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キリンGL、AI活用などで全社横断DX推進

2026年4月24日 (金)

ロジスティクスキリングループロジスティクス(KGL、東京都中野区)は、物流業界が直面する属人化や長時間労働といった課題に対し、全社的なDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させている。これまでもバース予約システムなどのデジタルツールの導入で荷待ち時間を削減するなどの成果を上げてきている同社だが、2026年に新設された「物流DX推進部」を中心に、現場の安全点検、配車計画、需給業務といった多岐にわたる領域で次々とデジタルのメスを入れている。KGLが現在注力している3つのDX施策の最前線を取材した。

スマホで完結、現場を変える「安全点検業務の電子化」

KGLが現場DXの足がかりとして、26年3月から全国24拠点で展開しているのが、現場向けプラットフォーム「カミナシ」を活用した安全点検業務の電子化である。

これまで、現場の点検やパトロールは紙のバインダーとペンを持ち歩き、記録・押印・上長への提出・ファイリングを行うアナログな作業だった。これを会社から支給されたスマートフォンやタブレットで完結させ、ペーパーレス化と業務標準化を図るのが狙いだ。

▲【左から】キリングループロジスティクス安全・品質・環境室長の遠藤敦史氏、物流DX推進部物流DX推進担当の近藤綾美氏、同部長補佐の折笠貴之氏

安全・品質・環境室長の遠藤敦史氏は、この取り組みの意義を次のように語る。

「電子化の目的はいくつかあるが、特に重視しているのは属人化の解消、全国でのやり方の統一、そしてデジタル情報の可視化だ。今まで現場に物流DXと言っても、正直実感できることはあまり多くなかった。今回は『仕事のやり方が変わりそうだな』と従業員に実感してもらえる取り組みになっている」

▲現場からは画像で報告が上がってくるため、荷物の崩れなどが視覚的に確認できる(出所:キリングループロジスティクス)

カミナシの導入により、単に紙がデジタルに置き換わっただけでなく、現場の報告スタイルが大きく変化した。従来は文章で状況を記述しなければならなかったが、現場で写真を撮影して直感的に報告することが可能になった。また、スマートフォンの音声変換機能を活用することで、キーボードに不慣れな作業員でも容易に入力できる環境が整った。

物流DX推進部の近藤綾美氏も、現場からの良好な反響を口にする。

「他社のシステムとも比較検討したが、最終的な決定の決め手となったのは現場に特化して操作しやすい点。ITに不慣れでもハードルが低く、作業者がDXに慣れるきっかけになったと感じている。また、スマホの音声入力機能を使ってメモを残せるのが簡単で楽だという声も現場から上がっている」

さらに遠藤氏は、写真撮影の簡便化がもたらすメリットを強調する。

「これまで現場で何かあった時は、専用のデジカメを取りに行き、写真を撮ってパソコンにアップロードするという非常に手間のかかる作業だった。今回の取り組みで、自分のスマホでその場で写真が撮れるため、必要以上に多くの画像が上がってくるようになった。我々管理者からすると、現場の状況が手にとるように見えるようになり、すごくありがたい状況だ」

実務に即した工夫も凝らされている。例えば、マニュアル一元管理ツール「Teachme Biz」との連携だ。トラックの荷役作業で使う「移動式ステップ(昇降はしご)」の点検業務で、カミナシの点検画面からTeachme Bizに格納されたはしごの配置図へリンクで直接飛べるように設定した。「このブロックのはしごは構内のどこにあるのか」がすぐに確認でき、新任の作業員でも迷わず点検できる仕組みを構築している。

▲問題がある箇所が見つかったら、スマホ上で丸く囲むなど、簡便な操作で報告が可能(出所:キリングループロジスティクス)

今後は、温湿度やWBGT(暑さ指数)の測定データとシステムを連携させる構想もある。蓄積された画像データと環境データをAIで分析し、気温や湿度の影響で段ボールが膨らむ「胴膨れ」がどの時期に発生しやすいかを予測したり、作業員の熱中症リスクの予兆を検知したりするなど、事故や品質インシデントの未然防止へとつなげていく方針だ。

