話題国内の物流業界が深刻なドライバー不足に直面するなか、新たな人材供給の選択肢として「特定技能外国人ドライバー」の存在が注目されている。特に、技能と意欲を兼ね備えた人材を現地で教育し、日本の企業へ送り出す取り組みが進んでいる。ニホント(東京都江戸川区)も、こうした新たな挑戦に取り組む企業の1つだ。同社はネパールを中心に外国人ドライバー人材の紹介を行っている。
物流業界向けに特化した彼らのサービスは、単なる人材紹介にとどまらず、現地での日本語教育、安全運転教育、日本式交通マナーの指導、外国免許切り替え試験の対策を含む“育成型”の送り出しが大きな特徴である。とりわけ注目すべきは、海外現地での教育を担う送り出し機関と日本入国後の支援を行う登録支援機関の機能を自社で一貫して担っている点だ。ニホントの鎌田章寛社長は「送り出しと登録支援を一気通貫で運営することにより、教育内容の一貫性と対応の柔軟性を担保し、現地の教育と日本企業側のニーズとをダイレクトにつなぐことが可能となっている」と、自信をあらわにする。

▲(左から)ニホントの脇田遼取締役、鎌田章寛社長
人材の送り出しと登録支援を一貫して行う自社完結だからこその安心感
特定技能制度は、海外の送り出し機関、日本国内の登録支援機関、そして受け入れ企業という“三者構造”によって成り立つ仕組みである。しかし現状、登録支援機関は国内に約1万社存在するものの、その多くは外国人材に対する理解や専門性を欠いているのが実情だ。このため、制度上は外国人の紹介や雇用後の支援ができても、ニーズにマッチした人材を供給できない、外国人の立場に寄り添った支援や長期的な目線での運営ができていないといった課題がある。
こうしたなか、ニホントは制度の構造的な課題を先回りして解決するべく、送り出しから支援までを“自社完結型”で展開。教育と実務支援の垣根を取り払い、海外現地と日本国内の双方に自社スタッフを配置することで、スムーズな橋渡しを実現している。

▲ネパールにニホントが作った教習所に集まったドライバー志望者たち
出稼ぎ大国ネパールなら人材の安定供給が可能
ニホントが注目したのは、アジア諸国の中でも「ネパール」という国だった。当初は、これまで日本での外国人労働者の主軸を担ってきたベトナムをはじめ、インドネシアやフィリピンなど複数国を比較検討し、ベトナムで同事業をスタートした。しかし、同社取締役の脇田遼氏は「ベトナムでは給与水準の上昇により、ドライバー職に就きたい候補者が集まらなくなっている」と指摘。
こうした背景を踏まえ、両氏はアジア諸国(インドネシア、ネパール、スリランカ、バングラデシュ、スリランカ、インド、タイ)に実際に足を運び、インフラや免許制度、文化や宗教、言語の親和性などを実地で調査。ベトナムでメディアを運営していた経験を生かし、それぞれの国の特性を深く理解した上で、最終的に「長期的に安定した人材確保が可能」と判断したのがネパールだった。
「ネパールは人口3000万人のうち、実に700-800万人が出稼ぎに出ている国。しかし、そのうち日本に来ているのはごくわずかで、多くは中東やマレーシアで月収3-5万円程度の危険な仕事に従事しているのが現状だ。日本でのドライバー職は、彼らにとって『高収入で安全』という強い魅力を持っている」と鎌田氏。ネパールには強い産業がなく、海外へ職を求める労働者が多い。
ネパールでは20トンクラスの大型トラックを運転した経験がある人材も多く、過酷な山岳道路を日常的に走るなかで、細かく頻繁な安全確認をしたり、坂道での運転に習熟していたりするなど自然と高い運転技術を身に付けている。これは、日本の物流現場でも即戦力として期待できる資質といえる。
日本の自動車教習所の教官経験者による現地教習
脇田氏は「技術的な下地がしっかりしている分、日本での文化やマナー、安全意識の部分を重点的に教育すれば、十分に通用する人材になると考えています」と話す。こうした見立てをもとに、ニホントではネパールでの教育カリキュラムを独自に設計。日本語教育、日本式の交通ルール・ビジネスマナーなど、日本で働く上で必要な素地を“現地で”徹底的に教え込んでいる。
教育体制の中核を担っているのが、現地の運転教育だ。日本で長年教習所に勤務してきた人材がネパールに常駐し、日本の教習基準に則ったカリキュラムを展開。教育をスタートする前に実技のセレクションを行い、候補者を厳選したり、入国直前にも日本の外国免許切り替え試験の模擬テストを同距離で実施。合格できない場合は日本への入国はできない厳しいルールを設けており、入国後少しでも日本に対応するまでの期間を短縮できるような教育を徹底。
日本の交通ルールやマナーなどは、日本に来てから勉強を開始し一朝一夕で身につくものではないため海外現地で学習する8か月の期間中で日本人指導員から細かく指導を行うというスタイルをニホントは取っている。
「一番のハードルは日本語です。現地では毎日学習を重ねていますが、ドライバー志望者の中には学習習慣が十分に身に付いていない人も多く、日本語の習得に時間がかかるケースもあります。だからこそ、最初から厳格な選抜を行い、最終的に残った『精鋭』を送り出すという方針を貫いています」(鎌田氏)

