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AutoStore×ソフトバンクロボティクス、両社のビジョンと戦略を探る

冷凍・大規模需要の高まりに対応、絶好機に投入

2025年2月26日 (水)

話題EC(電子商取引)市場の急成長に伴い、物流業界ではスピーディーかつ効率的なオペレーションの確立が喫緊の課題となっている。特に、冷凍・冷蔵食品や医薬品の流通量が増加するなか、極低温環境下でも安定して稼働する自動倉庫の導入が求められている。加えて、労働力不足が深刻化する日本で、倉庫作業の省人化と高効率化は企業の競争力を左右する要素となりつつある。

こうした課題を解決するべく、自動倉庫開発大手であるノルウェーの AutoStore(オートストア、日本法人:AutoStore System)は冷凍環境に対応した自動倉庫を開発し、ソフトバンクロボティクス(東京都港区)はその導入支援とオペレーション最適化を手がけている。本誌は両社に取材を行い、最新の技術革新や市場動向について話を聞いた。本記事では、冷凍対応モデルの実力とハイスループットがもたらす物流の未来に迫る。

物流業界の転換点──自動倉庫市場が拡大する背景

▲AutoStoreの日本での事業責任者、安高真之氏

ECの拡大とともに物流の自動化が急速に進む一方で、日本の倉庫現場では、限られたスペースと人材不足という課題が依然として存在する。特に冷凍物流は、作業環境の厳しさからオペレーションの負担が大きく、自動化による効率化が急務となっている。

AutoStoreの日本での事業責任者、安高真之マネージングディレクターは、「冷凍倉庫は、温度管理や人手不足など多くの課題を抱えている。そのなかで、最小限のスペースで高密度な在庫管理を実現できるAutoStoreの技術は、企業の持続可能な成長を支える重要なソリューションとなる」と語る。

冷凍対応モデルがもたらす革新

AutoStoreが発表した冷凍対応の自動倉庫は、マイナス25度までの環境で安定稼働する設計を実現している。これにより、冷凍・冷蔵の異なる温度帯を一元管理できるようになり、物流拠点の柔軟性が飛躍的に向上する。

「クイックコマースの成長により、アイスクリームや冷凍食品の即時配送ニーズが急増している。従来の冷凍倉庫は人手不足や作業環境の厳しさが課題だったが、この新モデルにより、作業員が冷凍庫に入る必要がなくなり、ピッキングの効率が格段に向上する」と安高氏は説明する。

▲冷凍温度帯対応のAutoStoreをテスト導入しているノルウェーのサイト

また、冷凍環境における結露や霜の発生は、機器の故障や商品の品質低下を招くリスクがある。AutoStoreの新モデルでは、冷蔵区画の中に冷凍倉庫を内包し、湿度をコントロールすることでこれらの課題を克服している。庫内の冷気が外部に漏れにくい構造を持つことで、エネルギー消費を抑えながら安定した低温環境を維持できるようになった。さらに、断熱壁とエアカーテンを組み合わせることで、冷気の流出を防ぐだけでなく、導入実績が豊富なAutoStoreのロボットが特殊な冷凍対応を行わずにスムーズに庫内を移動できるように設計されている。

▲ソフトバンクロボティクスロジスティクス事業本部事業開発部の岡六月部長

「冷凍倉庫の自動化は、省人化と省エネルギー化の両面で大きなメリットがある。冷蔵倉庫環境下で、必要な部分だけを冷却する設計を採用しており、エネルギーコストを最大40%削減できる」とソフトバンクロボティクスロジスティクス事業本部事業開発部の岡六月部長は語る。従来の冷凍倉庫では、庫内の広い空間を一定の温度に保つために大きなエネルギーを消費していたが、AutoStoreのシステムではピッキング対象の在庫エリアのみを選択的に冷却することで、大幅なコスト削減が可能になった。

さらに、実績のあるAutoStoreの在庫保管の仕組みをほぼそのまま利用するため、通常のAutoStoreと同じく庫内のオペレーションが大幅に効率化される。従来の人手によるピッキング作業と比べ、生産性は2-4倍に向上する。特に、従来の冷凍倉庫では作業員が定期的に休憩を取る必要があったが、この自動倉庫では冷蔵環境下でのピッキングを実現することからその負担がなくなり、安定した稼働を維持できる。これにより、作業の生産性向上に加え、労働環境の改善にも寄与する。

