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「暫定」の名を借りた半世紀の重税に幕

軽油引取税の旧暫定税率廃止へ

2025年11月4日 (火)

行政・団体自民党、立憲民主党など与野党6党は10月31日、軽油引取税に上乗せされている旧暫定税率を2026年4月1日に廃止する方針を固めた。長らく「当分の間」とされてきた課税が、半世紀を経てようやく本則に戻る。トラック輸送を支えてきた現場にとっては、燃料負担の構造的な歪みが是正される節目を迎える。

軽油引取税は1964年(昭和39年)に創設された地方税で、当初の本則税率は1リットルあたり15円であった。軽油を「引き取る」段階で課税され、その税収は都道府県の道路整備や交通安全対策に充てられてきた。

(イメージ)

しかし1970年代に入り、道路特定財源の拡充を目的に「暫定税率」が導入された。最初の上乗せは76年(昭和51年)の7円80銭であり、これがいわゆる旧暫定税率の起点である。

その後、79年に9円30銭、93年にはさらに7円80銭が追加され、合計17円10銭の上乗せとなった。つまり軽油1リットルあたりの税負担は、本則15円に暫定17円10銭を加えた32円10銭に達し、この水準が今日まで維持されてきた。93年の追加分は「5年間の時限措置」とされたが、延長を重ねて実質的に恒久化した。

全日本トラック協会が「暫定税率7円80銭の撤廃」を強く訴え始めたのは、まさにこの93年導入分を指す。1990年代後半、燃料価格の高騰と運賃抑制の板挟みのなかで、トラック業界の収益は急速に悪化した。軽油価格に上乗せされる税額は1リットルあたり30円を超え、1台あたり年間数十万円の負担増となる。全ト協は「暫定の名を借りた恒久課税」として撤廃運動を展開したが、制度は温存されたままだった。

2008年には「暫定税率期限切れ」問題により、一時的に本則税率(15円)に戻る局面があった。しかし同年5月には与党の再可決で復活し、その後も継続した。09年度税制改正で道路特定財源が廃止され、軽油引取税は一般財源化されたが、税率は据え置かれたままである。法令上「暫定税率」という文言は消えたが、税率構造としての旧暫定分は存続し続けた。

今回の廃止方針は、こうした長年の経緯に区切りをつけるものである。対象となるのは本則15円に上乗せされている17円10銭分、すなわち旧暫定税率部分だ。26年4月以降は本則税率の1リットルあたり15円が維持され、17.1円の減税となる。大型車1台あたり年間2万4000リットルを消費すると仮定すれば、年間41万円のコスト削減効果になる。

また、全ト協の推計によれば、旧暫定税率分(1リットルあたり17.1円)に相当する業界全体の負担は年間2978億円に上る。今回の廃止により、その規模のコスト軽減が実現する計算だ。燃料価格変動の影響を除いても、運送原価の数パーセントに相当するインパクトとなる。

税収減に伴う地方財政への影響を懸念する声もあるが、政府は道路整備財源をほかの一般財源で補う方針を示している。むしろ注目すべきは、この決定が「物流の社会基盤を維持するための負担構造を見直す」政治判断として位置づけられた点だ。労務費や人件費上昇に直面するトラック運送業にとって、燃料コストの構造的是正は経営安定の前提条件でもある。

“暫定”の名を借りて50年続いた重税がようやく幕を閉じる。制度の歴史を振り返れば、それは道路整備のための一時的措置として始まり、いつしか既得構造と化していた。旧暫定税率の廃止は単なる減税ではない。国の物流政策が、道路財源中心の時代から「人と環境と効率」を重視する新しい局面へ移行することを象徴している。(編集委員・刈屋大輔)

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