話題ポスト2024年を迎えて物流の再構築が求められるなか、野村不動産が物流施設ブランド「Landport」(ランドポート)に課したのは、単に荷物を保管するだけではなく、サプライチェーン全体を束ねる中核としての使命を担うことであった。その最新の到達点として2025年10月に竣工したのが、愛知県東海市と大府市にまたがる「Landport東海大府I」である。
サプライチェーンをつなぐ中京圏の戦略拠点“THE CENTER”


(出所:野村不動産)
延床面積は24万6550平方メートルで、同社の開発物流施設の中でも最大の規模を誇る。立地は伊勢湾岸自動車道・大府インターチェンジ(IC)から500メートル、知多半島道路および名古屋高速3号大高線・大高ICからも500メートルと高速道路網への近接性に優れる。さらに名古屋港(東海新宝ふ頭)へ5.4キロと港湾アクセスも良好で、名古屋市内や西三河エリア、豊田市などの生産拠点にも30分から1時間圏でアクセスできる。
野村不動産都市開発第二事業本部物流営業部営業一課課長代理の峰岸健太郎氏は「24年問題に対応する東京-大阪間の中継拠点としてだけでなく、名古屋市街地・西三河地区・名古屋港という中京エリア3拠点の交点に位置する。メーカー物流とラストワンマイル配送、輸出入まで多様な物流の結節点として機能することから、この施設に“THE CENTER”のコンセプトを掲げた」と話す。

▲野村不動産の峰岸健太郎氏
建物は免震構造の地上6階建て(倉庫部分5階建て)で、センター車路を設けたダブルランプ型を採用し、各階に直接アクセスできる高い機動性を確保した。1階西区画には梁下有効高6.5メートルの低床仕様を採用し、重量物保管や大型機器の搬入に対応。上層階は高床仕様で、屋内型のトラックバースを連続配置することで、天候に左右されない効率的な入出荷を実現している。
柔軟な区画分割に加え、垂直搬送機や荷物用エレベーターを将来実装できる空間計画とすることで、テナントの成長や自動化投資に応じた段階的な設備増設を可能にした。中長期の事業計画に沿って運用し続けられる拡張性を備えた施設であり、「多様なサプライチェーンの中核、物流戦略においても中核となるのがLandport東海大府I」と位置付けられている。
多用途・多面的な価値でロジスティクスの中心を担う同施設において、特に注目されるのが敷地内に併設された「危険物倉庫」である。
危険物物流の最新トレンドに応答する併設型モデル

▲Landport東海大府I併設の危険物倉庫
敷地西側に配置された危険物倉庫は、917.53平方メートルの平屋棟で、第1類から第6類まで幅広い危険物に対応する基本スペックを備える。フォークリフト置き場や充電スペースも併設し、安全と効率の両立を図った。
近年、危険物倉庫需要が高まる背景には、危険物に分類される日用消費財の保管について、コンプライアンスを重視した運用への移行がある。コロナ禍以降、エアゾール製品やアルコール消毒液の需要が急増し、消防法の指定数量未満として一般倉庫で取り扱うグレーな運用の見直しが進んだ。
さらに、リチウムイオン蓄電池を内蔵したモバイルバッテリーや家電製品などの市場が拡大し、従来は港湾エリアで原材料を中心に保管していた危険物倉庫に、EC(電子商取引)で消費者へ直接届ける最終製品の在庫拠点としてのニーズが加わった。その一方で、賃貸型の危険物倉庫供給は依然として少なく、「必要なときに、使いやすい場所に危険物倉庫がない」という課題が指摘されてきた。
生産地と消費地、港湾という中京3大物流要衝の中心に位置するLandport東海大府Iにとって、危険物倉庫の併設はこうしたギャップを埋める取り組みでもある。
開発の背景について峰岸氏は「自動車産業の変化と切り離せないエリアであり、EV(電気自動車)市場拡大、モバイル化で増えるリチウムイオンバッテリー需要を含む、危険物対応が必要と考えてきた」と説明する。「西三河への近さ、名古屋港活用の利便性、周辺の化学メーカー集積を踏まえ、最終消費財として危険物を取り扱える倉庫を一般倉庫と同一敷地に整備する価値は大きいと判断した」とも語る。
EC需要が高まる都市圏、日本有数の製造業集積地、輸入貨物の玄関口である名古屋港という立地特性を背景に、リチウムイオン電池搭載製品、EV部材、化学品原料、スプレー缶や香水などの消費財、輸入危険物の一時保管ニーズまで、業界を横断した需要が見込まれる。こうしたニーズに応える受け皿として整備されたのが、Landport東海大府Iの危険物倉庫だ。
従来、危険物倉庫といえば港湾エリアで輸入原材料などを保管する用途のイメージが強かったのではないか。しかし本部機能と離れた場所に倉庫だけが立地する形では、サプライチェーン全体の連携や効率化には限界がある。「危険物の最終消費財においても、一般消費財と同様のオペレーションができる物流構築を求める声に応えることも、デベロッパーの役割だ」と峰岸氏は話す。
Landport東海大府Iでは当初、危険物倉庫と本棟一般倉庫の一体運用によるサプライチェーンマネジメント高度化を提案してきたが、「幸いにも本棟単独利用の成約が順調に先行し、稼働率が9割を超えたことから、現在は危険物倉庫の単独リーシングにも対応している。危険物倉庫のみを希望する問い合わせも多く、市場の潜在需要を実感している」と峰岸氏は語る。