冷凍対応モデルの技術的特徴として、実績のあるロボットはそのままに、冷凍環境下にあるビン(商材が入ったコンテナ)の上げ下ろしを行い、冷凍環境を作る機構とは別に動作することが挙げられる。従来のように建物自体を冷凍する必要がなく、温度・湿度をコントロールした冷蔵環境条件を用意できれば、冷凍在庫を扱うことができるようになる点が画期的だ。

▲冷凍在庫の保管イメージ

「食品業界や医薬品業界では、品質保持の観点からも温度管理が極めて重要だ。AutoStoreの冷凍対応モデルでは、ピッキング精度の向上と温度変動の抑制を両立し、物流の信頼性を高めている」と安高氏は強調する。さらに、ロボットの制御システムには、入出庫の最適化を図るアルゴリズムが組み込まれており、商品の出庫頻度に応じて格納位置が自動調整される仕組みを採用している。この技術により、商品の鮮度管理が強化されるとともに、オペレーションのさらなる効率化が可能となっている。

ハイスループット対応が支える次世代倉庫

EC市場の急成長により、1日に何万件もの出荷を処理する必要がある倉庫が増加している。特に食品や医薬品などの分野では、即時配送の需要が高まり、倉庫内のオペレーションをいかに迅速かつ正確に行うかが競争力を左右する要因となっている。こうした環境では、スピーディーかつ高効率なピッキングが求められ、ハイスループット対応の倉庫システムが不可欠となっている。

「ハイスループットを実現するためには、倉庫全体のオペレーション設計が重要になる」と岡氏は述べる。倉庫の規模が拡大するなかで、スムーズな物流フローを構築するためには、単なる自動化だけでなく、入出荷の流れやピッキング作業の最適化が求められる。

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特に日本市場では、防火区画の制限があるため、大規模なAutoStoreの導入は難しいと言われていた。しかし、安高氏によれば、最近のプロジェクトでは従来よくあった1500平方メートルの防火区画内への導入のみならず、防火区画を超えたより大規模な導入が進んでいるという。従来、スプリンクラーなしでの防火区画内設置は1500平方メートルまでとされていたが、防火区画免除を取得し、適切な防火対策を講じることで、それ以上の広さを実現した案件が日本でも実現している。

▲ハイスループットを実現する「R5 Pro」

また、AutoStoreのシステム自体も進化を遂げている。最新AutoStoreのR5 Proでは、従来モデルと比べて格納密度・ロボット自体の性能が向上し、同じ倉庫スペースでもさらに多くの商品を保管・出荷できる設計となっている。これにより、限られたスペースの中で最大限の効率を引き出すことが可能になった。さらに、ハイスループットを実現するため、急速充電に対応したバッテリーを搭載することで昼夜連続稼働の対応も強化、ロボットの制御アルゴリズムも改良され、最適なピッキングルートを瞬時に計算することで、作業のスピードが向上している。

ハイスループットを支えるもう一つの要素は、システムのダウンタイム削減だ。AutoStoreは、ロボットが1台停止してもほかのロボットが代替作業を行える設計となっており、万が一のトラブル発生時でも倉庫全体の稼働率を維持できる。これにより、倉庫運営の安定性が向上し、出荷遅延を最小限に抑えることができる。

岡氏は、「防火区画の制限をクリアしつつ、大規模倉庫への適用を進めることで、日本の物流オペレーションの効率化をさらに推進していきたい」と展望を語る。AutoStoreとソフトバンクロボティクスが提供するハイスループット対応の倉庫システムは、今後のEC市場の成長を支える重要なソリューションとなるだろう。

自動倉庫が切り拓く物流の未来

冷凍対応モデルとハイスループットの技術革新により、自動倉庫は物流業界に大きな変革をもたらしている。今後の物流の自動化は、省人化や効率化だけでなく、エネルギーコストの削減や環境負荷の低減といった観点でも、ますます重要な役割を果たすことになる。

「AutoStoreの冷凍対応モデルは、日本の物流市場にも適したソリューションだ。ソフトバンクロボティクスとの連携により、販売から導入支援、アフターサポートまでワンストップで対応し、多くの企業が導入しやすい環境を整えていく」と安高氏は語る。

岡氏も「物流の自動化は、単なる省人化ではなく、企業の競争力を高めるための手段だ。最適なソリューションを提供し、未来の物流を創造していく」と締めくくった。

「AutoStore」ソリューション

■ソフトバンクロボティクス「AutoStore」ページ
https://www.softbankrobotics.com/jp/product/autostore/

■マルチ温度ソリューション
https://www.autostoresystem.com/jp/system/multi-temperature-solution

■R5シリーズ
https://www.autostoresystem.com/jp/system/robot-r5