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石橋梱包運輸、行政処分を糧に経営・職場改革を推進

2025年10月16日 (木)

ロジスティクス成田空港近くに本社を構える石橋梱包運輸(千葉県芝山町)は、輸送と梱包の両輪で事業を展開する運送事業者。保有車両はおよそ90台、社員数は100人規模。輸送業が売上のおよそ8割を占めるが、木枠梱包を中心とする依頼も多い。

▲左から石橋梱包運輸の佐藤俊之社長、石橋大樹取締役

木材や段ボールを用いたオーダーメイド梱包では、熟練作業員が目測で寸法を割り出し、素早く仕上げるという。「1つの荷主から形の異なるいくつもの荷物を引き受け、それぞれに合わせた木枠をものの10分ほどで組み上げていく職人技がうちの持ち味」と語るのは同社の佐藤俊之社長。月500件を超える出荷をこなす“職人仕事”が、同社の看板である。

「ほかにも特殊な素材の製品を扱うノウハウもあり、近隣の同業者では引き受けられない荷物を扱えるのが当社の強みだ」と佐藤社長は胸を張る。こうした独自性もあり、荷物のほとんどは荷主との直取引で、配送も自社配送。多重下請構造とは無縁な経営で、荷主と直接コミュニケーションを取れることから、運賃交渉も順調だという。

▲石橋梱包運輸本社

2024年問題を受け、同社は早くから働き方改革に着手した。同社取締役の石橋氏によると、同社は「完全週休二日制で、祝日も休み」だという。運送業では極めて珍しい取り組みだ。「仕事はあるが、土曜に出たら休日出勤扱いにした。ベース給を上げ、時間外手当も1分刻みで支払っている」と語る。

労働時間削減と収入維持を両立させた結果、従業員の満足度が上がり、離職率も下がった。さらに7年ほど前からは退職金制度を導入し、「長く勤めてもらえる会社づくり」を進めてきた。

一方、若手採用では免許制度の壁がある。「今の普通免許じゃトラックに乗れない。教習費は30万円ほどかかるので、会社で補助して若手の免許取得を後押ししている」と佐藤社長。育成と定着の両輪で、ドライバー不足への対応を図っている。

▲同社の社員が職人技で一つ一つ手づくりする木枠梱包

同社が経営体制を強化してきた背景には、2年前に受けた行政処分がある。「厳しい処分だったが、それがいい機会になった」と佐藤社長は語る。長距離運行や点呼の不備を指摘されたことをきっかけに、労務管理の全体を見直した。「荷主にも説明して業務改善のための協力を得ることができた。今はすべてクリアな状態だ」という。トラック新法が成立して事業許可更新制により、5年に1度の監査が入るとされているが「完全に法令順守の経営に舵を切ったので、全く心配していない」と自信を露わにする。

▲同社倉庫に積み上げられた発泡スチロールケース。特殊な扱いが必要になるが、ノウハウは社内で継承されている

この経験を機にデジタル化を一気に進め、運送業向けDXを導入。全車両にデジタコとアルコールチェッカーを搭載。補助金も積極的に活用している。「点呼を人だけで回すのは限界。端末上で遠隔点呼も可能になり、確実で効率的になった」と石橋氏。行政指導を“罰”ではなく“改革の契機”として捉え、法令順守体制を社内文化として根づかせた。

▲インタンクを設置し、燃油費を圧縮

こうした改善は事故の発生率の低減にもつながった。石橋氏によると、「細かな事故は依然としてあるが、重大事故はほぼゼロ。発生した事故については各部署長を通じて全社に周知し、安全運転に対する意識の向上につなげている」という。また、同社が導入したシステムは教育機能もあり、ドライバーがいつでもどこでも安全教育を受けられ、その記録・保管もできるため、教育の徹底と業務負荷の低減が両立できているのだ。

高齢化が進む中で、同社はドライバーのセカンドキャリア形成にも力を入れる。「夜間点呼や梱包工場が、体力の落ちてドライバーを続けられない人の受け皿になればいい」と佐藤氏は話す。現場を知るベテランが教育を担い、若手を支える仕組みも整えた。

▲20年以上前に社内に作った自社整備工場、来年の本社移転の際には規模を拡大し外部の整備も請け負う予定

ドライバーの中には生涯ドライバーを続けたいという人も多いが、体力的にきつくなったときには運転以外の仕事が選べるのも同社の特色だ。梱包や点呼など、体力に応じた仕事を用意し、安心して長く働ける環境を整備している。

石橋氏は「制度改革を進めたことで、社員が育ち、居着いてくれる会社になった」と語る。若手には免許取得を補助し、ドライバーとしてステップアップする道筋を提示する。また、ベテランも、ドライバー以外にも働ける場を用意する。どの年代にとっても、将来的な人生のビジョンが描けるというのは、働く上での気の持ちようも変わってくると言うものだ。働きやすさと法令順守の両立を地道に積み上げてきた同社の姿は、物流業界が目指すべき新しいスタンダードと言えるかもしれない。

創業40周年という節目を迎える同社は来年、成田空港の第3滑走路建設に伴い、本社を現在地から移転する。移転先では、これまで分散していた拠点を一か所に集約し、運行・梱包・管理を一体化した体制を整える計画だ。「新しい拠点では整備業などの新分野にも踏み出し、規模の拡大を図りたい」と佐藤氏は語る。冗談めかして「屋内で米を育てる工場でもやろうか」と笑う佐藤氏の言葉の裏には、事業多角化への意欲がにじむ。(土屋悟)

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LOGISTICS TODAY編集部
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