国際米国・イスラエルによるイラン攻撃(2月28日開始)を受けたホルムズ海峡の事実上の封鎖で、インドのバスマティ米輸出が深刻な停滞に陥っている。全インド米輸出業者協会(AIREA)のサティシュ・ゴエル会長は、港湾で20万-25万トン、輸送中の貨物を含めると40万トンが滞留していると明らかにした。中東向けコンテナ運賃は2倍超に跳ね上がり、新規輸出契約はほぼ停止した。混乱はインド港湾にとどまらず、東南アジアの化学品サプライチェーンやエネルギー調達にも波及し始めている。(編集長・赤澤裕介)
ホルムズ海峡の通航量は攻撃開始後24時間で80%以上減少した。3月1日の海峡通過は23隻にとどまり、1月の1日平均(重量換算で1030万載貨重量トン相当)を大きく下回った。イラン革命防衛隊(IRGC)が「海峡は閉鎖された」と宣言したうえ、海峡付近で複数のタンカーが被弾。乗組員1人が死亡する事態となり、150隻以上が海峡周辺で投錨を余儀なくされた。
海上保険への打撃も大きい。ガード、スクルド、ノーススタンダード、ロンドンP&Iクラブ、アメリカン・クラブなど主要P&Iクラブは3月5日を期限にペルシャ湾の戦争リスク担保を取り消した。ロイズ市場の合同戦争委員会(JWC)も高リスク海域をバーレーン、クウェート、カタール、オマーン周辺に拡大。戦争リスク保険料は船舶保険価額の0.125%から0.2-0.4%へ急騰し、VLCCの場合1航海で25万ドル以上の追加負担となった。ハパックロイド(ドイツ)は標準コンテナ1TEUあたり1500ドル、リーファーは1本3500ドルの戦争リスクサーチャージ(WRS)を導入した。
代替市場なし、ラマダン前の最需要期に打撃
インドは世界最大のバスマティ米輸出国で、年間輸出量は600万トン規模。24-25年度の輸出額は5兆ルピー(600億ドル相当)に達した。このうち中東5か国(サウジアラビア、イラン、イラク、UAE、イエメン)向けが全体の50%以上を占める。イランだけで6000億ルピー(12億ドル相当)規模の市場だ。
AIREAのサティシュ・ゴエル会長は「輸出業者はすでに港湾まで在庫を移動させたが、コンテナ運賃の急騰で中東向けの出荷が不可能になった。これだけの量を吸収できる代替市場は存在しない」と訴えた。インド米輸出業者連合(IREF)のデブ・ガルグ副会長も「運賃、燃料、保険の急激なコスト上昇を輸出業者が吸収することは不可能」と政府に即時支援を要請。IREFは3月1日付で会員に対し、イラン・湾岸諸国向けの新規CIF(運賃保険料込み)契約を中止するよう勧告した。
インド最大のコンテナ港であるジャワハルラル・ネルー港(JNPA)では、中東向けの冷蔵コンテナ1000本超が滞留している。タマネギ、ブドウ、バナナなどの青果物が中心で、ドバイ経由でイラク、サウジアラビア、カタールに向かう貨物だ。コンテナ船各社が湾岸向けの新規受注を停止またはホルムズ海峡経由の運航を見合わせているため、荷主はコンテナを港に置いたまま保管料と電力コストを負担し続けている。JNPAは一部の港湾料金を抑制する方針を示したが、業界団体は政府に対し、代替ルートの確保や運賃・保険の支援を求めている。
影響はバスマティ米にとどまらない。インドの格付機関クリシルは、セラミックス、肥料などLNG依存度の高いセクターにも短期的な生産リスクがあると指摘。インドは原油の85%、LNGの50%を輸入に頼り、その4-5割がホルムズ海峡を経由する。ブレント原油は1-2月の平均66-67ドルから82-84ドルへ、アジアのスポットLNG価格は10ドル/MMBtuから24-25ドルへそれぞれ急騰した。
東南アジアへの波及も始まっている。中東産ナフサ・LPG(液化石油ガス)に依存する東南アジアの石油化学プラントでは、原料調達の先行きが不透明になっている。金融大手ING(オランダ)は「原油価格の10%上昇がアジア新興国の経常収支を40-60ベーシスポイント悪化させ、CPI上昇率を0.2ポイント押し上げる」と試算。タイ、韓国、ベトナム、台湾、フィリピンがとくにエネルギー価格上昇の影響を受けやすいとした。
世界のコンテナ船隊の2%以上がペルシャ湾内または周辺に位置しているとされ、主要コンテナ船社が湾岸への配船を停止・制限していることで、グローバルなコンテナ需給のひっ迫も懸念される。MSC(スイス)はペルシャ湾内港湾(ドバイ、アブダビ、ダンマーム、ドーハ、クウェートなど)への配送を「航海終了」扱いとし、サラーラやジェッダなど湾外の安全な港で荷揚げする異例の措置をとった。APモラー・マースク(デンマーク)もスエズ運河・紅海経由の運航を再び喜望峰回りに切り替えた。スエズ回りからアフリカ南端経由への迂回で、アジア-北欧間の所要日数は12-15日延びる。
米トランプ大統領は3月4日、米国国際開発金融公社(DFC)を通じたペルシャ湾航行向け政治リスク保険の提供と、必要に応じた米海軍によるタンカー護衛を指示した。ただし、モーニングスターDBRS(カナダ)は「護衛可能な船舶数には限界があり、米国籍でない船舶への適用も不透明」と指摘しており、早期の通航再開には懐疑的な見方が強い。3月5日時点でロイズ市場協会(LMA)と保険ブローカーのギャラガー(米国)は「保険の引き受け自体は可能」としたが、物理的な安全リスクが主要な障壁として残る。
パンジャーブ州(バスマティ生産の40%)、ハリヤーナ州(同35%)の農家への影響も深刻だ。輸出停止で国内在庫がだぶつけば卸売価格がさらに下落し、農家収入を直撃する。一方で事態収束後には中東諸国による「パニック買い」が起きるとの見方もあり、業界は情勢の推移を注視している。
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