
▲特定技能外国人ドライバー第1号としてアサヒロジスティクスに入社した周鴻澤さん
ロジスティクス中国出身の周鴻澤(しゅう・こうたく)さんが15日、食品物流大手アサヒロジスティクス(さいたま市大宮区)のドライバー専用研修施設「滑川福田センター」(埼玉県滑川町)で開催された入社式に臨んだ。特定技能1号の在留資格(自動車運送業分野)を得て、トラックドライバーとして働くことが認められた第1号となったことで、業界関係者の注目を集めている。
周さんは2019年に来日し、九州の日本語学校を経て日本経済大学で経営を学んだ。日本語能力試験は上から2番目にあたる「N2」レベルに合格済みで、日常会話だけでなくビジネスの場面でも十分対応できる。大学在学中に「安定した職を得たい」「自分を試したい」という思いが募り、特定技能1号評価試験(自動車運送業分野)に挑戦。昨年12月の試験に合格し、ことし3月末に在留資格許可が下りたばかりだ。
アサヒロジスティクスは1945年に創業し、現在では全国に7700人の社員と1700台のトラックを抱える食品物流大手。1日に2万店舗へ荷物を届けており、そのサービスは600万人の生活を支えるインフラといえる。同社の横塚元樹社長は入社式の挨拶で「ドライバー不足が叫ばれる2024年問題を見据え、未経験者や外部人材の育成・採用にはかなり前から力を入れてきた」と語る。

▲入社式での横塚元樹社長(右)の挨拶
同社は毎年200人以上の新規ドライバーを採用し、一定の研修過程を経て事故防止や効率的な配送のノウハウを身につけさせる仕組みを確立している。その一環として整備されたのが、今回の式典会場となった滑川福田センター。ここでは3泊4日の集中研修をはじめ、安全運転指導や荷扱いの実技講習が行われる。各拠点にはセーフティーアクションインストラクター(SI)が常駐し、ドライバー一人一人の運転技術を細やかにフォロー。横塚社長は「特定技能制度は使い方次第では業界にとって大きな問題にもなり得るからこそ、十分な研修と受け入れ体制で“安全・安心”を実現したい」と強調する。

▲人財本部本部長の高橋寛氏
同社は以前から未経験ドライバーの育成に力を注いでおり、免許取得支援や同乗研修、さらには管理職やリーダー候補を対象にした「アサヒ人財育成大学」(ALU)という1年がかりの階層別教育プログラムも整備している。プログラムの受講者は、日々の業務を離れて横のつながりを強化し、トラブルや悩みを相談できる関係性を築くという。人財本部本部長の高橋寛氏は「当社のモットーは『外国人だから特別』ではなく、『日本人と同じ体制でゼロから育てる』こと。周さんは日本で免許を取得し、日本語能力も高いので、スムーズに研修を受けられると考えている」と期待を寄せる。
なぜ周さんが採用の“第1号”として選ばれたのか。高橋氏によれば、周さんは大学で経営を学ぶ傍ら、運転にも強い興味があったという。普段から友人とドライブを楽しみ、「いずれは自分の店を持ちたい」という将来の夢も語っていたそうだ。「真面目で人当たりが良く、日本での生活基盤を作るためにチャレンジしたいという熱意が採用の決め手だった。外国人というのはたまたまで、人間性によるところが大きい」と高橋氏は振り返る。さらに周さんは、福岡での学生生活でさまざまな人々と交流を重ねており、社交性と柔軟性が採用のプラス要素になった。

▲外国人ドライバー支援機構の田邊慎一氏
一方で、外国人ドライバー採用を橋渡しする役割を担ったのが、自動車運送業に特化した外国人の採用・就労支援を手がける外国人ドライバー支援機構(FDSO、福岡県大野城市)の田邊慎一氏だ。面接対策やビザ申請のサポートを行い、ときに「第1号になって有名になりたい」と笑う周さんの背中を押した。田邊氏は「特定技能ドライバーの在留資格を取得するには評価試験の合格や日本語力などの要件があり、さらにビザの審査書類は膨大だった。一度追加書類を求められるなど紆余曲折もあったが、周さんの誠実さとアサヒロジスティクスさんの受け入れ体制がうまくかみ合い、ここまで漕ぎつけた」と振り返る。
入社式を終えた周さんは「嬉しい気持ちでいっぱい。早くたくさんの仲間に会いたい」と笑顔を見せた。今後は数週間の同乗研修を経て、独り立ちして関東圏の営業所を拠点に配送業務を担う予定だ。横塚社長は「周さんには“先駆者”として、後に続く外国人ドライバーの手本になってほしい。もし改善案や意見があれば、遠慮なく言ってもらいたい」と期待を口にする。
国内の人材不足が深刻化する運送業界において、外国人ドライバーの存在は決して小さくない。だが、アサヒロジスティクスは「外国人で補う」という安易な発想は取らず、まずは日本人でも安心して成長できる育成モデルを作り、その中に外国人も無理なく溶け込む形を目指している。人手不足対策でありながら同時に「世界中から人材を受け入れ、一人前のドライバーとして育てる」モデルを確立するというアサヒロジスティクスの戦略は、今後の外国人材の活用に少なからぬ影響を与えるはずだ。
すでに次の外国人採用も構想しているという同社。特定技能制度を正しく運用し、未経験者でも成長できる仕組みをさらに磨くことで、過酷なイメージの強いトラックドライバー職に新たな可能性をもたらせるだろう。
LOGISTICS TODAY presents
第2回「運びと地位向上全国キャラバン2025」
~背水の運送業に捧ぐ、活路を探るクローズド勉強会~
国内初!特定技能ドライバー採用の現場から
~アサヒロジスティクスが挑む、ドライバー不足解消のカギ~
<日時>
2025年4月22日(火)、16時開始(15時30分開場)
<場所>
東京都渋谷区恵比寿1-19-19恵比寿ビジネスタワー16F
株式会社フィナンシャル・エージェンシー
※会場近隣での懇親会あり
<登壇者>
周鴻澤氏(アサヒロジスティクス・特定技能ドライバー)
アサヒロジスティクス採用担当者
聞き手:赤澤裕介(LOGISTICS TODAY代表取締役/編集長)
吉岡泰一郎氏(トラボックス会長)
詳細・申込はこちら
https://www.logi-today.com/758381
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