産業・一般2015年、トラックドライバー88万人超の需要に対し、供給が74万2000人にとどまり、14万人が不足する――。国土交通省が08年9月に公表した報告書で示されたトラックドライバーの需給予測は「物流2015年問題」と呼ばれ、物流関係者に衝撃を与えた。
■国土交通省による2003年時点のドライバー需給予測
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深刻化する物流業界の人手不足、収益圧迫で悲鳴
実際、物流業界の人手不足感はかつてないレベルで事業者の経営を直撃しており、4月下旬からはじまった上場物流企業の決算では、労働力不足が利益を圧迫して大幅な減益を余儀なくされるケースが続出。トラック運送、倉庫、総合物流を問わず、同様の傾向となっている。
また、採用難などを原因とする「人手不足倒産」は前年対比で2.3倍に膨らみ(東京商工リサーチ調べ)、帝国データバンク横浜支店が2月に公表した神奈川県の動向調査結果も、運輸・倉庫業は「人手不足状態にある企業の割合」が52.2%と突出。
14年12月に全日本トラック協会がまとめた調査レポートでは、実に7割近い事業者が人手不足を訴え、62%が「新規取引の受注、貨物量の増加に対応できない」と回答した。
「物流2015年問題」、実際の需給ギャップは2万人?
物流業界の人手不足が深刻な状況にあるのは間違いないが、その中身は正確に把握しておく必要がある。まず、冒頭の「物流2015年問題」は、国交省が東日本大震災前の08年に公表した予測結果で、14年4月の消費増税も織り込まれていない。
15年のトラックドライバーの供給数は74万2000人と予測されていたが、実際には14年10月の段階で86万人となっており、12万人の開きがある。需要数は営業トラックの輸送量をベースに算出されていることを踏まえて試算すると、14年11月時点では88万人超の予測に対し、実際には86万人の供給があったこととなり、需給ギャップは2万人程度にとどまっているとみられる。
■実際のドライバー供給数の推移
とはいえ物流現場で人手不足が深刻化しているのは事実であり、さまざまな指標もそれを裏付けているが、これらと逆の実態を示す需給数値をどうみるか。
前述の帝国データバンクの調査結果を見ると、「正社員の過不足感」で不足していると回答した52.2%のうち「非常に不足」は8.7%。これに対して、非正社員の不足合計は38.9%だが、「非常に不足」は11.1%と、「正社員以上に深刻な不足状況となっている可能性」を示している。
物流や製造、飲食店など短期需要に強みを持つ人材サービス大手・フルキャストの宿谷学執行役員(北日本担当)は「トラックドライバーだけでなく、倉庫内作業や製造現場などでも就業人口はそれほど減っていないが、好景気に加えて、時給であったり、即日払いのニーズへの対応といった、より高い条件や働きやすい職場環境のところに集中している」と、人手不足が物流業界全体に及んでいると説明する。
物流への影響甚大、法改正で日雇派遣原則禁止
12年に改正された労働者派遣法の影響も無視できない。この改正では、30日以内の短期間の派遣、いわゆる「日雇派遣」が原則禁止となった。特に、人材需要の季節変動が激しい物流業への影響は大きく、多くの企業がアルバイトの直接雇用に舵を切ったものの、短期派遣や業務請負に依存していた業界体質を直ちに転換するのは困難で、大手でも対応しきれない事態となっている。
宿谷氏は「12年10月の法改正以降、短期(日雇)派遣の例外規定で運用できる人材は半分以下になっている。人材サービスを利用する企業は、対応力が半分以下に落ち込んだことになる」と話す。同社の調べによると、短期派遣の例外規定に該当するのは登録スタッフのうち「昼間学生や夫の年収が500万円以上の家庭の主婦」など52%に過ぎないのが実情だ。
「人材サービス会社のなかには、改正後もしばらく短期派遣の要請に例外規定による運用で対応していたところもあったようだが、13年の秋ごろを境に『グレーゾーン』を回避しようとする物流事業者が増えてきた」という。
13年度は同社にとっても試練の時期となった。宿谷氏は「変化をあまり好まないお客様もいらっしゃったことに加えて、例外規定でも問題はなく何も変わらない、と伝えている人材サービス会社もあり、『直接雇用』へと企業の意識が変化するなかで利用企業側にも戸惑いがみられた」と振り返る。この結果、同社の13年度決算は2度の業績下方修正を余儀なくされたが、その後に力を込めてこう続けた。
