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「日本製の物流プラットフォーム」第7回コラム連載

2020年6月4日 (木)

話題永田利紀氏のコラム連載「日本製の物流プラットフォーム」の第7回を掲載します。

第6回掲載(6月1日)▶https://www.logi-today.com/379203

第13章- 多拠点物流

(イメージ画像)

物流のプラットフォームがもたらす効用は計り知れず大きい。既存の価値観や測定値・統計値は根底から覆るだろう。なかでも、多拠点物流の評価について、その議論に終止符を打つ可能性が高い。

■ 全部別々、しかもバラバラ

一部大手企業の「多拠点ながら最少に抑制」を除いて、中小企業の物流拠点複数化は無益多損となると主張してきた。この狭い国内で複数設ける理由は何なのか。日を争う配送サービスを常とすることは、もはや無用だと皆が気付きはじめている。納品の猶予が1日か2日得られるだけで、タコ足化していた地域別物流拠点は存在する価値を大幅に下げるか失ってしまう。BCMは別視点から評価すべきで、多拠点の理由としては弱い。(既掲載「BCMは地域の方舟」参照)

そして拠点集約した日から、驚くべきコスト抑制と業務品質の向上が得られる。多重在庫・多重組織・多重管理・多重労務・多重コストなど、いくつもの要素が単一になる。”一理が生む多利”、そんな言葉が浮かぶが、なぜか一般化しないのは不思議この上ない。

■ 比較してみれば

そもそも単一と複数の拠点運用シミュレーションを実施している企業はあるのだろうか。正しい数値や付帯労力などのコスト換算を客観的かつ辛めに見積もってこそ、「実施」と呼べるわけだが、はたしてどうなっているのか。各論での比較も考察の具として不可欠だが、運営の基礎的条件として、単一拠点が多拠点に勝る項目はいくつもある。人材、在庫、業務フローなどを集約した「合理的で高品質な物流」が確実に手に入るからだ。

■ 人の問題は特に

「物流屋は所長商売」と言われるように、管理者次第で現場は激変する。拠点数が「1」であることを最上とする理由のひとつは、その管理者に最も優秀な人材を就かせることができるからだ。つまりその企業の物流機能の最大パフォーマンスが施されるということだ。まさに人事を尽くしている、と表現してよいだろう。拠点の数が増えれば増えるほど、人材の確保が難しくなってゆく。「所長としての力量を備えた人材が育っていないのなら、新拠点は設けない」と断言していた大手物流企業の創業者の言葉がその実を表している。

それぞれの企業が独自に運営する自社物流センター。それぞれの物流会社が独自に運営する複数の拠点と業務委託している複数の荷主。しかし、全倉庫内で業務運営する荷主名のみが唯一の個性で、業務を貫く横串となる基本業務フローは直列化されて没個性となれば…日本という大きな倉庫内に配置された「各地・各所の〇〇倉庫」という名称のロケーションが全体最適を維持しながら稼働する。この仕組みは論理的にはすでに実現可能な状況にあり、その先は全ステークホルダーが判断すればよいだろう。競合と協業の明確な区分は、物流業界の行く末を決定する重要な命題となるはずだ。

第14章- 企業の勝負所とは

国内の物流インフラはハード面ですでに飽和状態と推測している。具体的には、自動車・鉄道・船舶・航空の全積載容量と経路、倉庫建屋の全床面積が挙げられる。保管・荷役・運輸のそれぞれについて、ハード面ではもはや充分なはずだ。こらからは、メンテナンスと耐用年数に応じたスクラップとビルドが必要になってくる。

倉庫については今後数十年間は新たな床面積など必要ないほどこの数年で供給が続いている。課題としてあるのは「地域格差による不足・過剰のムラ」だけだ。この状態で過度に競えば、サービス内容にとどまらず価格に及ぶ。適当健全な範囲での価格競合は不可欠だが、過当にまで発展するのは市場参加者全員が回避するだろう。

■ 競争より共生

(イメージ画像)

日本においてデフレーションは「これがあたりまえ」を意味する言葉と化した。従って、その環境下では一定の上限を踏まえた競争に甘んじなければならない。競争することよりも共生しなければ、共存できない未来が待ち受ける。消費者を虐げるような談合や密約によって利益確保せよと言っているのではない。企業も消費者も一定の我慢が必要なのだという意味だ。少なくとも物流の仕組みやサービスはこれを避けられない。

物流は視えない骨格であり血管でもある。したがって健全で強靭でなければならない。同時にしなやかで細やかでなければならない。強者の理論と施策では、必ず切り捨てや断裂が生まれる。それは地域の生活者のインフラの一部を絶つことと同意である。市場参加者たちは最低限度の品質保守を伴う護送船団的な施策を維持する必要がある。

もし、全国の物流施設で共通のプラットフォームが運用されたら、国内物流の行く末は生活者にとって恵みと安心を約束してくれるものになる。実は生活者以上に、荷主企業群が受ける恩恵の大きさは計り知れず、いくつかの呪縛や閉塞から解放されるだろう。

■ 物流は主業務

「主業務に集中するために物流委託する」という企業があるが、物流はまぎれなく主業務のひとつであるから、日本語として意味不明だ。顧客に大きく関与する物流を主業務に数えない企業が、顧客から支持されることはないだろう。

企業にとって物流が必要不可欠な業務であるかぎり、その品質やコスト管理への対峙は避けられるものではない。だからこそ国内物流のプラットフォームを共通化しなければならない。個々の力では解決できないハードとソフト両面での構造的な不利や不効率から解放されることで、顧客へのサービス提供という最前線に注力できるようになる。

道が険しいわけではない。理解の上で自利の置き換えを企業が受け入れるのか否かが奏功の分水嶺になる。

―第8回(6月8日公開予定)に続く

第1回:https://www.logi-today.com/376649
第2回:https://www.logi-today.com/377070
第3回:https://www.logi-today.com/377916
第4回:https://www.logi-today.com/378377
第5回:https://www.logi-today.com/378994
第6回:https://www.logi-today.com/379203

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ~正社員不足、求人企業は偏見改めよ
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コハイのあした(コラム連載・全9回)
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BCMは地域の方舟(コラム連載・全3回)
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