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異業種3社が空車の常識に挑戦、実車率91%を実現

2025年10月2日 (木)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「YKK・大王製紙・コカコーラ、異業種3社で共同輸送」(9月4日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクスYKK APはことし8月から、大王製紙、北陸コカ・コーラボトリング(富山県高岡市)との異業種3社による共同輸送を開始した。これら異色の顔ぶれが手を組み、従来当たり前とされてきた「空っぽのトラックで帰る」という“悪しき慣習”にメスを入れたのだ。

▲ダイオーロジスティクスのトラックに商品が積まれている様子(出所:YKK AP)

今回の共同輸送実現の背景について、YKKは「ダイオーロジスティクスとサントリーロジスティクスと昨年、同様の施策を実施した。その後、ダイオーロジスティクスと個別で、他の路線の共同輸送も検討してきた」と説明。「ちょうど空車期間が生じた際に、以前から個別に協議を進めていた北陸コカ・コーラボトリングとの案件がこの路線に適合し、各社のニーズと合致したことで今回の共同輸送が実現した」と、絶妙なタイミングが成功の鍵となったことを明かした。

この共同輸送は北陸と埼玉・静岡を結ぶルートと、北陸と神奈川・静岡を結ぶルートの2系統で実施している。北陸から埼玉・静岡・北陸ルートはYKK APが富山県黒部市から埼玉県加須市へ、大王製紙が埼玉県行田市から静岡県富士宮市へ、さらに静岡県富士宮市から石川県金沢市へ、北陸コカ・コーラが富山県砺波市から富山市へと、各社が大型トラックで商品を輸送する。一方、北陸から神奈川・静岡・北陸ルートでは、YKK APが富山県黒部市から神奈川県愛甲郡へ、大王製紙が静岡県富士宮市から石川県金沢市へ、北陸コカ・コーラが富山県砺波市から富山市へと、それぞれ大型トラックで商品輸送している。

(クリックで拡大、出所:YKK AP)

従来、各社の実車率は50%程度だったが、車両を一本化する大幅に向上した。北陸から埼玉・静岡・北陸ルートでは91.7%、北陸から神奈川・静岡・北陸ルートでは81.6%まで高めた。この取り組みにより、年間でCO2排出量を71.6トン(34%)削減し、ドライバーの運転時間も1992時間(43%)短縮できる見込みだ。本事業は国土交通省の総合効率化計画とモーダルシフト等推進事業の認定を受けた。

異業種間での共同輸送を検討する際のパートナー企業選びについて、YKKは「選定する基準は特にない」と率直に語る。「ただし、相互に荷物を動かしているなかで類似コース・発着が逆であれば尚よい」と、実務的な観点を示した。輸送ルートや商品の特性が異なるなかで効率的な共同輸送を実現については「各社の商品の荷姿を変えるというのは、ハードルが上がると思う」と課題を指摘。「そこで、混載方式ではなく往路、復路でのルートを中心に検討する工夫をした」と、現実的なアプローチを採用したことを説明した。

同社は持続可能な物流の実現に向けて、新型輸送パレットの開発、首都圏エリアの供給体制強化、トラックドライバーの荷待ち時間削減サービスの導入など、2016年頃から物流体制の強化に継続的に取り組んでいる。異業種との共同輸送は、ドライバー不足やCO2排出量削減といった物流業界の課題に対応するための新たな取り組みと定義。今後もサプライチェーン全体の最適化を視野に入れ、さらなる物流効率化を目指すという。

今回のような取り組みを他企業が検討する際のアプローチについて、YKKは「各社の事情があるので一言では難しい」と前置きしつつも、「多くの荷主企業と話をすることだと思う」と答えた。YKKが示唆したのは、業界の垣根を越えた協力関係構築には“愚直な対話の積み重ね”こそが王道であること。物流革命の真髄は、最新技術でも画期的なシステムでもない。それは“人と人とのつながり”という最も古典的で、確実な手法にあるのかもしれない。(星裕一朗)

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