話題昨今、愛知県で物流施設の建設が進んでいる。特に東海市、一宮市、小牧市には熱い視線が注がれており、2025年には同エリアで過去最大となる8棟83万254平方メートルにも及ぶ供給が予定されている。
これほどまでに物流施設の開発が進むのはなぜなのか。LOGISTICS TODAYは愛知県の中でも物流適地として新興エリアに当たる東海市・大府市にスポットを当て、リサーチを進めるとともに、現地で取材を行い、その活況の理由を探った。
関東-関西の中間拠点として注目集まる愛知県
愛知県が注目される理由としてまず挙げられるのは立地の良さだ。同エリアは2大消費地である関東と関西の中間に位置する。東は東京、西は名古屋や大阪まで、それぞれ半日でリーチできる。イケア(千葉県船橋市)などは愛知県弥富市に自社の物流施設を建設。名古屋港に荷揚げした荷物を同センターに集約した後、東西に振り分けることで物流コストを削減している。こうした利便性の良さから、弥富市のほか、小牧市や春日井市にはすでに複数の物流施設が集積していた。
とはいえ、同エリアは賃料の高騰や積雪による一時的な通行止めなどの問題を抱えており、現在のように加速度的に物流施設の建設が進むことはなかった。状況が一変したのは19年、伊勢湾岸自動車道(豊田東JCT-四日市JCT)と新名神自動車道(新四日市JCT-亀山西JCT)が接続してからだ。
従来、東京から大阪までの往来は東名高速道路から名神高速道路というひとつの流れしかなかったところ、そこに支流が加わる形になった。渋滞は緩和され、所要時間が大幅に短縮した結果、東西をつなぐ拠点として急速にニーズが高まったのだ。
東西2大消費地が4時間圏内、24年問題対策の一助に
主要道路の整備に加えて、24年問題も、物流事業者の同エリアへの進出を後押しする結果となった。24年に入り、トラックドライバーの労働時間が制限されると、物流事業者の間で、関東と関西の中間地点に積み替え拠点を構える動きが出てきた。さらにトラックドライバーには、4時間ごとに30分の休憩が義務付けられている。その観点でいえば、大府市周辺などは、渋滞にはまらなければ東京まで4時間以内に到達できる。この距離を休憩なしで走り抜けられる利点は大きい。
24年問題による弊害として、高速道路のSA(サービスエリア)の一般車用の駐車マスをトラックが占有してしまうという問題が生じている。休憩をとるためにSAに立ち寄ったものの、大型車を駐車できる場所がないドライバーは、仕方なく複数の一般駐車マスを横切るかたちでトラックを停める。これによって一般車の駐車スペースが減るだけでなく、SA全体の見通しが悪くなり、接触事故のリスクも高まっている。取材班も東京を出発し、名古屋に向かう道中、立ち寄ったSAの大型車駐車マスの空き表示がいくつも「満車」になっているのを目にした。
足りない大型車駐車マスを確保するには行政を巻き込んだ大がかりな改革が必要になるが、具体的な施策が動き出すまでにはまだ時間がかかる。現状では4時間以内に到着できるところに中間拠点を設置することが、法律を順守しつつ、無用な事故のリスクを回避することにつながる。
物流施設の堅調な需要を支える断トツの工業出荷実績
愛知県の工業出荷額は47兆9244億円(21年時点)と43年連続全国1位。2位の神奈川と2倍以上の大差をつけるなど、製造業が堅調で、それを支える物流施設の需要も見込める。
さらに愛知県の倉庫供給面積は全国7位(553万5563平方メートル)、開発比率(供給面積に対して、開発中の面積が占める割合)は22.6%(17棟、125万1867平方メートル)となっている。開発比率の高さから、今まさに開発が進んでいる地域だということが分かる。
同エリアにおける物流施設のニーズの高まりは非常に顕著だ。07年頃に始まった物流施設の供給は17年時点で7棟29万3487平方メートル、その後19年までは増加傾向にあり、20年にいったん落ち着いたものの、23年に急増(8棟67万5325平方メートル)、さらに25年には過去最大の8棟83万254平方メートルを供給する予定だ。25年の供給は東海市のほか、小牧市、一宮市に集中しており、これらの地名が物流施設のトレンドとなる日も近いかもしれない。
東海・大府エリアで相次ぐ大型物流施設開発
今後完成が予定される大型物流施設の中で、特に注目を集めるのが野村不動産のLandport東海大府(仮称)だ。Landport東海大府は東海市と大府市にまたがる物流施設で、敷地面積は9万8265平方メートル、延床面積は24万6539平方メートルに及ぶ。
LOGISTICS TODAYは建設中の同施設を取材。25年10月の完成を目指し、現場は活況を呈していた。取材班が訪れた際には、施設の地下に埋め込む免震構造を建造している最中だった。建設予定地はハザードマップ上で津波や高潮、洪水、土砂災害のリスクが低いとされているエリアだが、そこに免震構造が加わることで災害対策は万全となる。
大手デベロッパーである野村不動産がこの場所に物流施設を構えるのは、東海・大府エリアの人口は20万人程度と周辺地域と比べて多い上に、製造業や物流業に従事する人口の割合が高いことから、十分な労働力を確保できる見込みがあるからでもある。野村不動産はLandport東海大府を、同社が展開する「Landport」シリーズのフラッグシップとする意向だ。このことからも、物流施設開発地としての東海・大府エリアに対する期待値の高さがうかがえる。
近隣にはグッドマンジャパン開発のマルチテナント型物流施設「グッドマン大府」も稼働中だ。こちらは工業専用地域(住宅を建てることができない地域)にあるため、24時間365日操業できる。同施設に接する幹線道路も幅が広く、トラックの出入りもスムーズな印象だった。
新たな物流適地として高まる期待
周辺エリアのさらなる魅力を探るべく、取材班は地元ドライバーに愛される弁当屋「大だか屋」に向かった。店舗自体は名古屋市内にあるものの、店の前を走る県道59号線をいくらも進まないうちに東海市に入れる位置にある。店の前の道路には、こちらの看板メニューであるからあげ弁当を買い求めにきたトラックが何台も停車していた。
ドライバーが愛してやまないその味を確かめるべく、取材班の面々もそれぞれからあげ弁当を購入した。サクサクとした衣を噛みしめると、後からやわらかい肉の感触が追いかけてくる。味付けがしっかりしているわりに、揚げ物特有のくどさはまったく感じない。値段も500円とリーズナブルな上にごはん大盛り無料(時間帯による)と、お財布にも優しく、大満足の結果となった。これほどの満足感が得られるなら、ドライバーが大挙するのも納得だ。おいしい思い出とともに、取材班は東海市・大府市を後にした。
すでにある集積地域での物流施設建設は頭打ちの感がある。だからこそ大手デベロッパーや物流事業者は、新しい施設を設置するだけの余裕とうま味のあるエリアを探している。そして数ある候補地のなかでも、東海・大府エリアに注がれる視線は熱い。これからも同エリアの動静から目が離せない。