ロジスティクス2025年、日本政治は激動の1年となった。石破茂政権は政治資金問題で7月の参院選に敗北し、自公両党が過半数割れ。10月の総裁選で高市早苗氏が新首相に就任したが、タカ派姿勢に公明党が反発し、26年続いた自公連立が崩壊。高市政権は少数与党として野党との合意形成を迫られ、参政党など新興右派の台頭が既成政党への不信と多党化を象徴した。
混迷の政治に求められる「現場の声」
こうした政治が混迷を深めるなか、一昨年10月の総選挙で初当選を果たした五十嵐えり衆議院議員の存在が、新たな意味を持ち始めている。中学時代のいじめから不登校となり、高校に進学せず15歳で社会に出た五十嵐氏は、非正規労働者として働くなかで、弱者が自己責任を理由に切り捨てられる社会の不条理を身をもって経験した。
永田町のエリート政治家たちとは全く異なる視点から政治を見つめる五十嵐氏の存在は、少数与党政権下で野党の役割が重要性を増す今、現場の声を知る政治家として期待が高まっている。政局の駆け引きではなく、働く人々の生活実態に根ざした政策提言ができる数少ない国会議員の一人だ。2026年の新年を迎えた今、五十嵐氏に話を伺った。
時給700円台のアルバイトを転々とし、日給8000円に惹かれて4トントラックのハンドルを握った20歳の女性。積み下ろし作業で膝を痛め、短期間でトラック運転手を断念した頃、「労災」という言葉すら知らなかった。あれから10数年。その人は今、日本社会の不条理を是正すべく、国政で額に汗して働いている。

中卒、トラック運転手、弁護士──快挙の連続
衆議院議員・五十嵐えり。都議会議員を経て、2024年10月の衆議院議員選挙で東京30区から立憲民主党公認候補として出馬。政治とカネの問題や物価高騰への不満が渦巻くなか、当選7回を誇る自由民主党の現職を破り、9万8146票を獲得して初当選を果たした。
国政に転じるまでの五十嵐氏の経歴は、永田町では異色だろう。中学時代にいじめを受け、15歳で社会に身を投じ、職歴を重ねた末の司法試験への挑戦。中卒からトラック運転手、弁護士、都議会議員を経て、40歳で国政に進出した五十嵐氏の経歴は、まさに快挙の連続だ。
「報酬なしで、待つのも積むのも降ろすのも、全部当たり前だと思っていた」と語る五十嵐氏。その当たり前が、実は搾取だったと後から知る。党幹部が「あんたはトラック運転手の経験があったから、そんなに選挙に強いんだ」と評価したという。その実体験に基づく訴えとは何なのか。
◇
いじめから逃れた選んだ時給700円台の社会
──まず、五十嵐議員の経歴についてお聞かせください。永田町の二世議員たちとは全く異なる道を歩んでこられたそうですね。
そうですね。名古屋市で生まれ、静岡市で育ちました。中学時代に壮絶ないじめを受けたんです。結構荒れた学校で、窓ガラスが割れていることも日常茶飯事。刑事事件で新聞に載ることもある学校でした。「この子たちとどこかの学校で一緒になるのは耐え難い」と感じ、高校進学を諦めました。
──15歳で社会に出られたわけですね。
はい。中学卒業後、時給700円台のアルバイトを転々とする日々が始まりました。ウェイターなどさまざまな仕事を経験しました。10代も終わる頃のある日、「20歳にもなって、このままアルバイトを転々として時給700円台のままではまずい」と危機感を抱きました。手に職をつけようと鳶職に応募したんですが、「10代の女性はダメ」と門前払いを食らいました。
4トントラックにかけた20歳の選択
──そこからトラック運転手への道が開けたのですか。
そうなんです。目に飛び込んできたのはトラック運転手の求人でした。日給8000円。当時の私にとっては破格でした。座席に座って運転するだけなら、体力勝負の仕事より長く続けられる。そう踏んで、20歳でマニュアル免許を取得し、4トントラックのハンドルを握りました。
──しかし、その考えは甘かったと。
はい。その考えが甘い目論見と気づくのに、さほど時間はかかりませんでした。配属されたのはドラッグストア向けの配送業務。朝4時くらいに起きて流通センターに行き、そこで荷物を4トン分積み、10時の開店に間に合うように県内のドラッグストアに届ける仕事でした。シャンプーやリンス、洗剤などの日用品を満載したトラックで、静岡県内を走り回る日々が始まりました。

運転よりも荷物と格闘する時間が長くなる
──「座っているだけ」という想定は、すぐに崩れたわけですね。
初日からもろくも崩れ去りました。4トン車は当然、8トンや10トンの大型車に比べて小さい。それゆえに、フォークリフトの使用は後回しにされました。8トンとか10トンとか、もっと重い荷物を運ぶ先輩たちが優先的にフォークリフトを使い、新人の私は全然使わせてもらえなかった。
