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貨物運送の売上4.2%増、旅客は2.8%減、TSR調べ

2012年6月15日 (金)

話題売上規模の分布(東京商工リサーチ)東京商工リサーチが15日に発表した「道路運送業者の動向」調査結果(旅客運送、貨物運送売上上位300社が対象)によると、長距離トラック、ロジスティクス、宅配便など貨物の2011年売上高が前年比4.2%増となったのに対し、バスやタクシーなど旅客運送は2.8%減と明暗を分けた。東日本大震災や原発事故などで人の移動が停滞したが、物流は活発だったことが分かった。

 

損益面は旅客、貨物ともに減益企業が多かったが、7割以上の企業が2期連続で黒字を確保した。道路運送業界は、原油高騰による燃料費の上昇や排ガス規制強化に伴う車両入れ替えなど、コスト負担が増していた。そこに規制緩和による同業乱立が運賃低下を招き、疲弊が著しい業界の一つになっている。

 

売上高別では、旅客が「10億円以上50億円未満」に230社(構成比76.6%)と集中したのに対し、貨物は「100億円以上500億円未満」が165社(55%)で最も多く、旅客に比べ貨物の年商規模が大きかった。

 

業態別の売上高上位は、旅客トップは九州北部を地盤にバス保有台数日本一を誇る西日本鉄道(福岡県)が唯一の1000億円台。一方、貨物は日本通運(東京都)、ヤマト運輸(東京都)が1兆円規模で、この2社を含め売上高1000億円以上は10社あった。

 

都道府県別の売上高では、東京都が旅客、貨物ともダントツのトップで、旅客では全体の3割、貨物では5割のシェアを占めた。旅客では2位福岡県、3位神奈川県、4位大阪府、5位愛知県の順で、観光地や人口の多い大都市が上位に顔を出した。貨物では2位大阪府、3位京都府、4位愛知県、5位広島県の順。佐川急便(京都府)や福山通運(広島県)など大手が全体を引っ張り、大都市に加えて、各メーカーの主力工場が集積する地域が上位に並んだ。

 

業歴別では、旅客が貨物に比べ老舗が多いことがわかった。業歴「100年以上」は、旅客で6社だったのに対し、貨物はゼロだった。ただ、「50年以上100年未満」のレンジでは旅客178社(構成比59.3%)、貨物144社(48%)でともに最多だった。

 

自動車運送は1990年-2000年頃の規制緩和で、事業者数が増加した。だが、業歴20年未満の企業は旅客54社(18%)、貨物47社(15.6%)と少数で、売上高上位は業歴50年以上の老舗が各業態で多数を占めた。

 

最も業歴が長かったのは、西日本鉄道が明治41年設立で104年。次いで、雲仙普賢岳の噴火にも見舞われた島原鉄道(長崎県)が明治42年設立で103年だった。いずれも鉄道事業からスタートし、バスを中心に今も地元住民の足として欠かせない存在になっている。

 

2011年の売上高合計は、旅客が1兆1491億円(前年比2.8%減)、貨物が10兆2946億円(4.2%増)と、売上高では貨物が旅客の8.9倍と大きな格差がついた。特に、旅客は215社(構成比71.6%)が減収に陥り、厳しい経営環境を示している。一方、貨物は宅配や工場生産品の運送が堅調に伸びた。

 

売上高の2期比較では、旅客が増収74社(構成比24.6%)、減収215社(71.6%)、横ばい11社(3.6%)。貨物は増収232社(77.3%)、減収68社(22.6%)だった。
旅客は7割が減収だった一方、貨物は8割近くが増収で対照的となった。2011年3月に発生した東日本大震災以降、旅客は自粛でレジャー支出の抑制が全国的に波及したのに対し、メーカーのサプライチェーンの混乱は比較的早期に復旧し貨物の伸びが目立った。

 

損益面の2期比較では、旅客が増益111社(構成比37%)、減益179社(59.7%)、横ばい10社(3.3%)。貨物が増益149社(49.6%)、減益151社(50.3%)で、旅客、貨物ともに前年を下回った企業が半数を占めた。赤字は、旅客が72社(24%)、貨物が34社(11.3%)で、ともに前年(旅客43社、貨物27社)に比べ増加した。

 

旅客は、料金設定で規制を受けない貸切バス業者がツアーバス運行に力を入れているが、過当競争から利益確保に苦戦している。また、非都市部で赤字路線を抱えがちな乗合バスは生活の生命線としている利用者への配慮から撤退が難しい状況も反映している。タクシーも、他の交通手段との競合に加え、燃料費の高騰、IT投資などの費用が負担となっている。

 

一方、貨物は同業者間の競争が激しく、受注確保には値下げ要請や多頻度小口輸送など荷主からの細かい要求への対応が求められ、単価下落とコストアップの二重苦に喘いでいる。

 

ただ、赤字企業が増えた一方で、2期連続黒字を確保した企業は旅客203社(構成比67.6%)、貨物245社(81.6%)と、各業態ともに6割-8割を数えた。いずれも輸送の効率化や不採算路線の見直しなどで利益確保に向けた努力が奏功している。

 

2011年の貨物は、長引く個人消費の低迷や円高進行による海外向け荷動きの鈍化など懸念要因もあったが、物流の回復もあり7割が増収、8割が2期連続の黒字を確保した。一方、旅客は増収が2割にとどまり、赤字企業数が貨物の2倍に達するなど明暗を分けた格好となった。