
記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「アスクル、環境配慮型ECで消費者庁長官表彰」(1月21日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)
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話題アスクルは1月21日、消費者庁が主催する2025年度消費者志向経営優良事例表彰において、最高賞である「消費者庁長官表彰」を受賞した。同社の受賞は20年度(特別枠)、23年度に続き通算3度目となる。評価の対象となったのは、商品開発から配送に至るEC(電子商取引)のバリューチェーン全体で、利便性の向上と環境負荷低減を同時に実現した点だ。しかし、その先進的な施策の裏側には、従来の「配送の常識」を覆す現場での切実な気づきがあった。アスクル執行役員・ロジスティクス本部本部長の桜井秀雄氏は、顧客の心理と物流現場の乖離を解消することが、結果として社会的な評価に繋がったと語る。
「良かれ」が招いた不都合、当日配送の再定義
物流業界において「早く届ける」ことは長らく絶対的な正義とされてきた。アスクルも同様に、朝11時までの注文をその日に届ける当日配送を最大の付加価値として提供してきた。しかし、顧客から寄せられたのは意外な反応だった。桜井氏は「知らずに11時までに頼んで、夕方18時ぐらいに来ると『17時に帰るから受け取れない。それなら明朝でよかったのに』という声があった」と、当時の気づきを明かす。
「我々としては良かれと思ってのサービスだったが、実は迷惑だったという声もどんどん出てきていた」というこの矛盾を解消するため、同社は顧客が自ら配送日を選択できる仕組みを導入した。その結果、当日配送の比率が抑制され、物流コストの低減だけでなく、配送現場ではドライバーがおよそ30分早く帰宅できる余力が生まれたのである。24年問題がメディアで取り上げられることも増え、消費者が抱く「無理な当日配送は求めない」という誠実な意識の変化を、サービス設計に正面から取り込めたことが、受賞の大きな要因となった。

▲アスクルで販売しているパイプ式ファイル。市販の同製品はとじ具があるためファイルを重ねても無駄なスペースができてしまい輸送効率がよくない。とじ具を別添にし、ユーザーに取りつけてもらう仕様にすることで、ファイルをぴったりと重ねて梱包ができるため、輸送効率が高い(出所:アスクル)
「ごみくる」からの脱却、ラベルレスの深い洞察
環境への取り組みにおいても、顧客からの厳しい指摘が原点にある。お届け時の緩衝材の多さに対し、顧客から「ごみくる(ゴミが来る)」という言葉を投げかけられたことが、資源循環を徹底するきっかけとなった。桜井氏は、ネット通販特有の消費心理について「もともとネットで買うから、パッケージで目立つ必要はない。アスクルが始めてからナショナルブランドも出し始めたが、店頭でもラベルがない方がいいという気運が高まっている。やはりゴミが出てしまう罪悪感がある」と分析する。
この洞察から生まれたラベルレスボトル商品は、廃棄の手間を省く利便性と、環境負荷低減への貢献という顧客の願いを同時に満たした。現在ではPB商品の多くがこの思想に基づいて設計されており、例えば「LOHACO Water」では外装箱のサイズを配送用ダンボールの底面におよそミリ単位で合わせることで、他商品との同梱を可能にする「ワンボックス化」を実現している。これにより、従来2箱に分かれていた配送が1箱に集約され、資材の削減と配送費の抑制を「トレード・オン」で実現させた。
持続可能性へ、「三方良し」の原資を還元する
一連の効率化がもたらす最大の意義は、創出された利益を物流の持続可能性を支える「人」へ還元することにある。桜井氏は「国が求めているのは、労働時間を減らしつつ賃金を上げることだが、原資は企業が捻出しなければならない。私たち自身がコストの削減に努め、その分をドライバーに還元していくことが、構造的な改善につながると考えている」と、強い決意を示す。
同社の置き配サービス「置き場所指定配送」は、導入からおよそ3年で採用率がおよそ50%に達し、不在率をおよそ3%まで低下させた。これにより、ドライバー1人あたり年間でおよそ80時間の追加作業が削減できる計算だ。アスクルが体現する「消費者サイドに立ったサービス」とは、単なる表面的な利便性の向上ではない。消費者の「エシカルな選択」を物流現場の「働きやすさ」へと繋げ、その成果を賃金として還元する。この循環の仕組みをバリューチェーン全体で構築したことこそが、消費者志向経営の真髄として評価されたのである。

▲アスクルのトイレットペーパーは長さが一般の製品5倍ありながら同様量のため輸送効率が高く、ユーザーも購入頻度を減らすことができる(出所:アスクル)
今回の表彰は、ゴールではなく過渡期における一つの通過点に過ぎない。アスクルはすでに、AIを用いた「入荷平準化」や他社との「共同配送」を加速させており、年間でおよそ200台相当のトラック稼働削減を実現している。消費者が「環境負荷低減」を真に望む時代において、物流インフラがその想いにどう応えるか。アスクルの挑戦は、次世代の「選ばれる産業」としての物流のあり方を鮮明に描き出している。
海外では、アマゾン、イケア、パタゴニアなどの荷主企業によるゼロエミッション船の投入を推進する「ZEMBA」(Zero Emission Maritime Buyers Alliance)のような連合が組織され、環境負荷低減を企業価値やブランド価値の向上に直結させる動きが加速している。これに応えるように、国際的な物流・海運企業も低炭素、あるいは脱炭素輸送サービスの提供を競い合っている状況だ。
一方で、国内の取り組みはいまだ道半ばに見える。例えば、中小の運送事業者が多数を占める日本の道路貨物輸送において、多額の投資を伴うEVトラックへの転換や、荷主による低炭素輸送への追加コスト支払いは、欧米諸国に比べ遅れを取っているのが実情だ。依然として「1円でも安く」というデフレ下の成功体験に縛られ、価格転嫁すら進まない領域も少なくない。
しかし、企業の足踏みをよそに、消費者の意識ははるかに先を行っている。アスクルがいち早く配送のあり方を改善できたのは、まさにこの変化に気づいたからに他ならない。桜井氏が指摘した通り、消費者はすでに24年問題や、モノを運ぶ現場が直面している無理に気づき始めている。
従業員数200人未満、車両台数100台未満という規模ながら、炭素排出量の算出に挑んでいる、ある国内運送会社の経営者はこう語る。「がんばって排出量を削減しても、荷主は運賃を上げてはくれない。それでもやるのは、それが企業の社会的責任だからだ」。
この経営者が言う通り、脱炭素化が直接的な増収に繋がることは、まだ稀かもしれない。だが、思わぬ「リターン」もあったという。その会社の環境に対する誠実な姿勢に共鳴し、若い世代がドライバーや倉庫作業員として自ら門を叩くようになったのだ。
改正流通業務総合効率化法(物効法)では、特定荷主に対してCLO(物流統括管理者)の選任を求め、CO2排出量の削減に向けた中長期計画の策定を義務づけている。これまでこうした視点を持たなかった企業にとって、この法改正は重い課題に映るかもしれない。
だが、アスクルの事例が示すように、消費者の本音や現場の「痛み」に寄り添うことは、結果として「三方良し」の構造を生み出す。荷主企業や物流企業は、消費者や働き手が抱く新しい時代の感覚に、いつの間にか取り残されてはいないだろうか。その問い直しこそが、持続可能な物流への第一歩となるはずだ。(土屋悟)
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