
話題地政学リスクや「物流の2024年問題」を背景に、食品サプライチェーンがかつてない脆弱性に直面している。物流現場では、これまでの極限まで無駄を省く個別最適から、オペレーションの標準化と異業種連携による弾力性の確保へと戦略の転換が急務だ。日清食品と三菱食品の協業による共創型プロセスや、日本パレットレンタル(東京都千代田区)による同業の日本パレットプール(大阪市北区)の子会社化など、業界の枠を超えた“協調”の取り組みがその解決策として動き出している。過酷な環境下での庫内作業を支えるシステム基盤から、企業間をつなぐプラットフォームまで、最新の動向を追った。
ナフサ不足が露呈した供給網の脆弱性
中東の地政学リスクを起点とした調達難は、食品の流通を根底から揺さぶりつつある。ホルムズ海峡の実質封鎖を受け、国内の石油化学製品の供給維持が喫緊の課題だ。石油化学工業協会が今月公表した統計によれば、食品トレーやカップ麺容器の原料となるポリスチレン(PS)の4月末の季節調整済み在庫率は1.5か月分まで低下している。ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)の在庫が3か月以上の水準を維持しているのに対し、PSの在庫の薄さは顕著だ。
この在庫逼迫は、川下製品の価格改定や供給制限という形で実体経済に波及している。食品トレー原料のPS樹脂について、供給各社が値上げを打ち出した。波及はPSにとどまらず、発泡PSシートや食品包装フィルム、パレットの荷崩れ防止に使うストレッチフィルムに至るまでコスト増の波が押し寄せている。ごみ袋や食品ポリ袋などPE製品全般も大幅な値上げが発表されている。一部のメーカーからは、過去の取引実績にかかわらず受注制限や納期調整を行う旨の通知も出始めており、物流現場への供給不安が高まっている。
ジャスト・イン・タイムを追求し、在庫や人員に余裕を持たないサプライチェーンは、外的ショックに脆い。外的リスクが常態化するなか、これまでの極限の効率化を前提とした運用は見直しを迫られている。
個別最適を捨て標準プロセスで平準化を狙う
危機を乗り越えるための出発点は、現場オペレーションの統一と標準化だ。荷主ごとの細かい要望(指定伝票の処理、独自の流通加工、細分化された納品条件など)に応える個別対応は、現場の作業量を逼迫させる。とりわけ外食や小売向けの食品物流では、冷凍や冷蔵、定温といった温度帯管理による品質保持に加え、ケース単位だけでなくバラ品の取り扱いも多く、現場オペレーションは多岐にわたる。
クラウド型WMS(倉庫管理システム)を展開するシーネット(千葉市美浜区)の事例は、システム側で荷主要件を吸収し、庫内作業を標準プロセスに落とし込むことで、作業量の平準化と品質の均一化を図るアプローチの1つだ。同社が提供する「ci.Himalayas/R2」(シーアイ・ヒマラヤ・アールツー)は、食品流通の複雑な現場要件に対応し、冷凍庫内で作業者が過ごす時間を最小化する運用基盤となっている。
食品を扱う3PL事業者として長年の実績を持つアサヒロジスティクス(さいたま市中央区)は、冷凍自動倉庫を中核とした統一オペレーションを構築。荷主や拠点ごとに大きく方式を変えることなく標準化を徹底し、どのセンターでも同じWMS、同じ作業思想で運営する体制を整えた。WMS側でバッチを組み、時間帯や荷主条件に応じて順序よく流す仕組みが、品質の均一化と作業平準化を実現する再現性の高いモデルだ。
自動化と人手作業の境界見極め、人に余力を残す
他方で、全てを機械化や自動化に委ねることが正解とは限らない。バラ品の取り扱いや不定貫商品など、食品物流特有の複雑さに対しては、自動化設備と人手の境界線を見極める必要がある。
大手外食チェーンの物流を受託するエイシン(福岡県糟屋郡)の拠点では、シーネットの音声システムを導入し、さらにバラ品の取り扱いには自動ピースソーターを組み合わせている。出荷量や商品特性に応じて、音声システムとピースソーターを使い分けるハイブリッド構成を採用することで、生産性を向上させた。商品によってはまとめ取りした上で人手で折りたたみコンテナへ投入する方が速い場合もあり、冷凍庫内でハンディ端末の画面が見づらいといった低温物流特有の制約を踏まえれば、音声指示による人手作業の方が実用性が高いという判断だ。
庫内作業の標準化や自動化で削減したリソースは、単なるコストカットに充てるべきではない。災害や地政学リスク、需給の急変動といった突発事象に対応するための「余白」として現場に残す必要がある。常に100%の稼働を前提としたシステムは、わずかな環境変化によるノイズで機能不全に陥るリスクを孕む。異常事態に臨機応変に対応できるのは、最終的には現場で働く人の判断力だ。自動化しきれない領域を吸収し、現場全体を最適化する視点が求められている。
食品と石化が交差、共同物流の最適解
自社内や同業種内での最適化には限界が見えつつあるなか、持続性あるサプライチェーン構築のカギとして期待されているのが異業種連携だ。
日本パレットレンタル(JPR)による日本パレットプール(NPP)の統合は、その象徴的な動きといえる。JPRは加工食品や日用品の輸送用パレットの領域で高いシェアを持つ一方、NPPは石油化学業界に深く入り込み、独自のネットワークを築き上げてきた。標準規格のパレットを介して、これまで交わることのなかった2つのネットワークが接続される。
行きは食品を運び、帰りは石化製品やその原料となる樹脂を積むといった運用が実現すれば、積載率の向上と一貫パレチゼーション(発地から着地まで荷物をパレットに載せたまま輸送する方式)の普及が一気に進む。回収作業やパレットの返却動線についても、JPRが展開する60か所のデポと全国3150か所の共同回収拠点網に、NPPが持つ200か所のデポが合わさり、計3410か所におよぶ強固なネットワークが誕生する。JPRの二村篤志社長は、ハードとしてのパレットだけでなく、両社が運用するネットワークから価値を創造する考えを示している。
日清食品と三菱食品の協業も、連携を通じた物流負荷軽減の好例だ。三菱食品の特売発注予定データを日清食品に事前連携することで、メーカーの在庫調整業務時間を月200時間前後削減した。日清食品の深井雅裕CLOは、メーカー同士の水平連携よりも、複数メーカーの発注情報を持つ着荷主(卸売業や小売業)を起点に組み合わせを設計する方が実効性が高いとの見方を示している。三菱食品の田村幸士CLOは、営業用トラックの空きスペースや非稼働時間について「6割空気を運んでいる」と指摘し、卸売業が持つ商流・物流・在庫情報を活用し、自社単独で埋めきれない稼働率を他社と組むことで高めていく姿勢を明確にしている。
物流は「コスト」から持続性の「投資」へ
26年4月の改正物流効率化法施行により、一定規模以上の事業者にはCLOの選任が義務付けられた。日清食品の深井CLOは、形式的な選任にとどまらず、意志ある先行企業が実効成果を出すことの重要性を説く。さらに、サプライチェーン全体の効率化において、最初に動いた企業がコストを負担し、便益が他に流れる「やったもん負け」を防ぐための便益配分(ゲインシェア)のルール形成も課題として提起している。
CLOに求められるのは、調達から生産、営業、財務までを俯瞰し、物流を単なるコスト削減の対象ではなく、サプライチェーンを持続可能にするための投資として再定義することだ。全体最適と弾力性を備えた新たなインフラストラクチャーをいかに使いこなし、自社の競争力に変えていくか。食品業界をはじめとする各プレイヤーの真価が問われている。
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