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“未払い”裁判のサカイ報酬制度は対岸の火事か?前編

2025年8月14日 (木)

▲三多摩法律事務所のサカイ残業代訴訟弁護団

ロジスティクス引っ越し業界最大手のサカイ引越センターが、トラックドライバー兼引越作業員(現業職)への残業代未払いを巡って訴えられている裁判が、現在最高裁判所に係属中だ。通常の業務時間を超える長時間労働に対して、一部の手当が歩合給(出来高払制賃金)に該当するとして通常の賃金の25%しか払われていなかったことに対して、法で定める超過労働時間分の125%を支払うべきであるなどとして争われ、1審、2審ではドライバー側が勝訴している。2審の判決が出されたのは2024年5月15日だが、それから1年経っても最高裁の判断は出されていない。

物流業界、運送業界の事業者、働き手にも影響が大きい裁判だけに、業界からの注目を集めているが、裁判の焦点はどこなのか。原告となった元ドライバーらの代理人を務める、三多摩法律事務所の弁護団に最高裁での論点と、運送業界の給与制度の問題点について取材した。

トラックドライバーに「歩合給」「出来高払い」はあり得るのか?

発端は、同事務所が顧問を務める労働組合に寄せられた相談だった。「若いドライバーが“こんなに働いているのに、なんでこんなに給料が少ないのか”と相談に来た。最初は率直に“おかしい”という感覚から始まった」と弁護団の小林克信弁護士は語る。

調査を進めると、基本給はおよそ6万円と低く、ドライバーの収入の多くは出来高払制賃金と称して支給される「業績給」が占めていた。その実態は、法律が定める時間外手当(割増賃金)の計算基礎に関するルールを回避し、割増賃金を低額にするための仕組みだった。サカイ側の主張では「出来高払い制度」に基づく正当な賃金体系とされていたが、弁護団はこれを「見せかけの出来高制賃金」と呼ぶ。

小林弁護士は、「出来高制というのは、本来は労働者が成果を上げた結果に対して、一定比率で報酬を受ける仕組み。ところがこの件では、ドライバーは会社から命じられた配送業務を労働時間内に遂行していただけで、自分の仕事の成果(作業量及び運転距離)に対応しての報酬ではない」と説明する。

例えば、営業マンが自分の才覚で営業活動、セールスを行って仕事を取ってきた場合、売り上げに応じて一定の比率の報酬=歩合給が発生する。製造業であれば、生産した物量に応じて報酬が支払われる。同じ運輸業のタクシーであれば、ドライバーの判断で、客が多いターミナル駅前や、深夜に長距離利用が多い大企業のビルの前で客待ちをするなど、自らの判断によって売り上げを立てることで歩合を取るということができる。

「しかし、実態としては、トラックドライバーは自分で自分の仕事を選んで取ってくるわけではなく、配車係に命じられた案件を遂行するにすぎない。これでは『歩合給』『出来高払い』の考え方に合わず、会社の指示命令に基づく通常の労働と変わらない」と小林弁護士は語る。

一・二審は原告側が勝訴——1570万円の支払いを命じられたサカイは上告

今回の裁判の問題の根幹は、残業代の計算方法にある。労働基準法によれば、時間外労働には、月給制の場合には賃金に対して125%以上の割増賃金を、出来高払制の場合には25%以上の割増賃金を、それぞれ支払うことが義務づけられている。サカイは「業績給」などを出来高払制賃金と称して、25%しか割増賃金を支給しない仕組みを作っていた。基本給が極端に低く抑えられているため、実質的な支払額は大幅に少なくなる仕組みだった。

井橋毅弁護士は、「サカイは成果に応じた支給と主張しているが、実際には極端に低い報酬しかもらえない仕組みで、自分の頑張りがどう反映されているかもわからない。結果的に、どれだけ働いても報われないため、納得感のない給与体系に失望して辞めていくケースが後を絶たない」と指摘する。

本件では1審・2審ともにドライバー側が勝訴し、「実態として出来高制とは認められない」との判断が示され、サカイに対して1570万円の支払いが命じられた。だが、サカイ引越センターはこれを不服として最高裁に上告。最高裁の判断次第では、業界全体の賃金体系に大きな影響を及ぼす可能性がある。

サカイの上告の主旨は「当該賃金が出来高払制賃金に該当するか否か、割増賃金の比率を0.25(25%)とするか1.25倍(125%)とするかは労使合意で決めることができる」というものだ。法律では通常の賃金の1.25倍(125%)の賃金を支払うべしとしているが、「労使の合意」により「出来高払制賃金」とすればこの比率を0.25とすることができ、サカイはこの取り決めに従って賃金を支払っていたに過ぎないので違法ではない、という主張だ。果たしてこれは最高裁で受け入れられる主張なのだろうか?

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