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小ロット品の低温管理に適したアイテムを開発

2024年11月7日 (木)

話題食の安全・安心に対する意識の向上や、地域特産品のEC(電子商取引)化などを背景に、コールドチェーンのニーズが高まっている。そんななか、「移動可能な小型冷凍・冷蔵庫」をコンセプトにした画期的な製品を開発したのが、2018年設立のコールドストレージ・ジャパン(神戸市中央区)だ。代表取締役の後藤大悟氏に、創業の経緯や製品の強みについて聞いた。

コールドストレージ・ジャパンが提供する新しいコールドチェーンの形

冷凍冷蔵倉庫は、ドライ(常温)倉庫に比べ、建設コストやランニングコストが割高だ。そのため、これまで冷凍冷蔵倉庫を開発・保有してきたのは、資金力のある大手企業が中心だった。自社で倉庫施設や車両(冷凍・冷蔵車)を用意できない、中小零細規模の事業者(荷主や物流会社)は、大手が構築する物流インフラを活用することで、コストやリードタイムなどの面でさまざまな制約を受けながらも、コールドチェーンを展開してきたというのが実情だ。

▲コールドストレージ・ジャパンが提供する主要3製品

「投資負担を低く抑えた上で、使い勝手のいい独自のコールドチェーンを構築したい」──そんなニーズに応えようと、コールドストレージ・ジャパンが開発・提供しているのが、冷凍冷蔵コンテナ「COLD STORAGE BOX」(コールドストレージボックス)、けん引型の冷凍冷蔵トレーラー「COLD STORAGE BOX PORTABLE」(コールドストレージボックスポータブル)、高性能保冷剤・保冷ボックス「COLD STORAGE BOARD」(コールドストレージボード)の3製品だ。

コールドストレージボックスはコンテナ型の冷凍冷蔵倉庫だ。ある程度自由にサイズを決められるため、既存の施設内や遊休スペースなどに簡単に導入することができる。建築費も大型冷凍冷蔵倉庫と比べるとはるかにリーズナブルだ。

▲コールドストレージ・ジャパン代表取締役の後藤大悟氏

後藤氏は、コールドストレージボックスのような小型冷凍冷蔵倉庫の分散設置が進んでインフラ化すれば、「市場やスーパーマーケットなどを経由せず、食品を直接顧客に届けることができ、鮮度が命の商品の流通が進む」とした上で「配送コストが下がる一方、(“新鮮さ”という付加価値がつくことで)商品の価格を上げられる」と指摘する。

コールドストレージボックスポータブルは、乗用車でけん引できるトレーラー型の冷凍冷蔵庫。100ボルトの家庭用電源に対応しているため、場所を選ばず稼働できる。冷凍冷蔵トラックのように、保冷のためにエンジンをかけっぱなしにする必要もない。想定される電気代は1か月間動かし続けても1万円から1万5000円程度だ。イベント会場や被災地での活用はもとより、近隣イベントなどによる一時的な需要増に対応するために店舗で使ったり、フェリーでの離島への持ち込みなど、活用の幅は無限にある。

コンテナ型や移動型の冷凍冷蔵庫は保管場所と消費地を近づけることができるが、自宅への配送などラストワンマイル領域まではカバーできない。また、イベント会場などでの使用を想定した場合、目的地まで電源を確保できないことも考えられる。そんなときに役立つのがコールドストレージボードだ。同製品は無電源で半日以上も保冷機能を失わず、再利用も可能。近頃流通量が減少しつつあるドライアイスの代わりになることが期待される。


▲冷凍トレーラーの活用事例(出所:コールドストレージ・ジャパン)

後藤氏はこれらの製品で、国内のコールドチェーンを今までの一極集中型から、分散型に切り替えようとしている。「コールドチェーンの一極集中が解消されれば、さまざまな社会問題を解決できる」(後藤氏)からだ。

24年問題によって、従来のように距離が離れた拠点間の行き来は現実的ではなくなっている。輸送距離を短縮できる分散型のコールドチェーンは、こうした問題に対する解決策の一つになる。輸送距離の短縮はコストやCO2排出量の削減にもつながるはずだ。

安価に利用できるコールドチェーンはレストランやホテルといった需要家と産地との間のBtoB取引を活性化させる。そうなれば地元食材やジビエの流通が進むため、フードロスや獣害問題の解決にも寄与するというわけだ。

また、海外ではコールドチェーンそのものが未発達の国も多い。コールドストレージ・ジャパンは、ルワンダ向けにオフグリッド電力で稼働する冷凍冷蔵トレーラーを開発した。これは電力インフラが十分に整備されていないアフリカ各国でも十分に機能する。コンパクトな冷凍冷蔵設備は海を渡って人々の生活をより良いものにしている。

高い現場力を生かし、新しい価値を生み出す

後藤氏は明治時代から続く国際物流企業の経営者一家に生まれた。家業を継ぐことを前提に、大学では物流を学び、入社後は現場作業にも携わった。しかし、同氏がコールドストレージ・ジャパンの事業モデルは、社内の理解を得ることができなかった。「リスクを考えてもやる価値のある事業だと思った」(後藤氏)ため、独立を決意し、18年にコールドストレージ・ジャパンを設立した。

世界の物流現場を見てきた経験から、同氏は「日本の物流業界は現場力が高い」と感じている。「日本の現場スタッフは優しく、責任感を持って働いている。杓子定規にはいかないなかで、工夫をこらし、カバーしてくれているのは現場の人」(後藤氏)。

その一方で、「だからこそ、現場で吸収してしまう部分が大きすぎるのは課題の1つ」と指摘する。優しく責任感があるからこそ、対価と関係なしに仕事を引き受けてしまう現場を目にしてきた後藤氏は、「物流業として新しい価値を生み出すこと」を究極的な目標に据えている。現場の良さを生かしつつ、きちんと対価を得られるように支援をしていきたいと考えているのだ。

創業当時はVC(ベンチャー・キャピタル)から出資を受けるのも一苦労だったという。「私は前例がなくても、当社の製品が必要だと思っている。でも、かつてないものだとVCの人は『本当にマーケットがあるのか?』と考えてしまう。自分で資金を稼いで、会社を回していかなければならなかった」と後藤氏。先駆者ならではの苦労は尽きない。

VCが投資をためらうほどの挑戦的な製品開発のコツは「組み合わせを考えること」(後藤氏)。既存のものを組み合わせるだけでも、目新しいものをつくり出すことはできる。移動可能な冷凍冷蔵庫は、ありそうでなかったものだ。目先を変え、まだ発見されていない組み合わせを見つけることができれば、世界を少しだけ変えることができる。

現場を忘れず、情報をつなぐことを意識して

インタビューの最後に、物流スタートアップ企業へのメッセージを求めたところ、「現場を忘れないでほしい」とのこと。これが後藤氏の一番の願いだ。他分野からのスタートアップでも、日本の物流業界では現場が細かな見えない部分を吸収していることを忘れてはいけない。

また、物流に特化していえば、「運んでいることに伴う情報量の多さ」を意識することも大切だという。「実は情報が大量に集まっているのが物流業。つなぐ力を持っているし、物流業プラスアルファで多角経営もできる。これは僕自身、今も意識していること」(後藤氏)

コールドストレージ・ジャパンは、今後も現場目線で、日本と世界のコールドチェーンを変えていくはずだ。「移動可能な小型冷凍冷蔵庫は大きなマーケットを持つ、世界中で使える商材。まだまだ可能性を秘めている」(後藤氏)と意気込んでいる。

「コールドストレージ・ジャパン」ホームページ