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食料システム法で変わる食品物流

2026年4月1日 (水)

フード4月1日、食料システム法(2025年公布)の取引適正化措置が全面施行される。運送事業者が物流コスト上昇を理由に運賃の協議を申し出れば、食品メーカーには誠実に応じる努力義務がかかる。同じ日に改正物流効率化法(2024年公布)の第2段階も始まる。食品メーカー・食品卸は、値上げを受ける側であると同時に、自らも値上げを申し出る側に回る。物流費を社内で吸収し続ける判断は、以前より説明しにくくなった。(編集長・赤澤裕介)

物流費は協議の外に置きにくくなった

まず制度の変化を整理する。

▲食料システム法の施行スケジュール

同日に改正物流効率化法の第2段階として、特定事業者の指定、中長期計画の提出、物流統括管理者(CLO)の選任義務も始まる。食品メーカー・食品卸のうち、年間取扱貨物重量9万トン以上の荷主に該当する企業は、両方の制度対応を同時に求められる。

食料システム法の努力義務は2本ある。ひとつは、売り手から持続的な供給に要する費用等を示して協議の申出があった場合に誠実に協議すること。もうひとつは、商慣習の見直しなどの提案があった場合に必要な検討・協力を行うことだ。対象は食料全般の取引で、下請法と異なり法人の資本金の多寡や取引形態にかかわらず適用される。個人が当事者となる場合も同様だ。

判断基準(行動規範)は省令で具体化されている。農林水産省のガイドブックは、誠実な協議の具体像として、相手方が協議を断念しないよう速やかに対応すること、必要以上に詳細な費用内訳の提出を求めないこと、立場の強さを利用して一方的に価格を決めないこと、協議の申出を理由に取引数量の削減や取引停止等の不利益取扱いをしないこと、検討結果と理由を具体的に説明することを挙げている。

行政フローも整っている。フードGメンによる情報収集を起点に、努力義務の実施が不十分な場合は農林水産大臣による指導・助言が行われる。判断基準に照らして著しく不十分であれば勧告があり、従わなければ事業者名と勧告内容の公表に至る。不公正な取引方法に該当する事実があれば公正取引委員会への通知もある。努力義務は法的拘束力を持つ義務ではないが、拒否や放置のコストは従来とは質が異なる。

食品メーカー・食品卸が置かれた構造を確認する。

▲食品メーカー・食品卸が置かれた構造(クリックで拡大)

食品サプライチェーン(SC)ではこれまで、物流費は社内で吸収されやすかった。メーカーが設定する卸値に物流費が「込み」で入っているため、運送事業者から値上げを受けても、その分を小売に渡す交渉の回路が構造的に細かった。食料システム法で、物流費を理由に協議を申し出る回路は制度上、開きやすくなった。買い手として運賃値上げの協議に応じる努力義務を負うだけでなく、売り手として小売に対し、物流コスト上昇を理由に同じ枠組みの中で交渉の根拠を持つ。

ただし、協議を申し出やすくなったことと、転嫁が実現することは別だ。小売側にも交渉力がある。食品メーカーが受けた値上げを、そのまま小売に渡せるとは限らない。制度が変えたのは転嫁の結果ではなく、物流費を協議の外に置き続ける判断の説明コストだ。

農水省は省令で5品目を指定し、コスト指標の作成を進めている。

▲コスト指標の指定品目

コスト指標は各段階の費用を積み上げ、公的統計で月次補正する仕組みだ。利益は含まない。米穀の指標例では、集荷段階に運賃・保管料、卸売段階に輸送費が独立項目として計上されている。野菜でも出荷運送料や物流関係費が段階別に示されている。食品SCで物流費が建値に「込み」で見えにくかった構造に対し、品目別の数値根拠が初めて与えられることになる。

コスト指標に強制力はない。ただし判断基準ガイドブックでは、公表資料の尊重が誠実な協議の判断要素に位置づけられている。指標が存在する以上、物流費は見えないから話せないという説明は通りにくくなる。

フードGメンは2025年10月に本省2人と8つの地方農政局各2人の計18人体制で発足し、全国2万社を対象に取引実態調査を進めている。26年4月以降は法に基づく指導・助言、勧告・公表の措置を実施する。国交省のトラック・物流Gメンが360人規模で荷主の物流改善を監視する体制と並走する形だ。食品メーカー・食品卸は、物流Gメンからは荷主として、フードGメンからは食品取引の当事者として、別の角度で対応を求められる。

制度が整っても、交渉力の非対称は消えない。

食品SCの物流費が可視化されにくかった背景には、卸値に物流費が含まれる商慣習に加え、センターフィーなど輸配送費とその他の流通コストの境界を曖昧にする取引慣行がある。こうした慣行の下では、運送事業者から値上げを受けても、物流費だけを切り出して次段に渡す交渉が難しかった。

業態によって対応力には差が出る。自社の物流子会社や共同配送体制を持ち、原価構造の解像度が高い大手食品メーカーは、コスト指標を根拠にした交渉に移りやすい。一方、大手小売からの価格維持圧力と、メーカーからの仕入れ値上昇、運送事業者からの運賃値上げが重なる中堅・地場の食品卸は、制度の後押しがあっても転嫁が容易ではない。

日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の直近調査では、全業種の売上高物流コスト比率は5%台半ばに達し、物流事業者からの値上げ要請を背景に上昇が続いている。食品業界も無縁とは言いにくい。

コスト指標は平均モデルであり、自社の実態と乖離がある場合にそのまま使えるわけではない。最終的には、自社の物流コスト構造を分解・可視化できているかどうかが交渉の成否を分ける。

食料システム法は、物流費の転嫁を自動で実現する法律ではない。だが、協議を拒んで終わらせにくくする法律にはなった。物流費を協議の外に置く説明は、4月1日以降、以前より難しくなる。先に決めるべきなのは、物流費をどこまで受け入れ、どこから先を次段に渡すかの判断基準だ。そのうえで自社の物流コスト構造を可視化し、コスト指標との照合で交渉の根拠を整える。

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