▲危険物倉庫 内部
問い合わせの業種は、自動車関連や化学メーカーに加え、日用品・日雑品事業など多岐にわたる。近隣に既存拠点を持つ企業から「港湾部ではなく、より消費地に近い危険物倉庫が必要」との相談も寄せられている。「広域配送にも直結し、全国配送にも地域密着にも生かせる立地は、“THE CENTER”構想を危険物完成品の取り扱いでも体現している。EC企業は在庫を厚く持つ必要があり、スプレー缶など危険物を扱う企業ほど消費地近接の安全な拠点を求めている」と同氏は強調する。
本棟施設の成約が順調なのは、こうしたサプライチェーンの中心をつなぐ思想への共感の表れでもあり、供給が限られる危険物倉庫には、さらなるニーズの集中が予想される。「“必要なタイミングで必要な危険物倉庫がない”という状況は当面続くだろう。機会を逃せば、中長期の物流戦略や成長戦略にも影響しかねない。足元のニーズ対応と併せて、今後の計画の中で危険物倉庫をどう位置付けるかが問われている」と同氏は指摘する。
防災協定を通じて地域と連携し、安全を共有する“センター”へ
Landport東海大府Iの価値を語るうえで、危険物倉庫は企業の拠点戦略を支える機能であると同時に、地域社会との結びつきにも直結する。
25年12月5日には、東海市・大府市・野村不動産の3者による防災協定が締結され、Landport東海大府Iを災害時の受援施設として活用する方針が示された。災害時には物資受入や住民支援などに協力し、平時にはマルシェなど地域交流の場としての活用も予定している。
開発地は名古屋港至近ながら津波・高潮・洪水・土砂災害のハザード対象外で、液状化リスクも低いとされる。一般倉庫は免震構造を採用し、停電発生後も72時間運転可能な非常用発電装置を備えるなど、BCP対応を強化した。こうした高い安全性へのこだわりは、併設された危険物倉庫を含む施設全体の安全性を高めるものであり、危険物の適正管理に取り組むテナント企業の姿勢と合わせて、地域の「安全・安心」に貢献する。
企業のBCP、地域の防災、サプライチェーン全体の信頼性という3つの観点が一つの施設で結ばれる構図もまた、“THE CENTER”コンセプトを形にしたものといえる。野村不動産が危険物倉庫を単なる付帯設備ではなく、施設価値を押し上げる中核機能とする理由もここにある。
Landport東海大府Iは、一般倉庫の汎用性と危険物倉庫の専門性を併せ持ち、地域連携や防災機能も備えた次世代型物流施設として、今後さらに多様な企業のサプライチェーンマネジメントを支えていく。EV化やECの伸長で物流ニーズが高度化・多様化するなか、中京圏に誕生した同施設は、サプライチェーンのCENTERと呼ぶにふさわしい役割を着実に果たそうとしている。

▲夜に表情を変えるLandport東海大府Iの外観(出所:野村不動産)
















