LOGISTICS TODAYがニュース記事の深層に迫りながら解説・提言する「Editor’s Eye」(エディターズ・アイ)。今回は、「日本郵便とロジスティードが資本業務提携」(10月6日掲載)を取り上げました。気になるニュースや話題などについて、編集部独自の「視点」をお届けします。◇
M&A日本郵便は6日、KKR(米国)が保有するロジスティードホールディングス(ロジスティードHD)の株式19.9%を1422億7900万円で取得し、同社および中核子会社ロジスティードとの資本業務提携契約を締結すると発表した。
提携の狙いとして日本郵便は、「ラストワンマイル」「国内物流」「国際物流」を一体化した総合物流企業への転換を掲げている。グループ傘下のJPロジスティクス(企業間物流)、トナミホールディングス(中・長距離輸送)、トール・ホールディングス(豪州、国際物流)とロジスティードのリソースを組み合わせ、サプライチェーン全体をカバーする体制を築く構想である。
ロジスティードはアジア・パシフィック地域ナンバーワンの3PL実績を誇り、物流DXや海外展開に強みを持つ。今回の提携を通じて、両社は拠点や車両の相互活用、人材交流によるノウハウ共有など、物流分野での新たな価値創出を狙う。「郵便から物流へ」という戦略的転換を象徴する動きといえる。
繰り返された提携、その“学び”はあったか
日本郵便が他社との提携に踏み込むのはこれが初めてではない。2000年代以降、日本郵政グループはM&Aを重ねてきた。代表例が15年のトール・ホールディングス買収である。6200億円超の巨費を投じたものの、赤字転落と巨額減損に見舞われた。楽天グループとの資本業務提携でもEC(電子商取引)物流の連携を試みたが、顕著な成果には結びつかなかった。
さらにさかのぼれば、ペリカン便の統合による日本通運との協業(2000年代後半)も、宅配と企業間物流の融合を果たせずに終わった。直近ではトナミ運輸の完全子会社化を実行したが、統合効果を実感するまでには至っていない。
こうした経緯を踏まえると、今回のロジスティードHDとの提携が従来の失敗の延長線上にあるのか、それとも転機となるのか。その評価はまだ定まっていない。過去の教訓を活かせるかどうかが、今後の成否を大きく左右するだろう。
19.9%が意味する“戦略的距離”
注目すべきは、その出資比率である。日本郵便が取得するのは議決権14.9%、経済持分19.9%にとどまり、持分法適用会社にはならない。経営に対する影響力は限定的で、KKRにとっては「投下資金の一部回収」という側面も透けて見える。
日本郵便としては、親会社である日本郵政グループの潤沢な資金を生かし、物流領域での成長基盤を強化する狙いがあったとみられる。だが、点呼未実施問題など一連の不祥事と行政処分の影響で、内部統治の立て直しが急務となり、当初想定した規模の投資に踏み切れなかったとも考えられる。
一方、ロジスティードの中谷康夫社長は記者会見で、27年度の再上場を目指す方針を明言した。KKRにとって今回の資本提携は、将来の上場に向けたステップでもある。日本郵便はその枠組みのなかで、どこまで主体性を発揮できるかが問われる。
事業軸の転換と「ゆうパック」の行方
今回の提携は、郵便・宅配の再建よりも、3PL事業を中心とする企業間物流へのシフトを色濃く示している。ロジスティードのノウハウを取り込み、BtoB分野での競争力を高めようとする意図が明白だ。
背景には、宅配事業の構造的課題がある。ドライバー不足や再配達問題が続き、加えて点呼制度違反などのガバナンス問題が浮上したことで、現場力の低下が指摘されている。
国土交通省の統計によれば、2023年度のトラック宅配便取扱個数ベースで、ヤマト運輸が46.7%、佐川急便が27.9%、日本郵便(ゆうパック)が20.5%を占める。上位3社で市場の95%を形成する構図だ。ゆうパックは依然存在感を保つものの、他社との差を埋められずにいる。
ロジスティードとの協業は、こうした停滞を打破する試みといえる。ただし、郵便・宅配中心の事業モデルから物流中心へ舵を切るということは、ポートフォリオ再編を意味する。業界内では、ゆうパック事業の縮小や再構築を見据えた布石ではないかとの見方も広がりつつある。
「ビジョン」はどこにあるのか
日本郵政グループは中期経営計画「JPビジョン2025+」で、物流と不動産を成長の柱に掲げる。しかし、郵便・宅配の再生策はいまだ明確でなく、国民インフラとしての郵便事業をどう維持・転換するのかという根本的な方向性は見えない。
今回の提携を「物流強化の第一歩」と前向きに評価する声がある一方で、外部資本に依存した一過性の動きにとどまるのではないかと懸念する意見もある。日本郵便が自らの戦略を描き、主導権を確立できるかどうかは、単なる企業経営の問題にとどまらない。
国民インフラを担う存在として、何を守り、どこへ向かうのか。19.9%の出資は、その問いへの試金石となる。(編集委員・刈屋大輔)
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