話題資材を少し見直しただけで「年間のトータルコストが抑えられた」「配送効率が上がった」と言われたら、あなたは信じるだろうか。shizai(シザイ・東京都港区)は、ニッチではあるものの、物流に欠かせないアイテムである資材や梱包材のコストダウンをサポートするスタートアップだ。同社の油谷大希氏(共同創業者・取締役)に話を聞いた。
コストミニマムになる資材工場を選定

▲shizai共同創業者・取締役の油谷大希氏
梱包資材を単なる“容器”と見なしている事業者は少なくない。しかし油谷氏は「資材の最適化こそがビジネスに与えるインパクトは大きい」と力説する。ここでいう“最適化”とは、無駄なコストの削減、デザインのブラッシュアップによる売上やユーザー満足度の向上などだ。
shizaiは全国500以上の資材工場をネットワーク化し、発注企業のニーズに合わせて最適な工場とマッチングさせる。無地のシンプルな段ボールはもちろん、オリジナルデザインの化粧箱、包装紙や紙袋、シールに至るまで、提供できる資材は多岐にわたる。
shizaiを通じて発注すると、コストを抑えられる理由は3つある。1つ目は製造費・配送費をかけ合わせて、最適な工場を選べるからだ。例えば、化粧箱を必要としている企業があるとしよう。shizaiは化粧箱づくりが得意で、しかも高品質・低価格を実現できる工場を探し、さらにそのなかから納品先が近い工場を絞り込む。そうすることで製造費や配送費を最適化できるわけだ。ある食品会社では、shizaiを通じた調達に切り替えたことで、配送用の段ボールと包装フィルムにかかるコストをそれぞれ年間2%ずつ削減できたという。
2つ目の理由として、shizaiが常に資材のコストや工場の動向を注視していることが挙げられる。前例を踏襲して「同じ工場に依頼し続ける」ことがないため、ユーザーは常に最適な提案を受けられる。
さらにshizaiは複数社のオーダーをまとめて一つの工場に依頼する。工場からするとスケールメリットが得られるため、発注企業と個別で取引した場合よりも単価を抑えられる。
資材に眠る物流改革のヒント
資材の最適化は物流現場にも多大な恩恵をもたらす。例えば資材のサイズを最適化すれば、箱内部に無駄なスペースが生まれず、配送コストを抑えられる。倉庫での保管効率も上がる。組み立てやすい仕様にすれば、現場の作業負担を減らせるとともに、強度を上げれば積み上げ(段積み)効率も高まる。
油谷氏は「梱包資材は物流の効率化を図る上で非常に重要な要素」とした上で「資材メーカーやユーザーの都合だけで決めていいものではない。今後は物流事業者とも密接に連携し、現場の声を反映させていきたい」という。梱包資材が持つ潜在的な価値を業界全体に知らしめたい考えだ。
デザイン見直しでユーザー満足度アップ
最適な資材選びは商品の売上アップやユーザー満足度の向上にもつながる。その好例が、コーヒーの定期配送サービスを提供する「POST COFFEE」(ポストコーヒー、東京都目黒区)との取り組みだ。
POST COFFEEは「コーヒー診断」と称し、ユーザーの好みのコーヒーをヒアリング。診断結果に基づき、毎月好みのコーヒーを届けるというユニークなサブスプリクションを展開する。同社はshizaiからのアドバイスで、梱包資材に印刷するロゴの色を変えている。
毎回、雰囲気が異なるパッケージで商品が届くようになったことで、ユーザーの満足度が向上したという。また、ユーザーは変化を敏感にとらえ、同社の梱包資材がSNSで発信される機会も増えた。特筆すべきは、インクを変えただけでパッケージデザインがまったく違う見え方をしたことだ。デザイン変更のためのコストや労力はほとんどかかっていない。手間をかければいいのかというと、決してそうでもなく、頻繁にデザインを変えると「別のものが届いたのではないか」とユーザーが混乱してしまうこともあるという。
資材業界の多重下請け構造にメス
そもそも油谷氏が資材に着目したきっかけは何だったのか。その理由として、同氏は資材業界の多重下請け構造を挙げる。資材業界では発注企業と工場の間に5-6社の会社が介在することもめずらしくない。そのため、上で述べたPOST COFFEEのようなちょっとした変更を反映するのにも、大変な時間と労力がかかる。
業界特有の専門用語や、手続きの複雑さも円滑なコミュニケーションを阻害していた。伝言ゲームのように要望を伝えるうちに、本来のオーダーとはかけ離れたものができあがってしまうことも多いという。
油谷氏と共同創業者である鈴木暢之氏はそこに目をつけ、2020年10月にshizaiを起業した。同社は発注者のニーズを直に聞き、それを理想的な形で叶えられる工場につなぐ「仲介役」を目指した。
さらにshizaiは企業の課題解決に取り組むコンサルティング機能も担う。企業は商品開発やマーケティングの改善を続ける一方、資材については一度発注したものをなんとなく使い続けるといったことが多かった。
同社は「資材」という観点から企業の継続的な成長をサポートする。“選んで終わり”ではなく、常に使用状況を振り返り、改善策を提示することで資材の価値をアップグレードし続けている。
物流現場のデジタル化推進をサポート

▲開発した梱包資材を手にする油谷氏
油谷氏は創業当時を振り返り、「EC(電子商取引)が成長する一方で、バックエンドとなる資材の発注や物流プロセスは驚くほどアナログだった」と話す。
実際、多くの資材工場では、今でもファクスでの受発注や、顧客先へ出向いての商談は日常茶飯事だ。資材業界の現状は、中小零細規模が大多数を占める物流業界の姿とも重なる。shizaiは発注プロセスをデジタル化することで、顧客企業と資材工場を効率的に結びつけることに成功した。
油谷氏は「アナログなオペレーションのなかで、テクノロジーが解決できる部分はまだまだある」と指摘する。具体的にはアナログな在庫管理や棚卸し、原価計算などを、デジタルの力で解決したいと考えている。
今まで物流業界では、資材選びにこだわる事業者は少数だったかもしれない。しかし、shizaiによって資材選びが物流に与える影響の大きさは周知されつつある。同社が資材業界のみならず、物流業界にも新しい価値を広めていくことを期待したい。
一問一答
Q.スタートアップとして、貴社はどのステージにあるとお考えですか?
A.ステージとしてはシリーズAで、次のステージに向けて資金調達を進めている最中です。事業が成立し、組織が構築でき、会社として盤石な体制を敷けていると思います。
私たちは資材の発注から管理、物流の選定に至るまで、あらゆる工程をテクノロジー化する未来を描いています。また、資材工場にシームレスに仕事が流れていく未来を夢見てもいます。そういった目標の達成度に関しては10のうち2つといったところで、まだまだ道半ばだと感じます。
Q.貴社の“出口戦略”、“将来像”についてお聞かせください。
A.M&AやIPO(新規上場)という選択肢は常にありますね。一緒になることでわれわれのビジョンをより明確にできそうな企業なら、M&Aを実施する可能性は十分にあります。