ロジスティクス神奈川・海老名の共栄車輌サービスは業界の常識をあっさりと覆してみせた。アナログが骨の髄まで染みついた陸送業界にあって、同社のデジタル化は痛快だ。月60時間の余力を生み出し、受注率を20%押し上げ、年間200人もの若者が応募してくる。その変貌の理由を、貨物利用運送事業を手がける合同会社共栄車輌サービス代表執行役の田村正夫氏と、中古車陸送サービス事業を担う有限会社共栄車輌サービス社長の田村俊一氏に聞いた。

▲左から有限会社共栄車輌サービス社長の田村俊一氏、合同会社共栄車輌サービス代表執行役の田村正夫氏
7年ぶりに戻った会社には「陸送原人」がいた
かつて一度、実家の会社を離れた正夫氏が7年ぶりに会社へ戻ると、そこは時が止まったままだった。手書き伝票をExcel(エクセル)に転記し、請求書で再び同じ数字を打つ。紙とホワイトボードで配車を管理するため、数日先の空き状況すら即答できない。運賃表も紙頼みで、担当者ごとに単価がばらつく。どの路線が赤字かもデータがなく、闇の中。
「お前たち、原始人か」と正夫氏は苦笑した。獲物を仕留めても火を使わず生肉をかじる、そんな「陸送原人」だった。
二重入力をゼロに──デジタル化で生まれた60時間の余力
正夫氏はアナログ体質からの完全脱却を決断した。同社はナブアシスト(群馬県高崎市)が提供する陸送業向けの業務管理システム「Navisia運送販売-陸送版クラウド」を導入。受注から請求まで1本の線でつないだ。狙いは業界に蔓延る「二重入力」という無駄の一掃である。
「導入により、最初に入力したデータをそのまま使い回せる。入力作業が半分で済んだ」と正夫氏は語る。これにより、同社は月間60時間の作業時間削減を実現した。さらに顧客の在庫管理データを直接取り込む仕組みを構築し、車台番号の入力ミスも激減した。「以前は請求処理に1週間かかっていた。今では2、3日で終わる。間違いがなくなり、お客さんからの問い合わせにも即座に答えられる。信用度が格段に上がった」と正夫氏は目を細める。
データがKKD(勘・経験・度胸)を凌駕し、受注率は20%向上
デジタル化の本質は事務作業の効率化ではない。経営判断そのものが変わる。配車状況や受注見通しがリアルタイムで見えるため、機会損失を防げる。「3日先に100台運べるキャパがあり、受注が30台なら、あと70台いける。未配車データを見れば一目瞭然。『いけますよ』と即答できる。これが受注の取りこぼしを防ぐ」と正夫氏。即断即決という、当たり前だが難しい対応が可能になった。受注率は20%向上した。
さらに、データはKKDと呼ばれる「勘と経験と度胸」を駆逐した。正夫氏は料金交渉の席で根拠ある数字を示し、顧客を納得させる。売上は伸び、業績は右肩上がりになった。「関東から名古屋へ走って帰りが空荷なら、輸送効率が悪いとひと目で分かる。どこへ営業すべきか、どの路線の実車率を上げるべきか。データという羅針盤があれば、無駄を削いで利益率を上げられる」と正夫氏は言う。
自家給油型タンクと高賃金の好循環
デジタル化で生まれた月60時間の余力と増益を、田村氏は設備と人件費に即座に注いだ。自社敷地内に構えた自家給油型タンク「コンボルトタンク」がその象徴だ。中小運送会社でこれを持つのは稀。初期投資の重さに尻込みする経営者が多いからだ。「市中のスタンドより確実に安い。燃料費が削れれば、その分をドライバーの給与に回せる。うちの給与水準は関東でも上位だ」と言う正夫氏の言葉には、静かな自信があった。
▲思わず目を引く事業所前の大看板
年間200人の応募。「人手がいないは嘘だ」
運送業界は「ドライバー不足」と嘆くが、共栄車輌サービスには20代、30代の若者が途切れなく応募してくる。過去3年で200人、採用コストはほぼゼロだ。「よく『人手がいない』と言うが、嘘としか思えない。当社には選べるほど集まっている。求人媒体に費用をかけても反応が乏しい時期もあった。仮説と検証を重ね、今はSNSを軸にした独自の採用手法に切り替えた」と俊一氏は語る。
俊一氏が狙ったのは「かっこいい陸送会社」というイメージ戦略だ。安直にSNSで奇をてらうような真似はしない。「TikTok(ティックトック)で社長が踊る会社に、果たして人は集まるだろうか。うちは飾らず、本物を見せる。磨き上げたトラック、プロの矜持。外から見られる意識を従業員に根付かせることで、自ずと輪郭が立ってくる。結果、異業種から若い世代が門を叩くようになった」と俊一氏は語る。
デジタル化に現場の抵抗はつきものだ。「古参の反発は激しかった。だが半年で『楽だ』と言ってくれた」と正夫氏。経営者が覚悟を決められるか。将来の効率化と信頼のため、数千万を投じられるか。その一歩が分水嶺だ。さらに、デジタル化は社長の役割も変える。「70の社長がキーボードを叩く必要はない。若者に任せればいい。社長は数字を眺め、舵を切るか決めるだけ。長年の経験と勘は、その最後の一手で生きる」と正夫氏は言う。
脱アナログは待ったなし
俊一氏と正夫氏の見立ては明快だ。「脱アナログは待ったなし。デジタル化は顧客の信頼を固め、現場のミスを消し、請求業務の負担を軽くする。メリットしかない。今やExcelでさえ不安が残る。紙やメモは論外だ。アナログの殻に閉じこもっていては、目の前を通り過ぎるチャンスに気づかぬまま取り残される」と両氏は語る。
共栄車輌サービスの歩みはデジタルの力を味方につけたとき、中小運送会社がいかなる飛躍を遂げうるかを物語っている。かつて「3K」と揶揄された業界のイメージを覆すその姿は、まさに運送業の未来図を示している。(星裕一朗)
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