ロジスティクスいわゆる「2024年問題」により、2030年には輸送力が3割超不足すると危惧される農産品輸送。すでに改正された改善基準告示でドライバーの時間外労働が年間960時間に制限されたことにより、運行できない便も生じ、存続の危機に直面する産地もある。こうした状況のなか、野菜や果物の輸送を鳥取で続ける小椋運送(鳥取県米子市)の乗本義洋専務に現状と展望を聞いた。

▲小椋運送の乗本義洋専務
創業40年となる同社は鳥取・西米子を拠点に京阪神、名古屋、山陽などへの農産物輸送を手がけている。主な荷物は一年を通して出荷される白ネギのほか、夏はトマト、初夏と秋冬のブロッコリーなど。また、ナシ、スイカ、冬柿などの果物も運ぶ。
同社では、24年問題に伴う労務時間制限に対応するため、集荷方法の見直しを進めている。従来はドライバーが直接荷主先で積み込みを行っていたが、現在は専任のクルーが集荷を担当し、会社で荷物を集約してから配送車両に積み込む体制に切り替えた。「以前はドライバーが直接集荷に行っていたが、今は別のクルーでまとめるようにしている」と乗本氏は説明する。これによりドライバーの負担が軽減され、出勤時間を遅らせるなど労働時間の調整が可能となった。

▲同社の倉庫に荷物を集約してから配送することで、効率化を図っている
また、荷主にパレット使用を依頼し、手積み作業を極力減らす取り組みも進めている。「荷主にパレットを持ち込んで、あらかじめ積んでおいてもらうようにしている」と乗本氏。パレット化によって積み込み・積み下ろしの効率が上がり、作業時間の短縮だけでなく、ドライバーの労務改善にもつながっている。乗本氏によると「ブロッコリーは鮮度の『足が速い』作物。以前は、段ボール梱包だったが、現在は発泡スチロール箱に氷詰めにして運ぶことが増え、1箱10キロを超えることもある」といい、労働負荷の軽減の取り組みは必須だ。荷物のパレット化などの積極的な働きかけの積み重ねが、ドライバーの働き方改革を進めながらの安定運行を支えている。
農業、そして農産物物流で常に課題となるのが天候の影響だ。工業製品などと比べると計画的な出荷が難しいうえ、台風や大雪で高速道路が止まれば運行不可能だ。近年は、荷主側のドライバーの安全確保への意識も高まっており、「台風や降雪で運行が難しいときには、『安全優先で』と言ってくれる荷主も増えている」といい、時には運行を取りやめとなるケースもあるという。
一方、夏の猛暑による影響も少なくない。同社が毎年輸送するナシは運賃も高く、同社にとってはありがたい荷物。しかし乗本氏によると「猛暑のせいで果実が小玉になり、初期の数が収穫できても、箱数が減り、個建ての運賃が減ってしまう事態が起きている」というのだ。ときには、想定500ケースが2割減になることもあるという。昨年からことしにかけてキャベツが高騰した際は出荷個数が減るとともに球が小さくなり、個建てで稼ぎにくい状況が発生した。同様にキャベツについても、夏の高温による苗の生育不良が原因となっており、農産物輸送の各所で、猛暑の影響が随所に出ている。

▲鮮度維持のための冷凍倉庫も保有
それでも、季節もので嗜好性が高い果物類は店頭価格が高く、比較的運賃も高く設定しやすいが、店頭価格が高くないネギなどは運賃交渉もなかなか進まないのが現状。同社では「一般貨物と積み合わせたり、帰り荷を確保することで、野菜の積載率が6割あれば利益が出る計算でやっているが、3割程度しかなく、赤字で走ることもある」という。帰り荷も可能な限り手配をするが、「帰り荷の5割は空荷」で、決して楽な状況ではない。
少ない荷物で、赤字とわかっていて運行することもあるが、近隣の同業者に依頼してしまうこともある。逆に、多すぎる荷物を引き受けることになった際に、余剰分をほかの運送会社に分担してもらうこともある。また、ほかの業者がさばききれない荷物を、同社が引き受けることもある。乗本氏によると「西米子エリアの農業生産者は多くないし、それを輸送する運送業者もたくさんいるわけではない」との地域ならでは背景があり、「同業者間での連携なくしては、地域の農産物物流は成り立たない」のが実情なのだという。
乗本氏は「経営の安定化のためには、より高い運賃の収受が必要だ」とし、実際に運賃交渉により値上げも実現しているが、「農業生産者の多くは零細であり、闇雲に運賃を値上げすれば、我々が運ぶ農産物の作り手の経営が立ちゆかない」と苦境を語る。「店頭の農産物がより高値で買われるようになれば運賃も高くできるが、それは我々の力の及ぶことではない」と天を仰ぐ。
また乗本氏は「運賃が上げられたところで、24年問題があるので、ドライバーの所得が上がるのだろうか」とし、「これまでは多少きつくても頑張れば頑張っただけ稼げたが、改善基準告示が改正されたことで、ドライバーの賃金はそこそこの金額で頭打ちになってしまうのではないか」と語った。改善基準告示の改正でトラックドライバーの超過労働時間は960時間までに制限され、国はさらに、他の業種並みの720時間まで制限することを視野に入れている。乗本氏は「以前はトラックドライバーで稼いで事業を始めたり、家を建てたりという夢のある時代があったが、これからはますますうま味が少なく、ほかの業界からの人材の流入が望めない業界になってしまうのではないだろうか」と懸念を示した。
あらゆる産業で人手不足が加速するなか、トラックドライバーは慢性的ななり手不足となっている。人材不足について自ら触れるからには、同社でもそうした事態が起きているのかと思いきや、同社は「人材採用は順調」なのだという。そのきっかけとなったのは、自社ホームページ(HP)の立ち上げと、SNS運用だ。

▲乗本氏は「就職志望者にいつ見られてもいいように、車両はきれいにするよう心がけている」という
「ドライバー志望の、特に若い世代は、応募の前に企業の様子をインターネットで調べていることが多い」と考えた乗本氏は、24年に自社HPを開設し、それと前後してInstagram(インスタグラム)も開設。「インスタグラムでは、仕事の様子以外にも、土用の丑の日に社員にウナギを支給したりといった社内イベントや、コンプライアンスへの取り組みなど、さまざまな話題を発信している」という。これらの投稿を見てみると、いいね数はいずれも10数止まり。SNS運用というと「バズる」ことを目指すことを考えてしまうが、乗本氏は「就職を考えている人に、会社の全体像に触れてもらうことが狙い」と気にしない。
「常に少し余剰な人員がいるのが理想的」と語る乗本氏。「安定した採用を続け人材を増やし、車両も増やして事業拡大を目指したい」と意欲を語った。
半導体や電機部品などの高単価なものと違い、高額な運賃を収受しにくいのが農産物輸送だ。農業を支える生産者は高齢化が進んでおり、産地の維持が危ぶまれる地域も少なくない。農業の存続と、それを送り届ける農産品物流存続は、食を支える産業の両輪として課題解決を目指す必要があるだろう。
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