イベント本誌LOGISTICS TODAYと、モビリティー関連IT事業を手掛けるGO(東京都港区)は19日、共催イベント「運行管理・安全管理高度化セミナー」をオンライン開催した。
政府の運行管理に関する新たな規制や、行政処分の厳罰化について、国土交通省物流・自動車局安全政策課から中尾忠頼課長補佐(総括)が登壇、運行管理や安全管理のあるべき姿について解説した。またこうした新たな管理体制に対応するソリューションについて、タクシーアプリなどで知られるGOのスマートドライビング事業本部の武田浩介氏を交えたトークセッションを行った。
運行管理高度化・一元化で変わる、これからの時代にふさわしい運送事業
国交省の中尾氏は、急ピッチで規制の見直しが進められている運行管理高度化・一元化の現状を解説。業務用自動車の安全輸送の根幹を担う運行管理について、原則として各営業所に選任された運行管理者がそれぞれの営業所の運転者に対する運行管理などを実施しているが、運行管理者不足や長時間労働などの課題が顕在化していることへ、政府としても運行管理の規制を見直すことで対応してきたことを説明。進化したICT(情報通信技術)機器を活用した遠隔の営業所間での点呼実施や、運行管理業務を集約して運行中の他営業所の運転手への運行指示を行うなど、安全性の確保を前提としながら運送事業の人手不足などにも対応する運行管理のあり方を提示している。
遠隔点呼に関しては同一事業者内での本格運用から、事業者を跨いだ遠隔点呼の先行実施へと移行、来年度からの本格運用が予定されている。
IT点呼機器などを活用した自動点呼に関しては、同一事業所内での営業所を跨いだ「業務後」での本格運用を実施、さらにことし4月には営業所や車庫以外、宿泊地や休憩所など被実施場所を拡大して本格運用されており、現状は「業務前」の運用に向けた先行実施の検証に取り組む段階である。
また、運行管理業務の一元化に関しては、将来的な「事業者を跨いでの点呼などを含む運行管理」の実施に向けた検証が行われている状況だ。
ICT機器の進歩に合わせた運行管理の規制の見直しは、運送事業者にとって、将来どんな事業形態を目指すのか、戦略も多様化することとなる。現在検証されている事業者跨ぎの運行管理が実現すれば、運行管理業務の受委託も想定され、運行管理を業務の根幹としている運送事業の経営のあり方自体も大きく変化するかもしれない。DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用できる企業と活用できない企業では、選択できる事業のあり方にも大きな差が出ることも想定される。
また、運行管理の効率化において「安全」への取り組みをないがしろにすることはできないため、安全取り組みに関しても効率化と両輪でのデジタル化が求められる。政府は、運行管理の効率化を後押しする遠隔点呼機器や自動点呼機器などの導入は、過労運転の防止にも役立つため、運転手の健康管理・安全管理のサポート機器として、補助金を用意して導入を促すことなども紹介された。
行政処分厳罰化10月1日から施行、悪質事業者の退場やむなしの姿勢
安全に関する政府の施策に関して、中尾氏からこの日(19日)、自動車運送事業者に対する行政処分の基準を改正し、10月1日から施行することも発表された。酒気帯び運転や点呼の未実施、勤務時間の告示違反などの行政処分基準をより厳しくする見直しについての改正が検討され、7月から改正案に対するパブリックコメントを実施していたもの。当初、来年1月を予定していたのが3か月の前倒しでの施行になったものであるが、中尾氏は「悪質事業者への処分はできるだけ早くという意見」にも応えての施行前倒しであることが語られた。
今回の改正では、酒酔い・酒気帯び運転に係る行政処分基準の強化(トラック、バス、タクシーが対象)として、新たに「指導監督義務違反」についての量定が定められ、酒酔い・酒気帯び運行が行われた場合において、飲酒が身体に与える影響、飲酒運転、酒気帯び運転の禁止に関わる指導が未実施の場合は、初違反で100日車、再違反で200日車の処分が課される。さらに、酒酔い・酒気帯び運行が行われた場合において点呼が未実施の場合の「点呼の実施違反」も新たに設定され、初違反で100日車、再違反で200日車の処分となる。
