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“19.9%の壁”、日本郵便の資本提携に透ける課題

2025年10月6日 (月)
LOGISTICS TODAYがニュース記事の深層に迫りながら解説・提言する「Editor’s Eye」(エディターズ・アイ)。今回は、「日本郵便とロジスティードが資本業務提携」(10月6日掲載)を取り上げました。気になるニュースや話題などについて、編集部独自の「視点」をお届けします。

M&A日本郵便は6日、KKR(米国)が保有するロジスティードホールディングス(ロジスティードHD)の株式19.9%を1422億7900万円で取得し、同社および中核子会社ロジスティードとの資本業務提携契約を締結すると発表した。

提携の狙いとして日本郵便は、「ラストワンマイル」「国内物流」「国際物流」を一体化した総合物流企業への転換を掲げている。グループ傘下のJPロジスティクス(企業間物流)、トナミホールディングス(中・長距離輸送)、トール・ホールディングス(豪州、国際物流)とロジスティードのリソースを組み合わせ、サプライチェーン全体をカバーする体制を構築するという構想である。

一方のロジスティードは、アジア・パシフィック地域でトップクラスの3PL実績を誇り、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)や海外展開に強みを持つ。両社は今回の資本業務提携を通じて、拠点や車両の相互活用、人材交流によるノウハウ共有などを図るとしており、いわば「郵便から物流への転換」を明確に打ち出した格好だ。

繰り返された提携、その“学び”はあったか

日本郵便が他社との提携に踏み込むのは今回が初めてではない。2000年代以降、日本郵政グループはM&Aを繰り返してきた。代表例が15年の豪トール・ホールディングス買収だ。6200億円超の巨費を投じたが、赤字転落と巨額減損で事実上の失敗に終わった。その後、楽天グループとの資本業務提携ではEC(電子商取引)物流での連携を試みたが、顕著な成果は見られなかった。

さらにさかのぼれば、ペリカン便の統合を通じた日本通運との協業(2000年代後半)も、当初の狙いどおりには進まず、宅配と企業間物流の融合を果たせなかった。直近ではトナミ運輸の完全子会社化を実行したが、統合効果を実感できる段階には至っていない。

こうした経緯を踏まえれば、今回のロジスティードHDとの提携が、従来と異なる結果をもたらすのかは未知数だ。過去の失敗を糧とした「再挑戦」と見る向きがある一方で、慎重な見方を崩さない関係者も少なくない。

19.9%が意味する“戦略的距離”

今回の提携で注目を集めたのは、その出資比率の低さである。日本郵便が取得するのは議決権14.9%、経済持分19.9%にとどまり、持分法適用会社にもならない。経営への発言権は限定的で、KKRにとっては「投下資金の一部回収」の意味合いがあるとみられる。

日本郵便としては、親会社である日本郵政グループの潤沢な資金力を背景に、物流領域の強化を加速したい考えがあったと推測される。しかし、点呼未実施問題をはじめとする不祥事や行政処分の影響で、足元のガバナンス立て直しが急務となり、思うように踏み込めなかったとも考えられる。

KKRは将来的にロジスティードの再上場を視野に入れており、中谷康夫社長も記者会見でその方針を明言している。日本郵便は、そうしたファンド側の出口戦略の一環として位置付けられた可能性も否定できない。

事業軸の転換と「ゆうパック」の行方

今回の提携は、郵便や宅配の再建ではなく、3PL事業を中心とした企業間物流へのシフトを象徴する動きである。ロジスティードのノウハウを取り込み、BtoB分野での存在感を高める狙いが明確に読み取れる。

その背景には、度重なる業務不備や行政処分により、日本郵便の宅配ネットワークがかつての競争力を失いつつある現実がある。ドライバー不足や再配達問題が長期化し、「ゆうパック」は宅配市場全体の6%にとどまり、ヤマト運輸(48%)や佐川急便(33%)に比べて大きく水をあけられている。

こうした中で、国内3PL大手であるロジスティードとの連携は、事業の再成長を図るうえでの突破口と見られる。だが同時に、郵便・宅配中心から企業間物流へと軸足を移すことは、事業ポートフォリオの再編を意味する。

業界内では、「将来的にゆうパック事業の縮小や再編を視野に入れているのではないか」との見方もくすぶる。あくまで推測の域を出ないが、今回の資本提携がその布石である可能性も否定できない。

「ビジョン」はどこにあるのか

日本郵政グループは中期経営計画「JPビジョン2025+」で、物流と不動産を成長分野に掲げている。とはいえ、郵便・宅配の再生策はいまだ明確に打ち出されておらず、国民インフラとしての郵便事業をどう位置付けるのかという根本的な問いが残る。

今回の提携を「物流強化の第一歩」と評価する声がある一方で、ファンドの利益確定に利用された可能性を指摘する声もある。日本郵便が真に自立した戦略を描けるのか、それとも外部資本に翻弄されるのか。その真価が問われることになる。(編集委員・刈屋大輔)

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