「事業環境が激変するなかでも、コンプライアンスを順守する会社の方針を徹底した」
転機は意外に早く訪れた。14年4月ごろに各協会に対して例外規定を厳格に運用するように通達が出ると、リスクを嫌う大手物流事業者では派遣から直接雇用への切り替えが一気に進むこととなった。軽作業コンプライアンスを重視した同社の戦略が効果を発揮する。また同通達を機にこれまで付き合っていた人材サービス会社から依頼を断る顧客企業もあったようだ。
厳格な法令順守と短期人材を求める両方のニーズに対応できる人材サービス会社は少なかったが、それまでのコンプライアンス順守の取り組みと東証一部上場企業という信用力を背景に、自社の持ち味を活かした「最短1日からのアルバイト紹介」と、煩雑化する利用企業の人材管理業務を支援する「給与計算代行」が支持された。この結果、14年度は一転して2度にわたって業績を上方修正することとなった。
また、ことし1-3月の派遣者数実績(日本人材派遣協会調べ)では、派遣者全体の人数が増加するなかで物流現場で働く「軽作業」と「短期(日雇)派遣」の派遣者数が急減、同社の取り組みが間違っていなかったことを裏付けた。
■関連記事:1-3月の「軽作業」派遣者数が急減、人材派遣協会調べ
「短期派遣禁止」浸透、物流事業者の選択肢は
自社の経験を踏まえつつ、宿谷氏は物流事業者と人材サービス会社が乗り越えなければならない課題をこう表現する。
「当社が改正派遣法を厳格に守る事業運営を行うがために、利用していただいている企業の管理部門・間接部門には手間をとらせてしまっている面もある。しかし、適切に例外規定によって人材サービス業を運営し続けるのはハードルが高く、サービスを提供する側、利用する側の双方にとってコンプライアンス、人材供給力の観点でもリスクが伴う」。では、物流事業者はどうすればいいのか。
この問いに対し、宿谷氏の回答は「企業が自社で即日払いなどの好条件を提示できる仕組みを持つこと」と明快だ。
最短1日という短期人材の給与計算業務は煩雑で、多くの物流事業者はその手段を持っていないが、同社は短期人材需要に対応するアルバイト紹介に加え、希望する顧客企業に対して給与計算業務を代行するサービスを用意している。このサービスは同社が紹介したアルバイトだけでなく、顧客企業が自社で採用したアルバイトに対しても提供できる。同社の調べによると、同じ仕事内容で即日払いではなく月払いの仕事を選ぶかどうかを聞いたところ、「時給が高くても選ばない」が36%、「時給が高ければ選ぶ」が28%という結果が出た。許容できる差額の希望は50-300円が多いようだ。
また、アルバイト紹介については「(利用企業は)安定して事業を継続するために複数の人材サービス会社と付き合う選択肢も持つべき」と言い切り、取引する人材サービス会社を選ぶ際には「供給力とコンプライアンス意識の高さを基準にしたほうがいい」と提案する。
法改正前まで短期派遣を中心としていた同社の人材サービスは改正後、企業が直接雇用するアルバイト人材などの紹介業務が柱となった。物流事業者にとって、今後も人材サービス会社は必要な存在となり得るのか。
「女性や高齢者を活用しようとする動きが目立ってきているが、こうした人材が必ずしも正社員になることを望んでいるとはいえない。短期で働きたいニーズと、短期で人材が必要な物流現場が存在する限り、最短1日からの人材マッチングというニーズは変わらない。また、今年9月に向けた派遣法改正、12月のストレスチェック義務化、2016年1月からのマイナンバー制度や4月からの有給取得に関する労働基準法の改正など、これからも事業環境の変化を促す波が相次いで押し寄せてくる。人材の供給だけではなく、適切な対応、積極的な情報発信をしていくことで、物流業と人材サービス業はこれからもしっかりと二人三脚で歩む関係を続けていきたい」(宿谷氏)。
ここまでのレベルで短期人材需要を支援できる事業者は多くないが、同社のような人材サービス会社が、物流業界で最大の課題となっている人手不足を改善するカギを握っているのは間違いなさそうだ。
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