ロジスティクス4月1日、物流に関する複数の制度が同時に動き出した。CLO(物流統括管理者)選任、管理簿、白トラ規制、書面交付、食品サプライチェーンのコスト協議、マンション荷さばき。これに1月施行の取適法が加わる。個別に見れば別々のテーマだ。だが制度を横断して見ると、共通する方向が浮かぶ。中心制度群では、改善の有無だけでなく、説明可能な状態が求められ始めた。「取り組んでください」から「計画し、測定し、説明できる状態を作れ」へ。本稿ではこの転換を「管理義務」と呼ぶ。すべての制度を同じ強度で説明する言葉ではない。制度の重心が移った方向を指す。(編集長・赤澤裕介)
努力義務の上の管理サイクル
4月改正群は「全部義務化」ではない。刑事罰から努力義務、条例依存まで濃淡がある。制度ごとに異なるのは強度だけではない。4列目の「どう効くか」も違う。
刑事罰付きの禁止規定から、条例がなければ義務が発生しないものまで、規律の性格は一様ではない。だが4列目を縦に読むと、4月改正群の多くに共通する仕掛けが浮かぶ。Gメン、報告徴収、立ち入り検査、社名公表、公取委通知──罰則の有無にかかわらず、取引条件や改善状況、委託構造や負担の所在が外から見えるようになる構造が組み込まれている。
2025年4月、改正物流効率化法の第1段階として、すべての荷主・物流事業者に努力義務が課された。判断基準に基づき、荷待ち・荷役時間の短縮や積載効率の向上に取り組むこと。罰則はない。経済産業省は「努力義務は、取り組まなくてもよいものではない」と説明したが、改善を企業の管理サイクルに組み込む仕掛けは、まだ入っていなかった。
26年4月、第2段階が始まった。24年問題が露わにした輸送力不足に対し、その原因をサプライチェーン全体で管理させる制度が本格的に動き出した。一定規模以上の特定事業者には、中長期計画の作成・提出が義務づけられた。初回提出は26年10月末。翌年7月末からは毎年の定期報告が始まる。荷待ち時間、積載率、判断基準の遵守状況を測定し、記述し、提出する。さらに、特定荷主・特定連鎖化事業者にはCLOの選任が求められる。経営幹部から選任し、社内横断で物流を統括させる。報告徴収と立ち入り検査の権限が行政に付与された。不十分なら勧告、それでも改善しなければ公表、さらに命令、命令違反には罰則がある。
この管理サイクルの骨格は省エネ法の先行モデルに近い。省エネ法はエネルギー使用量の大きい事業者にエネルギー管理統括者を置かせ、中長期計画と定期報告を課してきた。KPIの対象は異なるが、「経営幹部に管理責任を持たせ、計画と報告で回す」骨格は同じだ。
ここでいう「努力義務から管理義務へ」は、努力義務が消えたという意味ではない。努力義務の上に、計画・測定・報告・公表の管理サイクルが積み上がった、という意味だ。本稿でいう「管理義務」とは、改善状況や取引条件を継続的に把握し、測定・記録し、必要なときに説明できる状態を企業に求めることだ。25年までは、改善に取り組む姿勢があればよかった。26年からは、何を測定し、何がどう変わり、次に何をするかを、計画と報告で説明する必要がある。
しかも、この管理サイクルは特定事業者の内側で完結しない。
特定事業者が荷待ち時間を測定するには、出入りするトラックを運行する中小運送会社のデータが要る。バース予約を導入するには、着荷主の協力が要る。管理簿を埋めるには、下請けからの通知が要る。法的義務の外側にまで、管理の要求が取引を通じて波及する。
物流の取引で荷主が強い立場になりやすかったのは、罰則がなかったからだけではない。取引条件の全体像──運賃の内訳、附帯業務の範囲、待機の実態、委託構造の末端──を把握していたのが、多くの場面で片側だけだったからだ。運送事業者は自分が何次請けかすら知らない場合があった。倉庫事業者は附帯業務を「サービス」として無償で提供しやすかった。食品メーカーは物流費を価格交渉の外に置きやすかった。見えなかったコストは請求できず、見えなかった作業は交渉材料にならなかった。情報を持つ側が、交渉の条件を決めてきた。
4月に動き出した制度群は、この構造に直接手を入れる。管理簿は、貨物が誰の手を経て運ばれたかを記録させる。書面交付は、運賃と附帯業務料を分離して明示させる。取適法は、発荷主と運送事業者の委託取引を公取委の監視下に置いた。食料システム法は、コスト上昇を理由とした協議の申出に誠実に対応する努力義務を課した。倉庫の約款改正は、附帯業務の有償化に制度的な裏付けを与えた。共同住宅にも荷さばき施設の附置を求め得る枠組みを設けた改正は、配送負荷を建物側でも引き受ける発想の象徴だ。
いずれも、片側だけが握っていた情報や負担を、もう片側にも見えるようにする仕掛けだ。見えなかったものが見え始めれば、交渉の前提が変わる。
ただし、今回崩れるのは「荷主 vs 運送」という単純な二項対立ではない。ある場面では荷主として要求を出す企業が、別の場面では着荷主として納品条件の見直しを求められる。倉庫に附帯業務の有償化を突きつけられる一方で、自社本体にはCLO選任、規模基準を満たす物流子会社には中長期計画や定期報告が求められる。同じ企業が、場面ごとに強者にも弱者にもなる。
制度は縦割りだ。物流効率化法、貨物自動車運送事業法、食料システム法、取適法、駐車場法施行令──所管省庁も対象もばらばらに見える。だが影響は企業の中で交差する。自社がサプライチェーンの中で複数の立場に立っている以上、制度を1本ずつ読んでも「自社に何が降ってくるか」は見えない。
CLOを選任しても、購買・営業・物流・財務が分断されたままなら、報告書だけが回って改善は進まない。管理簿を整えても、価格決定が旧来の力学のままなら、記録はあるが構造は変わらない。測定や記録の負荷だけが現場に積み上がり、そのデータが価格交渉にも納品条件の見直しにも使われない状態も起こり得る。名ばかりCLOと、報告のための報告が生まれれば、制度は形だけ回ることになる。
対象外の中小も安全ではない。大手が測定・報告体制を整えれば、データ提出を求められるのは取引先だ。準備が遅れた会社から、条件を飲まされる側に回る。
4月1日、白トラ規制と管理簿義務が施行された。5月末に届出が始まる。10月末に中長期計画の初回提出が来る。書類対応は進められる。止まるのは、データと権限の移し替えだ。物流コストを誰が把握し、そのデータで誰が意思決定しているのか。制度対応の遅れは、罰則より先に、運賃交渉で根拠を出せず、納品条件の見直しで主導権を失う形で返ってくる。
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