(開発中物件)の空室募集面積は9位(16棟、76万1300平方メートル)と、旺盛な工場立地動向を受け止める物流体制を整える。

県も、県内立地企業に対して法人事業税・不動産取得税など税制面の優遇措置を設けて、本社機能の県外からの移転を促しており、東京商工リサーチによる23年度の「本社機能移転状況」に関する調査では、転入超過数で千葉県に次ぐ2位と、東京などからの転出企業の受け皿となっていることがわかる。

▲常磐道沿線、つくばみらい市の物流施設建設現場

特に比率が高い食料品製造をはじめ、金属製品、生産用機械、プラスチック製品などを中心に工場が集まり、県が21年につくばみらい市に20年ぶりに造成した工業団地「圏央道インターパークつくばみらい」には、日清食品、ダイキン工業などの進出が決まり全区画が造成2年で完売した。「東京へのアクセス、関東以北への輸送に優れた利便性を持つ魅力的な立地」として進出を決めたダイキン工業は、27-28年をめどに稼働開始を予定し、300-400人の雇用を予定。大和ハウス工業も同地に用地を確保し、物流施設の開発予定を明らかにしている。

TX沿線エリアは全国トップクラスの人口増加率、雇用でも強みを発揮

▲つくばエキスポセンター

つくば市の人口は25万6000人、つくばみらい市は5万1000人を超えた。20年の国勢調査人口から23年の推計人口までの人口増加率を見ると、つくば市は増加率5.86%の全国1位。つくばみらい市が2.84%で5位、近隣の守谷市も1.9%の12位につけるなど、05年のつくばエクスプレス(TX)の開通により、沿線の市区町村では著しい人口増加傾向にある。

TXの区間快速で秋葉原とつくば間は1時間もかからないため、子育て世帯、若い家族層のベッドタウンとしてエリアの活性化に貢献するとともに、豊富な人材、労働力の供給源としても期待される。研究学園都市として教育、計画的なまちづくりに取り組み、市政施行の1987年以来人口増を続けるつくば市と、それを追いかけるように出産、子育て支援などで新しい人口流入の受け皿を整えたつくばみらい市は、経済性と住みやすさのバランスに優れた人気の住宅地としても成長し、関東内陸部を代表する物流要衝としてのポテンシャルを整えてきた。

▲つくば市の人口増加率の推移(総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」より引用、クリックで拡大)

県内の最低賃金は953円で、隣接する千葉県の最低賃金1026円より7.1%程度低い相場となっており、パート・アルバイトを多く雇用するアパレル・通販系の進出が促される環境となっているが、先進型オペレーションを提供する物流施設の進出により、庫内作業などの賃金にも変化が生じている模様で、それについては後述する。

首都圏広域配送での利便性は、今後さらに拡大予定

交通インフラの整備も続く。7月10日につくばみらい市内では都市軸道路の未整備区間が新たに開通、8月には茨城県道46号線・野田牛久線バイパスの4車線化など、県内ネットワークの整備、渋滞緩和へ準備が整う。都心まで90分程度と拡大するEC(電子商取引)市場への対応にも適し、近年新たな物流施設の建設も相次ぐ。

圏央道・つくば中央インターチェンジ(IC)や、常磐道・谷田部IC、谷和原IC、桜土浦ICなどを起点として、高速道路を利用した首都圏広域配送網の拠点に位置付けられる。今後、常磐道の(仮称)つくばみらいスマートインターチェンジ(SIC)、圏央道の(仮称)つくばSICの設置が計画されているため、利便性のさらなる向上も期待される。

▲つくば市・つくばみらい市周辺の交通網(クリックで拡大)

つくばみらい市では、常磐道の谷田部ICと谷和原ICの中間地点にSIC開設による新たな結節点を設けることで、IC間距離の不均等を是正し、「中心市街地からのIC到達時間を10分以内に、さらに渋滞の解消にもつなげる」意向だ。企業誘致とともに物流事業者が集まる圏央道インターパークつくばみらいからの高速道路アクセスも5キロ圏内に短縮され、物流の効率化、企業活動の活性化を図る。さらに、地元ではフリージアをはじめとした花き栽培も盛んなため、地元農協から東京方面への配送時間削減での効果も大きいとしている。

