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「駅からのみち」第2回(コラム連載)

2020年4月17日 (金)

話題物流コンサルタントの永田利紀氏によるコラム第3弾「駅からのみち」、第2回を掲載します。第1回では、ECの台頭、買い物弱者、”駅前”の衰退にスポットを当てました。今回は課題解決に向けた鉄道・駅の活用について提案します。
「駅からのみち」第1回▶https://www.logi-today.com/373960

第3章-駅ならだれもが

個配インフラの必要性と年齢層および利用頻度の拡大には安定した基盤が必要だ。参加するプレイヤーは一定の共通・共有・共用・共同・共仕を理解納得の上で実務にあたることが絶対条件となる。理由は明白だ。清濁併せ呑む気概で「共」に甘んじれば安く上がる、にほかならない。

■ ラストワンマイルの新しい始点

モーダルシフト推進の要として、鉄道の貨物運送量増加には大きな期待ができる。コンテナの仕様や容量の制限など、欧米諸国に比べて不利な点はあるものの、トラック輸送偏向ゆえの高速や幹道使用依存を緩和する作用は強い。時間の選択を加えれば、コスト低減効果も期待できる。問題は「載せ替え」による手間や時間がコスト化する点だ。その解決のためには、載せ替え不要な最終拠点としての既存駅および駅前をはじめとする場所への施設設置が必要だ。国が指針作成し民間へ通達および推進要請すれば、一気に具体化するだろう。最大の利点は、鉄道駅はすでに多くの地域に存在することであり、その認知も改めての要がない。誰もが知っているし、今までに未訪だという住民はいないはずだ。

■ 道路ではなく線路で

生鮮三品は一工夫が必要だが、その他の日用品や嗜好品は鉄道輸送でも支障ないだろう。火急ならそれなりのコストと手間をかけて入手するし、それは今も同じだ。しかし、購買の圧倒的多数を占める「二、三日で届くなら支障ない」物品については、地域で用意されている受け取り方が基本。送料無料や格安ならありがたいだろうが、買い物費用としての運賃負担は各々理解するべきだ。自身でバスや列車に乗って買い出しに行っても交通費はかかる。その代替手段にコストが生じるのは当然だと考えてほしい。

■ 鉄道特化型TC

個配の機能を活かしながら、その実は団体購買・一括納品の中身が駅と駅前の配送始点化の要件となる。物流を更にさかのぼれば、集荷集約による下し地毎の名寄せの段階から始まっている仕組でもある。鉄道の駅によっては、着地として、もしくは発地着地の両機能を果たすところもある。発地とは集約・仕分け・出荷管理の荷役機能を具備する貨物路線引込み済みの大規模TCをさす。登録販売者を網羅するクロスドック施設と言い換えてもいい。その施設管理や運用にJRは不可欠だが、鉄道貨物の個配機能具備に必要なTCの運営には、現在の個配大手をはじめとする販売と物流の関与者全員が参加する必要がある。既存の商社系ベンダーが港湾などで運用しているGMSや量販のTCやDCがそのひな形であり、転用可能な仕組も多いので、機能としての開発や新案はあまり必要ないだろう。いっそのこと商社が参加すれば話がはやい。

■ 駅と駅前の施設設置と管理

自治体の役割は、駅に到着する物資を住人の手に渡すことだ。それが「配達」である必要はない。注文者の引き取り受領でもよい。地域の福祉や域内巡回用のバスやワゴン車を併用しながらの複合サービスが動き出す。その担い手の先頭に立つのは役所であり、自治体事業として取り組むべきだ。

第4章-三つの「乗り合い」

具体的なスキームの図示や詳細説明は別の機会に譲るが、三つの重要な「乗り合い」は是非書いておきたい。

■ 販売者・配送者の乗り合い

集約と共配は個配機能のインフラ化による地域住民のライフライン確保に不可欠な条件。当該地域を対象として販売情報を提供する全社は、注文者の団体化とそれに従っての第一次経由地の共通化に応じなければならない。約定に従って受注した特定地域向けの出荷品は、共通集約施設で販売全社分がトータルピックのごとくカウントされ、発送起点となる最寄りの大ターミナルで着駅ごとの購入者別のシングルピック単位でまとめられる。集約センターも各路線向けに荷分け作業するTCも、参画する各社が統一ルールとシステムの下で人的供出まで分担して運営にあたる。

■ 複数地域の乗り合い

路線駅が所在する各自治体は、駅と駅前の施設や運営ルールの共通化に応じなければならない。同一システム・仕様の施設運営はコストの抑制に有効で、災害や個別障害時には、近隣自治体からの援助もスムーズになる。代替可能な運用内容はリスクヘッジとして必須なうえ、自治体間の実施格差や公的サービスのムラが軽減されるので、負担コストの按分も計算しやすく明朗な算出根拠が用意できる。

■ 住民の乗り合い

サービスの利用者であり、その利便の享受者である住民は、定められたルールに従って行動する必要がある。サービスの維持と充実のために、大同小異に伴う一定の我慢は受容しなければならない。制度の拡大や内容の多様化は、自分たちだけではなく、地域の次の世代たちにとっても不可欠で重要な地域資産なのだということを忘れてはならない。家族の単位が小さくなる中、かつての大家族内に存在していた世代間の縦のつながりが、地域という集団に不可欠となっている。各世帯をつなぐ横のつながりは、生活物資や情報確保のために、利害と生きがいを混在させながら強まらざるをえない。

■ 駅と道と家

地域格差と呼ばれるさまざまなムラやゆがみが不規則で不可避な事情をもって到来する。どこに、というわけではなく、どこにでも、と表現するのが妥当だろう。社会資本の充実により、我が国では公園や公共施設の多くは無料で使用できるし、道路整備の充実は目覚ましい。通信インフラや水道光熱をはじめとする、今まで国民が投資してきた公財によって、無意識の利便を享受している。満ちた後に欠けることを怖れたり嘆いたりする心情は誰もが同じであるし、個人の力が及ばない構造的な格差や孤立を憂うのも当然だ。

「ではどうすればよいのか」という自問と熟考。ささやかな試案ながら、拙文が物流業界にとどまらぬ有志による議論や考察のきっかけになれば幸いである。

「駅からのみち」第1回(コラム連載)
https://www.logi-today.com/373960

「駅からのみち」第2回(コラム連載)
https://www.logi-today.com/374518