──手作業での積み降ろしが中心になったのですか。
そうです。段ボールの手積み手降ろしが日常となりました。シャンプーやリンスが詰まった段ボール箱、それら一つ一つは大したことのない重さでも、それが何十個、何百個と積み重なる。流通センターでの積み込み、配送先での荷降ろし、そしてまた次の荷物の積み込み。仕事はハンドルを握る時間よりも、荷物と格闘する時間の方がはるかに長くなりました。
運転だけではない、全てを背負うドライバーの現実
──そして、体を壊されたと聞いています。
先輩ドライバーから荷物の持ち方のコツを教わりました。「腰を落としてしゃがんだ後、荷物と膝を同時に持ち上げる」と事あるごとに反芻(はんすう)しました。ところが、頭で理解していても、若さゆえの焦りと、早く仕事を覚えたい気負いが災いしました。ある日、横着して腰を落とさず、腕だけで荷物を持ち上げてしまった。その瞬間、膝に鋭い痛みが走りました。
──それが致命的だったのですね。
段ボール箱を何度も持ち上げ、運び、積み上げる作業の繰り返し。これが金属疲労のように体の節々を蝕みました。ついに膝が悲鳴を上げました。「これは無理だ」と一気に心が折れました。トラック運転手としてのキャリアは、あっけなく幕を閉じました。この間、私が目の当たりにしたのは、業界に蔓延る「当たり前」という名の理不尽でした。
──具体的には、どのような「当たり前」だったのでしょうか。
待つのも、積むのも、降ろすのも、全部自分でやるもの、それが当然だと思っていました。
「当たり前」に隠された不条理、学歴が招いた人生の壁
──それらの作業に対価は支払われていなかったのですか。
流通センターでの待機時間、手積み手降ろし作業、本来なら対価が支払われるべき労働が全て「商習慣」という錦の御旗のもと、無償化していました。先輩ドライバーもそう教えてくれたし、疑う余地すらなかった。特に小さい運送会社では、今もそれが常識として通用しているはずです。
──労災についても知らなかったと。
さらに深刻だったのは、労災という概念すら知らなかったことです。労災?そんな言葉、当時の私の世界には存在しなかった。中卒で働く若者に、そんな知識が届くはずもありませんでした。膝の痛みは大人になった今も続いています。あの時の代償をまだ、払い続けているんです。
──トラック運転手を辞めた後も、苦労されたそうですね。
はい。中卒という2文字が全てを阻みました。応募書類を何百通も送っても面接の機会すらくれない。やりたい仕事どころか、生きていく術さえ見えなかった。「このまま、どうやって生きていったらいいんだろう」と途方に暮れました。
家族の愛が紡いだ奇跡──絶望から国会へ
──そこから、どうやって這い上がったのですか。
手を差し伸べてくれたのは、家族でした。戦争で大学進学の夢を奪われた祖母は、「女の子でも大学に行って、ちゃんと勉強しなさい」と孫に言い続けていました。教師をしていた叔母が、高卒認定試験という「もう一つの道」があることを教えてくれました。
──そこから人生が変わったわけですね。
「このままでは死んでしまう」と思っていました。アルバイトでの生活は苦しく、追い詰められていました。死にたいと思うほど追い詰められました。失うものは何もなかった。だったら、一度死んだつもりで勉強しよう。人生を賭けた勝負に出ました。24時間を勉強に捧げる覚悟を決めました。その後、24歳で静岡大学人文学部法学科夜間主コースに入学し、名古屋大学法科大学院を経て、30歳の時に司法試験に合格。弁護士として活動を始め、参議院議員秘書として4年間の経験を積みました。
──そして一昨年10月、激動の総選挙で初当選を果たされました。
はい。東京30区から立憲民主党公認候補として衆議院議員選挙に挑み、自民党の現職を破って初当選を果たしました。

▲2024年10月、東京30区から立憲民主党公認候補として出馬。現職を破り、9万8146票を獲得して初当選を果たした(出所:五十嵐えり公式サイト)
権利意識の欠如が最大の課題
──国会議員となって1年以上が経ちました。トラック運転手経験を通じて知った物流業界の問題点をどう見ていますか。
特に問題視するのは、業界に根深く残る多重構造です。現場の運転手は、自分が何次の下請けなのか知らないはずです。私も当時、社長とそんな話をしたこともないし、自分は時間までに荷物を届けるだけ。何次かなんて考えたこともありませんでした。
──最も問題だと感じているのは何ですか。
現場で働く人々が自分の権利を知らないことです。有給休暇なんてもらったことがない。アルバイトでも半年働けば権利があるのに。さらに驚くべきは、違法な罰金制度が当たり前のように横行していたことです。遅刻したら罰金1万円を普通に払っていました。今思えば完全に違法。でも当時は、それが「ルール」だと思い込んでいました。