熟練の技を形式知化し、外販拡充の武器とする「中小型車両向け配車計画AI自動化」

KGLが取り組むもう一つの大きな柱が、中小型車両を対象とした「配車計画のAI自動化」である。

配車業務は非常に複雑で、長年の経験に基づくノウハウに依存する「属人化」が重い課題となっていた。今回は、エリア間の荷物の売り買いや中継輸送、モーダルシフト(JRコンテナや海上トレーラー)が絡む複雑な大型車両ではなく、同一拠点から複数の納品先を回るルート配送(1〜3回旋)が中心の「中小型車両」にターゲットを絞り、システムベンダーのクアックシフト(東京都千代田区)と共同で開発を進めている。

これまで現場では、基幹システム(SAP)からデータをダウンロードし、Excel(エクセル)上で大型と中小型に振り分け、さらにExcelで配車計画を組み、それを再びTMS(輸配送管理システム)に入力し直すという二度手間、三度手間が発生していた。

▲配車計画AI操作画面(出所:キリングループロジスティクス)

物流DX推進部部長補佐の折笠貴之氏は、配車業務の難しさと現状の課題をこう語る。

「配車は複雑な業務のため育成に非常に時間がかかり、基本を作れるようになるだけで3か月、一人立ちするまでには3年ほどかかる。また、熟練者の頭の中にだけある暗黙知が非常に多く、ここを引き出すのがかなり難しい。さらに、閑散期なら運賃効率を優先し、繁忙期なら配送効率を優先するといったように、シーズンによって配車パターンを変える判断も必要になる」

「今回PoC(概念実証)の対象となったのは8拠点だが、実はこれまで各拠点ではそれぞれ全然別々の運用をしており、別々のツールを使って配車計画を組んでいた。これをAIでグルーピングし、共通のシステムを作ることで、業務を全国で統一化していきたい」

目標は、現在拠点あたり日次2.5-3時間かかっている配車計画作成の工数を、少なくとも1.5時間削減し、ゆくゆくは2時間程度で全工程を完了させることだ。

そして特筆すべきは、この取り組みが単なる「工数削減」にとどまらず、KGLの事業戦略と直結している点である。

現状、同社は主にキリングループの仕事をメインに扱っているが、例えばもう少しグループ外の仕事(外販)を取ったり、キリングループの中でもまだ受託しきれていないヘルスサイエンス領域などにアプローチしていきたいというのが、全社的な課題となっている。折笠氏は「AIによる工数削減でリソースを確保し、そういった新たな価値創造の領域にチャレンジしていきたい」と意気込みを示した。

また、「配送をしっかり完遂していく必要がある一方で、利益を上げていく必要もある。AIによって配車や稼働状況がデータとして可視化されれば、『どういう組み合わせをしたら、どの領域・時間帯に空きが出るのか』も見えてくる。そこにハマる仕事を探してくるといった、戦略的なマッチングにもつながるはずだ」と、データを取ることで新たな展望が見えてくることへの期待を語る。

3月27日に終了したPoCでは、TMSの情報をアップロードして実行ボタンを押すだけで、数分で処理が完了するシステムを構築した。車格ごとの配車数、各便の構成、地図上でのルート表示、ドラッグ&ドロップで配車修正ができるUI(ユーザーインターフェース)などが現場から非常に高い評価を得た。しかし、アルゴリズムの精緻化には課題が残ったという。

「UIの評価は非常に高かったが、基本計画を踏襲して検証した結果、AIが割り当てきれなかった『残貨物』が発生するなど、アルゴリズムが実務レベルに追いついていない部分があった。配車担当者の頭の中にある情報をもう少し引き出し、しっかり反映していく必要があるため、アルゴリズムをブラッシュアップしてもう一度PoCを検討したい」(折笠氏)

▲配車計画が立てられると、目的地がワンクリックで確認可能(出所:キリングループロジスティクス)

今後は、バース予約システムと連携して搬入・稼働時間をコントロールすることや、ドライバーの資格(フォークリフト免許の有無、扱える種類)、手荷役の有無(高齢者への配慮やローテーション)といった細かな制約条件をAIに反映させることを視野に入れている。さらには、配車の前後工程(ファクスやメールで届く車両手配依頼のOCR取り込み、確定した配車表の運送会社別自動送付など)のAIエージェント化も計画しており、徹底した省人化と付加価値業務へのシフトを目指している。

