ロジスティクスシグマクシスは19日、「グローバルCLOサミット2026」を開催した。世界的なサプライチェーンの混乱、労働力不足、環境規制への対応が急務となるなか、物流の次世代規格として注目される「フィジカルインターネット」(PI)を主要テーマに設定した。その提唱者であるエリック・バロー教授や、ドイツで実装を推進する実務家らが登壇し、理論と実践の両面から議論を展開した。

eコマース時代の非効率性に警鐘:エリック・バロー氏
基調講演に立ったのはフィジカルインターネットの名付け親、エリック・バロー氏だ。2時間の講演で、氏は物流の「今」に鋭いメスを入れた。インターネット通信が情報を小さなパケットに分け、経路を問わず届ける、その発想を物流に持ち込めないか。バロー氏の狙いはそこにある。EC(電子商取引)全盛の今、小口配送が爆発的に増え、物流は息も絶え絶えだ。
「積載率の低さ、無駄な空走、個々の企業が自前主義に固執した結果だ」と氏は語る。解はコンテナ輸送に学べ、という。標準化された「箱」と「ルール」があれば、物も情報も自由に流れる。効率も上がれば、地球にも優しい提言する。

▲フィジカルインターネットの名付け親であるバロー氏
ただし道のりは険しい。標準化、データ連携、ビジネスモデルの刷新。三拍子そろわねば絵に描いた餅だろう。企業の垣根を越えた協力が、持続可能な物流への切符になる。
データスペースとオープンソース戦略:トーステン・フュルスマン氏
続いて、ドイツ・ドルトムントを拠点とする「Open Logistics Foundation」(OLF)のマネージング・ディレクター、トーステン・フュルスマン氏が登壇した。同氏は欧州物流DXの旗振り役として知られる。講演の軸は「データスペース」だった。フュルスマン氏は、企業の枠を超えた情報共有こそがフィジカルインターネット実現の要諦だと説く。OLFは、オープンソースで標準化を進める非営利組織だ。

▲欧州物流DXの旗振り役のフュルスマン氏
AI(人工知能)によるデータ整理、IoT機器を使ったスマートボックス。具体例を交えた話は説得力があった。欧州では既に共有倉庫が稼働し、垂直統合から水平連携へと風向きが変わっている。
「Why」から「How」へ:日本の実装戦略を議論
プログラムの後半では、早稲田大学の大森峻一教授をファシリテーターに迎え、バロー氏、フュルスマン氏に加え、フィジカルインターネットセンター理事長の森隆行氏が参加するパネルディスカッションを開いた。1時間にわたる議論は、日本における物流課題とフィジカルインターネット導入の具体策に焦点が当てられた。
討議の冒頭、大森氏が切り出したのは日本の2024年問題だ。トラックドライバー不足という現実が、フィジカルインターネットを「Why(なぜ必要か)」から「How(どう実現するか)」へと押し上げている。森氏は「不足こそが変革の契機」と喝破し、実装への3本柱を示した。共同輸配送による水平連携、1キロパレットなどの物理的標準化、そしてオープンソースを軸としたデータ連携基盤だ。
フュルスマン氏は欧州の経験から「協調と競争の切り分け」を説く。物流インフラは共有財、付加価値で勝負する。先駆者には果実がある。適合したツール、新たな収益モデル、AIを絡めたサービス展開。早く動いた者が先頭を走る。バロー氏の主張は「理論より現場、大風呂敷より小さな成功」。倉庫も標準設計とパケット化で、無駄を削ぎ落とす。理想は実践の積み重ねからしか生まれないという。
CLOの誕生が経営変革の契機に
議論の中で特に注目されたのは、2026年から日本で義務化されるCLO(Chief Logistics Officer、物流統括管理者)の役割だ。森氏は、「CLOはサプライチェーン全体を統括し、リスク管理と経営改革を推進する重要な役割を担う。これは日本企業の経営そのものを変革する好機だ」と強調した。

▲パネルディスカッションに参加した(左から)森隆行氏と大森峻一教授
また、産官学連携の具体例として、野村不動産のテクラム(140社コンソーシアム)や、立体自動倉庫シェアリングサービスなど、民間主導の実践的取り組みが紹介された。森氏は、「フィジカルインターネットは選択肢ではなく、日本経済を守るための必須インフラだ」と位置づけ、エコシステム構築の必要性を訴えた。
フュルスマン氏は、ドイツでの実務経験から、「財政的な支援策は研究開発段階では有効だが、実装段階では企業の投資が中心となる」と指摘。AIの活用については、データ標準化の必要性を低減させる可能性も示唆されたが、現時点ではインターフェースの問題解決や意思決定支援に焦点が当てられていると説明した。
今回のサミットは情報交換を超えて、日本がどこに立ち、どこへ向かうべきかを問うた。欧州の知恵を借りつつ、現場に根ざした実装が問われている。物流は今、競争から協調へと舵を切ろうとしている。標準化とオープン化が鍵だ。産官学が手を組み、エコシステムを育てられるか。そこに未来がかかっている。(星裕一朗)
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