また、トラックを対象に、「勤務時間等告示の順守違反」に関しての量定が変更され、これまでの未順守計16件での上限を廃止し、未順守計6件以上の場合、初違反で未順守1件あたり2日車、再違反で未順守1件あたり4日車に引き上げられる。
「点呼の未実施」に関しても、これまでの未実施50件以上で20日車の上限があった基準を変更し、未順守20件以上の場合、初違反で未順守1件あたり1日車、再違反で未順守1件あたり2日車へと処分の厳罰化を実施することとなる。
例えば、酒酔い・酒気帯び運行の違反では、初違反においてはこれまで通り「酒酔い・酒気帯び運行の業務違反」として100日車の処分。加えて新たに設けられた指導監督義務違反、点呼の実施違反も重なっていると判断されれば、合わせて300日車の極めて重い処分となる。運送事業者にとっては、事業存続にも関わる措置となるが、中尾氏は「悪質事業者には出ていっていただく」との表現で、「誇りを持って、安全に物流を担うこと」をサポートするためには、厳罰化によって不適切な事業者への厳正な処分が必須との姿勢だ。
中尾氏は、あくまでも安全を前提としながら、運行管理などの効率化に対応した運送事業者に対しては、ただ規制、厳罰化のみならず補助金などでの支援を通じて、運送事業の成長を支えていく方針を示す。
知らなかったでは済まされない、安全管理へのDX活用も急務
さて、こうした安全への規制の見直しと合わせて、デジタル技術による効率化もまた運送事業存続のために避けられない取り組みであり、そのためのソリューション選びも重要となる。GOの武田氏も交えたトークセッションでは、同社のAIドライブレコーダーサービス「DRIVE CHART」(ドライブチャート)を事例に安全管理へのITツール活用を検証。ドライブチャートは、ドライブレコーダーをベースとした専用車載器から得られる各種データから、交通事故を誘引する可能性の高い危険シーンを自動検知し、運転傾向を分析する。AIとIoTを掛け合わせた交通事故削減支援サービスによる、効果的かつ効率的な安全運転への取り組みとして、すでに導入数8万台を突破し、大手物流事業者の安全教育に活用されているという。
武田氏はこうした安全管理へのデジタルツール活用について、運用しやすく、継続しやすいことも大切とする。ツールの機能面だけではなく、GOではカスタマーサクセスチームによる運用サポートなどのフォロー体制なども構築するなど、安全管理、安全教育の実効性などもツール選びで検証すべきだと言い、危険運転の兆候や、運転習慣、事故原因などを可視化、データとして集積し、それを次の運用にどう活用するか、安全を軸に置いた運送事業の戦略が大切だと説く。中尾氏からも、安全への取り組みでコストばかりを課題と捉えるのではなく、安全へのコストは企業の付加価値につながっていくのだという観点が重要と指摘した。
武田氏は、今後の運送事業においては「物流品質を高めて選ばれる企業になる」チャンスとして安全対策を捉えることが、業界全体の底上げ、さらにそこからの好循環を生むとして物流業界一丸の適切な行動が呼び掛けられ、中尾氏からもそうした取り組みが将来に向けて結実することへの期待が語られた。
適正な取り組みを目指す事業者が損するようでは、物流業界の健全な発展は期待できない。行政からも、また技術面からそれを支えるIT事業者からも、安全を最優先に事業改革に取り組む運送事業のあるべき姿勢が共有された。また、3か月の前倒し施行となった行政処分の厳罰化では、運送事業の日常業務に関わる対応が求められるだけに、知らなかったで済ます事なく、早急な対策、準備が必要であることも再確認する機会となった。
Q
遠隔点呼の点呼実施者(運行管理者)は、在宅勤務(点呼システムを入れたPCを使用)でも可能なのか?
A
できません。点呼実施場所については、国交省の告示(いわゆる点呼告示)第四条において、「自社営業所又は自社営業所の車庫」としております。従前の対面点呼と同等の安全性を担保しつつ、ICT機器を活用してより効率的な運行管理業務が可能となるよう、今後も検討を進めてまいります。
参考(https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001743648.pdf)
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