──知らないことが、搾取を許すと。
その通りです。全国のトラック運転手に向けて、「荷主企業にちゃんと請求してほしい。運びました、下ろしました、待ちました、すべてに対価が発生する」と呼びかけたいです。
教育と周知徹底が解決の鍵
──問題解決のために、何が必要だとお考えですか。
教育と周知徹底です。学ぶ場がなければ、何も変わらない。でも、どうやって街の小さな運送会社に情報を届けるのか。国土交通省が直接所管する業界でありながら、ホームページに情報を載せても、現場のおじさんたちが見るわけがないんです。
──具体的な解決策は。
だからこそ重要なのは、経営者自身が労働法制を学び、従業員に伝える仕組みです。社長さんがちゃんと勉強して、「うちの会社で働く人たちには、こういう権利がある」と教える。それが当たり前になれば、業界は変わります。
物流の重要性を国民に訴える
──物流問題について、国民の理解をどう深めていきますか。
トラックが止まれば、この国は3日で終わる。不便どころじゃない。経済が完全に止まります。でも、物流問題は国民にとって遠い話かもしれないと危惧しています。介護は誰もが直面する問題だから、みんな関心を持つ。でもトラックは、乗ったことがない人がほとんど。だからリアリティがないんです。
──国民一人一人にできることはありますか。
実は、あります。それが再配達を減らすこと。例えば、Amazonでぽちぽち押すのをやめて、まとめ買いにする。在宅時間を指定して、不在を減らす。小さなことだけど、積み重なれば大きな変化になります。
選挙で武器となったトラック経験
──一昨年10月の選挙戦では、トラック運転手経験が大きな武器になったそうですね。
わずかな期間の経験でしたが、思わぬ武器になりました。街頭演説で自身の経歴を語ると、「俺もトラック乗ってたんだよ」と声をかけてくる男性がいました。普段は政治に関心がなさそうな人たちが、わざわざ近づいてきて「頑張って」と声をかけてくれる。あの瞬間、確かな手応えを感じました。
──ご自身の経歴をどう捉えていますか。
普通、弁護士で女性だと、有権者から見れば高い位置にいる人に映る。でも私は全然そうじゃない。中卒で時給700円台のバイトを転々として、トラックに乗って膝を壊した。その普通じゃなさが、人の印象に残るらしいです。東京30区の有権者たちは、エリート街道を歩んできた人物ではなく、失敗だらけの人生を歩んできた挑戦者を選んでくれました。
這い上がった者だからこそ仲間と共に切り拓く新時代
──トラック運転手について、思うことはありますか。
トラック運転手の世界には、独特の繋がりがあります。流通センターに行けば、そこでは先輩たちが後輩を可愛がり、声をかけ合う。トランシーバーで運転中にも情報を交換し合う文化もありました。決して個人がバラバラなわけじゃない。結束は結構強かった。

──そのつながりを生かして。
この仲間意識の強さこそが、業界改革の突破口になると考えています。この横の繋がりを活かして、「待機時間にも賃金が発生する」「手積み手降ろしは別料金だ」など、知るべき情報を共有していけば、業界全体の意識が変わっていくはずです。
──今後、どのような政策に力を入れていきますか。
物流業界の労働環境改善はもちろんですが、より広く働く人々の権利を守る政策に取り組みたい。中卒で社会に出た私が、家族の支えと教育の機会によって這い上がることができた。この経験から、教育の機会均等や、学び直しの支援も重要だと考えています。誰もが人生をやり直せる社会、努力が報われる社会を作りたい。
──2026年、新たな決意を。
政治とカネの問題で国民の怒りが爆発し、政治が大きく動きました。でも、政権が変わっても、政局が動いても、現場で苦しんでいる人たちの生活は変わらない。私は永田町の常識にとらわれず、職を転々とし、学歴で何度も壁にぶつかってきた経験を持つ議員として、声なき声を代弁していく。それが私の使命だと思っています。
◇
五十嵐えり氏の歩みはこの国の矛盾を映し出す鏡であると同時に、それでもなお這い上がれる可能性を示している。かつて人生の途中、路頭に迷っていた女性が今度は永田町から日本の未来を変えようとしている。2026年、その挑戦は続く。少数与党政権という不安定な政治状況のなかで、野党議員としての五十嵐氏の役割はますます重要になっている。現場を知る政治家として、同氏の今後の活動に注目が集まる。(星裕一朗)
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