▲日本の教習所で教官経験のあるスタッフが、現地で指導。質の高い教育はニホントならでは
特定技能制度では、就労前に「日本語能力試験N4以上」や「特定技能評価試験」への合格が求められる。ニホントではこの要件を前提に、実務に即した独自教材も開発。日本での道路事情、交差点の通行ルール、事故対応の考え方など、文化的なギャップに起因する問題を未然に防ぐ工夫をしている。こうした教育体制と徹底した現地サポートのもと、すでに80人以上の候補者が日本語教育を受けており、来年には第一陣のネパール人ドライバーが日本での就労を開始する見通しだ。
教育期間中は、通訳や生活支援スタッフが学習進捗や日常の不安解消をサポートし、脱落者を減らす工夫もしている。それでも、最終的には3-4割が日本語や理解力の壁で脱落するという。「だからこそ、最初の母集団は多く集める必要があります。ネパールでは1日に100-200人の応募があることもあり、大型トラックの運転経験者も多く含まれています。技術面では即戦力級の人材が豊富にいるのが強みです」(鎌田氏)
企業が安心して雇える人材育成を目指す
一方で、交通ルールやマナーにおける文化面での“すり合わせ”も重要な課題だ。たとえば、事故や接触に対する感覚。多くのアジア諸国では、「多少の接触は当たり前」とする文化があり、日本のように軽微な接触でも警察を呼ぶといった意識はない。こうした違いを丁寧に教え込み、日本の職場文化や安全意識を根付かせることが、教育の最重要ポイントだ。
「事故に対する認識が違うと、企業側が安心して受け入れられない。だからこそ、日本に来てからではなく、現地の段階で“日本式の常識”を体に覚え込ませる必要がある。これは我々がアジア各国で生活してきた経験から生まれたアプローチだ」と脇田氏は強調する。

▲セレクション時にスタッフがコースを説明する様子
その後も、定期的に教育・選抜・送り出しを繰り返しながら、年間1000人規模での人材供給を目指す。これにより、ドライバー不足に悩む企業にとっては、中長期的な安定採用の選択肢となることが期待されている。
「物流企業からも、ようやく“外国人ドライバー”という選択肢が現実味を帯びてきたという声をいただいている。これまで人材不足に苦しみながらも、外国人の活用には不安があるという企業も多かった。でも、我々がしっかり教育した人材であれば、安心して任せてもらえると思う」(鎌田氏)
同社では現在、採用を検討する企業に対し、現地教育の内容や日本でのフォロー体制について詳しく説明するセミナーの開催も予定している。将来的には、ネパール人材の強みをさらに磨くために、教習所との連携や入国後研修制度の導入、すでに日本に住んでいる外国人に対する運転教育といった新たな展開も視野に入れているという。「ネパール人ドライバーといえばニホント」と言われるようなポジションを築くことが、両氏の描くビジョンだ。
「仕事はあるのに、ドライバーが足りない。日本人ドライバーの高齢化も進んでいるし、残業も法律上増やせない。そのギャップを埋めるのが、我々の使命。外国人材にリスクや不安があるのも重々承知。だからこそ右から左の人材紹介ではなく、自ら育て、送り出し、支える。それができる体制を築いて、物流業界や日本社会に貢献したい」(鎌田氏)。
物流を止めないための取り組みが各方面で展開されているが、こうした国外から人材を供給する取り組み無くして、持続可能な物流の未来は訪れないだろう。