ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

LNG争奪、電気代が倉庫を直撃

2026年3月14日 (土)

ロジスティクスカタールがLNG(液化天然ガス)輸出を停止しフォースマジュール(不可抗力)を宣言した。IEA(国際エネルギー機関)は中東情勢により「最大で世界のLNG供給の2割が影響を受け得る」と警告している。(編集長・赤澤裕介)

石油備蓄254日分との落差で「LNGは3週間しかない」という見方が広がっているが、正確ではない。経済産業省は10日の官民連絡会議で、日本の電力・ガス会社がホルムズ経由の年間輸入量(400万トン)の1年分に相当する在庫を保有していると説明し、「短期的に安定供給に支障をきたす状況にはない」との認識を示した。日本はすぐには止まらない。だが安心もできない。カタール停止を受け、世界のLNG市場は急速に引き締まり、スポット市場での争奪と価格高騰が始まっている。その波は電力コスト、工場の操業、冷凍冷蔵倉庫の運営を通じて、物流の現場に確実に届く。

石油254日、LNGは国家備蓄なし

石油備蓄254日分に対し、大手電力会社の発電用LNG在庫は219万トン(3月1日時点、経産省調べ)。電力は年間3700万トンのLNGを消費しており、仮に電力向けの輸入が全面停止すれば、この発電用在庫は3週間前後で底をつく計算になる。石油と違い、LNGには国家備蓄制度がない。各電力・ガス会社が個別に在庫を保有する構造のため、日本全体としての戦略備蓄は存在しない。ここだけ切り取れば「LNGは3週間しかない」という話になるが、そう単純ではない。

まず、日本のLNG調達は原油に比べて調達先の多角化が進んでいる。最大の供給元は豪州で全体の4割を占め、東南アジア、ロシア(サハリン)、米国、中東と分散している。ホルムズ海峡を経由するLNGは日本の年間輸入量の6%にとどまる。カタールからの調達もホルムズ経由だが、カタール以外の豪州・東南アジア・米国からの調達ルートはホルムズを通らない。

つまり、ホルムズ封鎖だけで日本のLNG輸入が全面停止することはない。経産省が10日の官民連絡会議で「短期的に電力・ガスの安定供給に支障をきたす状況にはない」と説明したのは、この調達構造が根拠だ。

▲日本のLNG在庫と調達構成の概要(出所:経産省3月10日官民連絡会議、資源エネルギー庁「発電用LNGの在庫状況」、クリックで拡大)

では何が問題か。量ではなく価格だ。

カタールのLNG輸出停止を受け、世界のLNG市場は急速に引き締まり、アジアのスポット価格(JKM)は3日に一時25ドル/百万BTU前半まで急騰し、3年以上ぶりの高値をつけた。カタール停止前の2月27日は10ドル後半だったから、1週間で2倍以上に跳ね上がった計算だ。その後は米国産カーゴのアジア流入見通しで20ドル前半に落ち着いたが、封鎖前の水準には戻っていない。

欧州もLNGの争奪戦に加わっている。EU全体の地下ガス貯蔵率は3月6日時点で29.4%と、過去5年平均を32.1ポイント下回る。ロシアからのパイプラインガスの代替としてLNGに依存する欧州と、アジアの需要国が限られたスポットカーゴを奪い合う構図だ。日本企業がスポット市場で「買い負ける」リスクが高まっている。

問題の構図を整理する。日本のLNGは「量は当面ある、だが高くなる」。これが石油(量が減る)とは異なるLNG危機の本質だ。

物流への影響は、電力コストを通じて間接的に、だが広範囲に及ぶ。日本の電源構成はLNGと石炭で6割を占め、再エネ・水力が2割強、原子力が1割弱、石油は1割に満たない。原油高騰が電気料金に直接大きく効くわけではないが、LNGスポット価格の高騰は燃料費等調整額を通じて電気料金に反映される。

冷凍冷蔵倉庫は電力コストが営業費用の大きな部分を占める。LNGスポット価格の高騰が電力料金に転嫁されれば、冷凍冷蔵の保管料に跳ね返る。食品メーカーや量販店の物流コストを押し上げ、最終的には消費者価格に波及する経路だ。

工場の操業にも影響が出る。都市ガスを燃料や原料として使う製造業(ガラス、セラミックス、食品加工、化学)は、ガス料金の上昇が直接の製造コスト増になる。工場が減産に入れば、出荷量の減少を通じて物流の稼働率にも響く。

3月18日の春闘集中回答を控え、エネルギーコスト上昇は賃上げ原資との食い合いを招くおそれがある。荷主企業がエネルギーコスト増を吸収しきれなければ、それは物流委託先へのコストカット圧力に直結する。2024年問題で労働環境改善と賃上げが求められるなか、突発的なエネルギーコスト増を「不可抗力」として現場に押し付ける構造は、持続可能な物流の維持と矛盾する。

倉庫業界では、電力コストは一般倉庫で営業費用の1-2割、冷凍冷蔵倉庫では3-4割を占めるとされる。しかもコスト転嫁には時間差がある。LNGスポット価格の高騰がいま起きているとしても、それが電気料金に反映されるのは燃料費調整額の算定を経た2-3か月後だ。さらに保管料の改定交渉には半年から1年かかることも多い。つまり倉庫事業者は、コスト増が先に来て、転嫁が後から追いかける構図に置かれる。

仮にLNG価格高騰が電気料金を1割押し上げた場合、一般倉庫では総コストが2-3%、冷凍冷蔵倉庫では4-6%上昇する計算になる。営業利益率が数%の業界では、電力コストの上昇がそのまま利益の消失につながりかねない。

▲倉庫タイプ別の電力費比率と電気代上昇時のコスト影響

経産省は官民連絡会議で「事態が長期化・深刻化するリスクも想定し、危機感・緊張感を持って対応していく」と述べた。LNGの「短期的には大丈夫」は事実だ。だがその「短期」がいつまで続くかは、ホルムズ海峡の情勢と世界のスポット市場次第であり、物流事業者のコントロール外にある。エネルギー価格の衝撃は、いつも製造業から始まり、電力料金を通じて物流へと遅れて届く。自社の電力契約がどの料金体系(市場連動か固定か)に基づいているか、冷凍冷蔵を含む倉庫の電力コストの変動幅をいま確認しておくことが、次の交渉の備えになる。

<関連記事>

備蓄放出、届くまで何日か

軽油急騰、サーチャージいまどの区分か

■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。

※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。

LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。