Microsoft Copilotを活用した「酒類転送計画の自動化」

最後に紹介するのは、オフィス業務における生成AIの活用だ。KGLでは、工場ごとの製造計画をもとに、各拠点への在庫配置や日々の転送計画を作成する「需給業務」において、Microsoft Copilotの活用検証を進めている。

この業務は取り扱うアイテム数と拠点数の組み合わせが膨大であり、配車業務と同様に属人化が激しく、担当者の残業が常態化し、36協定ギリギリに迫ることもあったという。

▲物流DX推進部部長代理の秋丸知史氏

物流DX推進部部長代理の秋丸知史氏は、当時の業務の実態を次のように説明する。

「需給業務は確実に運びきるための重要な役割ですが、職人技を持った担当者が育っても、ノウハウがなかなか引き継げない。 実際の業務を見ると、朝8時から夜21時頃まで作業が発生している。日中の時間帯(特にお客様からのオーダーが更新される11-13時や15-16時のピーク時)は、当日や直近数日(当日から4日後程度)の配送データ対応に追われます。そして夕方以降の残業時間帯になってようやく、メーカーから示される『2週間先の在庫配置方針』に合わせ、当日から2週間先までの日々の経路別配送計画をシステムに入力する、という作業を行っていた」

つまり、日中は直近のオーダー対応に忙殺され、先々の計画づくりが夜にずれ込むという構造的な課題があった。そこで「残業時間帯に行っているこの先の計画づくりを、なんとかAIで代替できないか」(秋丸氏)と着目したのが、今回の取り組みの出発点だ。

従来は人が手入力し、状況が変わるたびに修正を加えていた労力のかかる作業に対し、メーカーからの製造計画やBIツールから抽出したデータを基に、Copilotのプロンプトで条件を指示し、段階を経て最終的に基幹システム(SAP)へ投入するフォーマットを自動生成する仕組みを構築した。

「いきなりすべてをAIに任せて動かすと、結果が正しいか検証しづらく、現場も使えないと判断してしまう。そのため、ある程度のタスクに区切りながら検証し、ステップを踏んで進めている」(秋丸氏)

現在は東日本支社のビール類担当者16人のうち、先行2人から検証をスタートし、徐々に対象アイテムや利用者を拡大している。現状でも人が行っていた作業のおよそ70%を代替できるレベルに到達しており、これを80%まで引き上げることで、3-4時間かかっていた作業を1時間程度に短縮することを目指す。4月中には一通りの検証を完了させ、実務での安定稼働へと移行していく予定だ。

効率化のさらにその先へ、データ蓄積と新たな価値創造への挑戦

KGLのDX推進は、単なるツールの導入や労働時間の削減にとどまらない。

秋丸氏は「削減できた時間を、新しい発想や価値創造(イノベーション)の部分に持っていければいい。物流DX推進部全員に知見が最初からあるわけではないが、展示会に足を運んで新しい技術を見つけ、試行錯誤しながらどんどん新しいことにチャレンジしていきたい」と語る。配車業務においても、空いたリソースで新たなビジネス領域へ挑戦することが明確に掲げられている通り、KGLのDXは攻めの姿勢を貫いている。

さらに、今回の取材を通して各担当者から共通して語られたのは、「データを蓄積することの価値」である。現場の安全点検における写真や環境データ、熟練者が属人的に行っていた配車実績など、これまで紙や個人の頭の中にしかなかった情報が、デジタルデータとして可視化され、蓄積されていく。

DX化は効率化や省人化といった直接的な成果をもたらすものだが、同時に「データを取り続けることで、今は見えていない新たな課題や知見が見えてくる、さらにできることが増えていく」という点にこそ大きな意味がある。目先の分かりやすい成果だけを求めるのではなく、「さらなる効率化や付加価値を生み出すために、まずは現場のデータを取っていく」という姿勢が、これらの取り組みの根底に流れている。

今年度よりキリングループの各事業会社(荷主側)にはCLO(物流統括責任者)が設置される。特定倉庫業者であるKGL自体にはCLOは置かれないものの、事業会社側のCLOと密接に連携し、単なるコストカットではなく「投資と価値創出」に軸足を置いた物流インフラの構築が求められている。

現場のデジタルプラットフォーム化、配車のAI自動化による外販拡大の布石、そして生成AIを活用したバックオフィス業務の改革。新設された物流DX推進部が旗振り役となり、KGLは次世代の物流モデルの構築を目指す。

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