ロジスティクス2025年も後半戦を迎えた。物流を取り巻く環境の変化も加速する。
本稿では、これまでの本誌LOGISTICS TODAYの上半期報道から業界動向を整理し、次なる展開に向けての理解や考察を深めていきたい。
ここでは、上半期特に多数の報告があった「ドローン」に関わる最新動向について総括する。
物流危機は「2024年問題」だけではない-災害対応への備え急務
25年上半期、物流業界では「2024年問題」への対応が本格化した。トラックドライバーの時間外労働規制が強化され、輸送力の減退が懸念されるなか、荷主企業や物流事業者は中継拠点の整備、モーダルシフト、共同配送など、計画的な効率化に向けての活動も本格化していた。だが、そうした“計画できる変化”をはるかに超える事態となったのが、昨年の年明け早々に業界を揺るがした、能登半島を襲ったマグニチュード7.6の地震である。
この地震により、道路網は広範囲で寸断され、港湾も機能停止。孤立した集落では、物資の供給ルートが完全に断たれた。フェリーや空路を活用した緊急輸送体制が急ごしらえで整えられたものの、従来の物流網がいかに災害に脆弱であったかが明らかになった。多くの物流関係者が、これまで優先していた「効率性」ではなく、「持続可能性」「多層性」の重要性に気づく転機となった。
こうした混乱のなか、ドローンによる物資輸送も再注目されることとなった。道路が通じず、重機も入れない地域に、小型のドローンが緊急物資を届ける可能性が現実味を帯びて語られるようになった。もちろん、積載量や飛行距離、悪天候の影響など、技術的な制約は多い。だが「ドローンは絵空事ではなく、災害時の現実的な輸送手段になり得る」との認識が一般にも広がったことは、非常に大きな意味を持つ。
災害後の物流混乱を目の当たりにし、自治体や企業の中には、ドローンを計画的に活用する体制づくりへと舵を切る動きも出てきた。各自治体では物流事業者との連携でドローン活用の防災協定を締結する動きも活発だ。千葉県いすみ市では、高齢化が進む住民の“買い物弱者”支援と、災害時のBCP(事業継続計画)対応を両立させる仕組みとして、ドローン物流の実証実験を継続している。いずれも、能登半島地震を契機に「いつか起こるかもしれない」ではなく、「明日起きてもおかしくない」事態を前提とした発想への転換を示している。
非常時に浮上した“空からの物流”という選択肢

▲五島市で診療所から離陸するドローンの様子(出所:豊田通商)
物流が“止まる”という現実を経験した今、単なる緊急手段ではなく、ドローンを「日常にも機能する輸送インフラ」として活用する方向性も見え、理解も深まってきた。豊田通商は長崎県五島市で2月、九州初となるドローンのレベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)による処方薬配送の実証実験を開始したと報告している。これまでも同エリアではドローン配送の検証が重ねられてきたが、レベル4飛行での運用が実装されれば、より具体的な事業化展開へと広がる。今後地方での配送困難地域でのドローン配送の事業化では、ドローンのレベル4飛行の許可申請を煩雑な経路ごとではなく、エリアごとの許可・申請にすることが検証されており、この取り組みを通じて要件整理されることで、迅速なルート開設や事業化につながることも期待される。
特に離島や山間部では、災害による配送ルートの途絶が常に想定され、近年はそれが長期化するリスクも拡大している。ドローンであれば数キロ先まで必需品である医薬品などを安定的に届けることができ、実証実験の枠を超えて社会インフラとしての第一歩を踏み出している。エアロネクスト(東京都渋谷区)も、地方自治体とドローン配送の連携協定を拡大しており、ドローン物流が“もしものときの手段”から、“いつもの物流の一部”へと組み込まれていく未来を示している。そしてその未来は、決して遠いものではない。25年の上半期も、それを現実に感じさせる動きが全国各地で広がり始めた時期だった。
道路陥没事故が突きつけたインフラ課題
25年3月、埼玉県八潮市の市道で道路が陥没し、トラックが巻き込まれる事故が発生した。原因は老朽化した下水道管が破損したことで生じた空洞とみられており、当初の異常を誰も感知できないまま、突如として地面が崩落したことで、尊い人命が犠牲になった。これは、道路インフラの安全性の信頼の上に成り立つ運送事業、物流関係者にとっては大きな衝撃、教訓となった。配送ルートとして日常的に使われていた幹線道路が、何の前触れもなく通行不能になる。こうした事態は、災害と同じく“物理的に運べない”リスクそのものを内包している。

▲球体ドローンによる下水道点検(出所:ブルーイノベーション)
この事故を契機に、点検・保守という日常業務の重要性が改めて浮き彫りとなった。老朽化が進むインフラの現場では、従来の人海戦術や目視による点検では見落としが避けられず、劣化が深刻化してから対応せざるを得ないケースも多い。インフラ点検の精度と頻度をどう高めていくかが、これからの物流維持への隠れたテーマとなっている。
こうした課題に対して、ドローンを“予防保全”のための技術として活用する動きが加速している。橋梁や下水道、トンネル、急斜面といった人の立ち入りが困難な場所に、小型のドローンが飛行・走行し、赤外線カメラやLiDAR(レーザー計測)を用いて詳細な内部状況を可視化する。本誌でも紹介されたように、こうした点検ドローンは単なる“未来技術”ではなく、すでに現場で稼働している実用機器となりつつある。

▲鉄道設備の自動点検(出所:スカイピーク)
特に、橋脚のひび割れや腐食、配管内の滞留物、漏水などは、肉眼や定点カメラでは見逃される可能性がある。ドローンであれば高所作業や閉所作業のリスクを軽減しつつ、データ化された画像や計測値をもとに、より精緻な判断が可能になる。物流の根幹である「道」を守るという視点で見たとき、点検ドローンの価値は極めて大きい。
一方で、こうした技術を十分に生かすには、機体性能や計測精度の向上だけでなく、それを運用できる人材と制度の整備が欠かせない。
続く中編では、高まるドローン活用の重要性に対して、それを支える環境整備の動向などを追う。
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