ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

国の支援受けたプロジェクトの一部公開

日本郵船、熟練船長の衝突リスク判断をITで共有

2017年12月26日 (火)
空白

話題日本郵船は26日、船舶を陸上から遠隔操船したり、自船周辺の衝突リスクを熟練した船長並みの認知レベルと判断力で警告したりといった技術の確立を目指し、国の支援を受けて通信機器メーカーなどと取り組む研究開発プロジェクトの進捗状況を報道陣に公開した。

今回は、船舶の衝突リスク判断に関する研究過程を公開。日本郵船傘下の日本海洋科学が保有する大型操船シミュレーターを用い、大型商船の操船経験を積んだ船長が、どのように他船の接近を危険として予測し、衝突回避の判断を行うかをデータ化。これらを集積し、「熟練した船長の衝突リスク判断」を共有することで、衝突事故の発生率を半分程度に抑える。

これまでは操船者がそれぞれの経験を元に衝突リスクを予測・判断していたため、リスクに対する感覚に個人差があったが、経験豊富な船長から集積したデータを利用し共有の基準として整備することで、乗組員の判断をサポートする。

このほかにも同社は陸上からの遠隔操船、AR(拡張現実)技術を利用した航海支援ツールの研究開発を進めており、いずれも国土交通省の「先進船舶技術研究開発支援事業」の支援対象事業として、国の補助を受けながら進め、「日本の産業競争力の強化」につなげる。

28日のデモンストレーションには、日本郵船グループ、国交省海事局海洋・環境政策課の田村顕洋技術企画室長、東京計器、日本無線、古野電気の開発チームが同席。

プロジェクトマネージャーを務める日本郵船の桑原悟氏は、大型船の事故の49%を衝突が占めていること、コンテナ船の大型化に伴い、操船者の物理的な視野が狭くなって操船に求められる技術が高度化する一方、シンガポール・マラッカ海峡の通航隻数が1980年の1.5倍に増加し、今後もさらに増えていくとみられることを紹介しながら、「船舶の衝突リスクが年々高まっている」と述べ、熟練した船長の判断基準をITによって共有するプロジェクトの意義を強調した。

世界の運航隻数は11.2万隻だが、同社の衝突事故発生率が1%であることから、年間の衝突事故発生隻数が1120隻になると推定。このうち半分程度が「不十分な見張り」に起因していることから、同社は「熟練した船長のリスク判断基準を共有化し、システムによってリスクの“気づき”を知らせる」ことで、半分の560隻程度の衝突事故を減らせると考えた。

しかし、機会的にはじき出すリスクと熟練した船長のリスク判断には差異があり、当初の検証で実際に船長が不要だと判断した「システムによるリスクの警告」は66%にのぼった。逆に「アラート不足」だと感じたシチュエーションも48%あったという。現在は2019年度に予定している実証実験に向け、これらを修正するための検証を重ねているという。