先進的なEC物流の拠点として、物流要衝の存在感高まる

近年のエリアの施設開発では、DPLつくば中央(大和ハウス工業、23年2月竣工)、LFつくば(クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド、23年8月)、つくばロジスティクスセンター(オリックス不動産、24年8月竣工予定)、LF谷田部(25年1月)、MFLPつくばみらい(三井不動産、25年4月)、Landportつくばみらい(野村不動産、25年6月)などのマルチテナント型施設供給が、来年度へ向けて相次ぐ。また、グッドマンも物流施設とデータセンターを含む広大なビジネスパークの開発を計画している。


▲(左から)「LFつくば」外観、「Landportつくばみらい」完成イメージ

なお、つくばジャンクションを中心とした10キロ圏内物件の直近1年ほどの成約賃料は、ほぼ募集賃料並みの坪当たり3650円が相場となっているようだ。

アパレルEC大手ZOZOは、つくば市にプロロジス開発のBTS施設4拠点(プロロジスパークつくば1-A、同1-B、つくば2、つくば3)を構え、自動化設備を導入した最先端施設、ZOZOBASEとして運用しており、先進的なファッションECの進出が物流要衝としての評価を決定づける事例となった。ZOZOにとって最大規模の拠点ZOZOBASEつくば3では、昨年稼働を開始したタイミングで商品管理のアルバイトスタッフ500人の採用を呼び掛け、地域活性化にも貢献する。

▲「ZOZOBASEつくば」

多様な人材活用、従業員満足度の向上や福利厚生にも力を注ぎ、TX沿線エリアの雇用環境にも影響を与えていることがうかがえる。プロロジスパークつくば1-A、LF谷田部、Landportつくばみらい周辺の平均時給は、それぞれ1334円、1347円、1345円とされており、近隣の常総市グッドマン常総よりも4%高い時給設定となっている。

多様なニーズの受け皿として拠点再編の中心地に

物流事業による同地での新たな拠点構築、再編のニュースも聞こえてくる。

パルシステム生活協同組合連合会は7月、つくばみらい市に新たな拠点「パルシステムつくばみらいセンター」を開設した。生協の個人宅配サービスであるパルシステムは、関東を中心に1都12県を活動エリアとして拡大する会員向け配送に対応しており、コロナ禍以降増大する冷凍食品を専門に取り扱う拠点として開設されたのがつくばみらいの新拠点は、利用組合員から注文を受けた冷凍商品を個人別に仕分ける物流拠点として運用される。

▲「パルシステムつくばみらいセンター」

これまで南大沢センター(東京都八王子市)を冷凍商品専門拠点として運用してきたが、「冷凍食品の需要拡大によりキャパシティーがひっ迫したこと、さらにリスク分散の目的から第2の冷凍専門拠点の開設を模索してきた」という。つくばみらい市は、南大沢との2拠点体制への編成見直し計画において、特に関東北西部へのアクセスが優れている点、まとまった業務用地を確保できる点で選定したと言い、TX沿線地区の業務建設用分譲地を競争入札で確保して拠点再編に取り組んだ。

つくばみらいセンターでは、福島県、茨城県、栃木県、千葉県への配送を担い、年末物流量のひっ迫軽減を必要とする南大沢センターからの物流移管などを行いながら、「11月ごろには1日当たり6400ケース、3万3000オーダーを取り扱い、最終的には冷凍セット全体の23%程度を担う拠点となる」計画だ。

施設周辺は、閑静な環境の中の住宅街と一体となったまちづくりの場となっており、周囲のデザイナーズ住宅などにも配慮した施設塗装を採用。敷地を一部キックバックし、歩道として近隣の住民との調和を目指す施設として「今後は近隣地域のみなさんにも喜んでもらえる運用を心がける」。

増加する人口、ファミリー層を意識したこのエリアならではの施設開発には、県や市もさらなる経済の活性化に期待を寄せており、TXの開業を機に、人々の活気がまた次の活気を生み出すエリアは、今後も多様な物流ニーズに対応する拠点開設、拠点再編の有力な候補地として注目されるのは間違いない。