ロジスティクスドローン活用の広がりとともに浮上してきたのが、飛行に関する規制と人材不足の問題である。現行法では、目視外飛行によって第三者の頭上を飛行する「レベル4」に該当する運用は、国の許可と専用の技能証明を取得したうえでなければ実施できない。ドローン点検や物流が本格化すればするほど、操縦者の育成と認定制度の拡充が喫緊の課題となる。
すでに一部自治体では、消防や建設部門に所属する職員がドローン訓練を受けるなど、点検や災害時の活用に備える体制づくりを始めている。しかし、民間事業者や物流会社が即時対応可能な体制を持っているケースはまだ限られており、自治体・民間を横断した人材バンクやオペレーターネットワークの構築が待たれる。
さらには、ドローンの導入を「費用対効果で見てしまう」傾向も課題だ。インフラ点検や災害予防といった用途は、その効果が“発生しなかった被害”という形で表れるため、成果が可視化しにくい。だが、物流を“止めない”ための仕組みとして考えるならば、事前点検とリスク検知におけるドローン活用は投資に値する取り組みだといえる。
拡大する市場、企業の取り組み活性化
これまでドローン物流は、「災害対応」や「離島配送」といった特殊な文脈で語られることが多かった。しかし今後は、「物流の前提であるインフラをいかに守るか」という視点でもドローンが欠かせない存在となっていくだろう。点検ドローンは、ドライバーのいない場所で、静かに“物流の背骨”を支える存在として、今まさに現場に入りつつあることは前章で述べた。老朽化と地震リスクが常態化する日本で、ドローンは「非常時に備えるための技術」であると同時に、「日常の安全を支える目」である。その両面の価値を見極め、現場で使いこなしていけるかどうかが、物流業界にとっての次の試金石となる。
インプレス総合研究所は、国内のドローンビジネスの市場規模は4987億円に拡大、30年度にかけての年間平均成長率は15.2%で推移し、30年度には1兆195億円に達すると予測した。ドローン機体開発や、ドローン事業サービスのほか、大手通信事業、人材教育の分野からも市場が活性化し、バッテリーなどの消耗品の供給や定期的なメンテナンスなどの周辺サービス事業でも大きな成長が期待される。

▲ドローンビジネスの市場規模(出所:インプレス総合研究所)
楽天グループによる福島県南相馬市でのドローン配送取り組み開始は17年にまでさかのぼり、地域の配送インフラの一つとして定着しつつある。楽天ドローン(東京都世田谷区)と楽天インシュアランスプランニング(港区)は5月、ドローン関連サービスの利用者を対象とした「楽天ドローン保険」の発売を開始したと発表しており、ドローン物流の課題でもある対人・対物の賠償責任補償商品の開発で、ドローン普及を後押しする。楽天ドローンは、ドローンパイロットの育成を目的とした「楽天ドローンアカデミー」やドローンパイロットと企業や個人のマッチングプラットフォーム「楽天ドローンゲートウェイ」も運営しており、ドローン運用がしやすい環境作りに取り組んでいる。
Terra Drone(テラドローン)は、サウジアラビアでのドローン物資搬送を進めている。イームズロボティクス(福島県南相馬市)も、物流、防災ドローンなどの普及に向けて、ことし上半期盛んに情報発信している。
また、ことし7月にはソフトバンクとエアロネクストが業務提携を締結、AI(人工知能)活用による遠隔自動操縦システムを共同開発して「フェーズフリー型ドローン物流プラットフォーム」を構築し、災害時・日常物流の両方に対応する実運用の枠組みを目指すことが報じられており、レベル4飛行に向けた実運用ソリューションの競争も激しくなるのではないか。

長距離飛行マルチユースドローン「PF4」(出所:ACSL)
機体開発では、ACSLがペイロード5キロ搭載時で40キロの航続距離を誇るマルチユースの長距離飛行ドローンの量産を発表したのがことし5月。期待性能の技術も進歩している。可搬重量も年々増加しており、土木・建築現場や農地などでの資機材や農産物の運搬への活用も現実的になっている。一方で、ドローンショーに見られるようなドローンの群制御技術の進歩、狭小空間の安全飛行の技術的進歩も、多方面への応用が期待できそうだ。
Soradynamics(ソラダイナミクス、東京都中央区)は、香港の大手物流事業と提携し、車載型ドローン物流システム「マイクロハブシステム」を共同開発している。マイクロハブシステムは、配送車両にドローンを統合し、「発着、充電、貨物の積載・交換」などを自動化するソリューション開発も興味深い。
成長が期待されるドローン事業には今後も新たなプレイヤーが国内外から参画し、中には物流危機の解決策となる革新を生み出すような取り組みもあるかもしれない。
後編では、それらの事業者の活動を支える基盤がどのような状況にあるのか、上半期のトピックを整理する。
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