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菜鳥網絡の配送現場を取材

独身の日直前、
上海ラストワンマイル最前線

2024年11月11日 (月)

国際11月11日の「独身の日」が再びやってきた。中国最大のオンラインショッピングイベントであるこの日は、年々その規模と影響力を増している。開催を2日後に控えた9日、上海の街は熱気と興奮に包まれていた。

11月7日から9日にかけて上海を訪れ、アリババグループの物流テック子会社である菜鳥網絡(ツァイニャオネットワーク)の配送拠点「菜鳥駅站」を取材した。現場では通常の1.5倍に膨れ上がった荷物が山積みとなり、屋内だけでなく路上にまで宅配荷物が溢れていた。スタッフや従業員は、迫り来るピークに備え、準備に追われていた。

配送拠点の責任者は「独身の日から数日間はさらに荷物が増え、通常の2倍程度になる見込みです。配送車両を増やし、スタッフも総動員していますが、それでも対応しきれないほどの荷物量になります。しかし、消費者に迅速な配送を提供するために全力を尽くします」と語る。その表情には緊張感と使命感が漂っていた。

「菜鳥駅站」は、アリババが設立した革新的な物流プラットフォームで、上海をはじめ中国各地で広く利用されている。複数の運送会社が協力して運営し、大量の荷物を効率的に処理するハブとして機能している。

荷物が到着すると、消費者には受け取り場所と番号が通知される。この番号は荷物の保管場所を示しており、たとえば「7-2-1234」であれば、7番目の棚の2段目にある1234番の荷物を意味する。消費者はこの情報をもとに、自分の荷物を素早く見つけ出すことができる。

荷物を見つけた後、専用端末でバーコードをスキャンし、受け取り手続きを完了する。このプロセスにより、スタッフとのやり取りを最小限に抑えつつ、スムーズな受け取りが可能となっている。一度に大量の荷物を扱えるため、配送効率も大幅に向上している。

自宅までの配達を希望する購入者には、宅配サービスのオプションも用意されている。このサービスを利用する場合、購入者は1–2人民元(20–40円)の追加料金を支払う必要がある。これにより、自宅までの配送を受けることができ、より便利なショッピング体験が提供されている。

ただし、このシステムにはセキュリティ上の課題もある。本人確認が厳密ではないため、他人の荷物を誤って持ち出すリスクが指摘されている。そのため、高額商品や貴重品の場合は、直接手渡しでの受け取りが推奨されている。


「菜鳥駅站」は単なる荷物の受け取り場所にとどまらず、地域のコミュニティセンターとしても機能している。共同購入、クリーニング、リサイクルなどのサービスも提供し、地域住民の生活をサポートする拠点となっている。これにより、地域社会との連携を深め、持続可能な物流モデルを追求している。

現地の消費者に「独身の日」への意見を尋ねたところ、興味深い声が聞かれた。

30代の女性は「以前は『独身の日』は大きなセールで商品が安く買える日だと感じていた。しかし最近では、事前に価格を上げてから割引する店舗が増えており、実際にはそれほど安くない」と語る。

一方、20代の男性は「ネット通販は便利なので、小物や日用品はよく購入するが、特別なセールを待つより必要なときに買うようになった」と話す。

上海では、手頃な価格の小物をネットで気軽に購入する文化が根付いている。スマートフォンアクセサリーや文房具、キッチン用品など、低価格の商品が人気だ。これらの商品を個別に配達するのは非効率でコストも高いため、消費者自らが「菜鳥駅站」に足を運び、まとめて受け取るスタイルが一般化している。

また、時間を有効に使いたいというニーズから、仕事帰りや買い物のついでに立ち寄れる「菜鳥駅站」は利便性が高い。再配達の手間や待ち時間を省けるため、消費者と物流業者の双方にメリットがある。

高品質なサービスを求める層は、有料の宅配オプションを利用している。大型商品や高額商品、時間指定が必要な場合など、追加料金を支払ってでも自宅までの配達を希望するケースが多い。これにより、個々のニーズに合わせたサービス選択が可能となっている。

多様化する消費者ニーズに応えるため、菜鳥網絡は国内外で物流ネットワークの強化と革新を進めている。10月21日には配送ネットワークのさらなる強化と国際エクスプレスサービスの拡大を発表し、ピークシーズンでも滞りのない配送を目指している。

同社は全国に多数の大型物流センターと配送拠点を展開し、AIやビッグデータを活用したスマート物流システムを導入している。これにより、出荷物量の予測や在庫管理、配送ルートの最適化が可能となり、配送速度と正確性が向上している。

(出所:菜鳥網絡)

菜鳥網絡はアリババグループのECプラットフォームと連携し、出品企業に需要予測データを提供している。これにより、企業は生産計画や在庫を効率的に調整でき、消費者への迅速な商品提供が実現している。

さらに、無人搬送車や自動仕分け機などの最新技術を活用し、省人化オペレーションを推進している。環境への配慮も重視し、電気自動車や自転車を利用したエコ配送を導入。包装材のリサイクルや削減にも取り組み、持続可能な物流モデルの確立を目指している。

海外展開にも力を入れており、世界各地に物流拠点を設けている。特にヨーロッパや東南アジアでは、大型の物流ハブを設立し、国際配送の効率化を図っている。これにより、海外の消費者にも迅速な配送サービスを提供し、アリババグループ全体のグローバル戦略を支えている。

配送現場ではスタッフたちが24時間体制で業務にあたっている。自動化が進む中でも、最後の「ラストワンマイル」を支えているのは人間の力だ。

スタッフの一人は「ピーク時は大変だが、消費者の満足がやりがいだ。自分たちの仕事が多くの人の生活を支えていると思うと誇りを感じる」と語る。

(出所:菜鳥網絡)

人手不足や労働環境の改善も課題となっている。菜鳥網絡は従業員の待遇向上や働きやすい環境づくりに取り組み、研修や福利厚生の充実を図っている。

(出所:菜鳥網絡)

菜鳥網絡は、中国国内で急増する物流需要に対応し、サービス品質の向上と効率化を実現。同時に海外ネットワークの拡充を進め、グローバルな物流企業としての地位を確立している。

同社の取り組みは、消費者だけでなく、販売者や地域社会、さらには国際市場にも大きな恩恵をもたらしている。「独身の日」は単なるショッピングイベントを超え、中国の物流業界全体の実力を示す舞台でもある。

菜鳥網絡のスタッフたちの努力と技術革新が、この巨大なイベントを支えている。世界が注目する「独身の日」、その裏側で繰り広げられる物流の挑戦に敬意を表したい。

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