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「もしも自動運転が」第3回コラム連載

2020年6月25日 (木)

話題永田利紀氏のコラム連載「もしも自動運転が」の第3回を掲載します。

第2回掲載(6月22日)▶https://www.logi-today.com/381562

第5章- 正しい表現

配送機能の自動化を有効に市場投入するためには、その両端を担う物流倉庫や集約センターの歩調もそろえなければならない。配送機能と同様もしくはそれ以上に、倉庫内作業には自動化の可否が問われる要素がいくつか存在する。業種や取扱品によっては、人間の眼や手や脚が必要なものもあるからだ。

■ 建前優先は愚

少品種であり、同一庫内では基本的に一方通行で入荷から出荷までが完結――そんな一部のSPAや専門・特殊機器メーカー以外では、完全自動化は難しいはずだ。毎度の持論で強縮だが、自動化など必要ないほど論理的で単純・簡易な荷役に成功している倉庫業務しか自動化できないという現状は当面続く。

もちろんこれに該当せずとも、やり方によっては可能だろうが、そこまでして無理やりに自動倉庫として成り立たせる必要があるのか、冷静な検証は必要だ。そうしない場合の業務フロー工数とコスト試算を比較してみれば答えはすぐに得られる。

■ 完全は不完全の母

「はやり」や「きこえ」などの言葉が経営層や管理層の脳裏に過っているなら、自動化の適用業務を今一度再検証すべきかもしれない。技術は日進月歩。最先端を全部盛り合わせるような「おまかせ定食」は、注文者の体格では全部を消化しきれないことが多いし、なによりも高くつく。

「自動化ありき」と挙げた手を下すのは経営者の仕事。事業内容と身の丈にあわせた相応の設えを過不足なく下書きしてみることが最重要事項であることは、どの経営者も心得ているだろう。

追うウサギは一匹だけ。ことわざを持ち出すまでもないはずだが、つい魔がさすのか、二兎も三兎も追ってしまう間違いは後を絶たない。

■ 庫内作業は不完全自動化

倉庫業務に従事する人々の雇用保護を訴える以前に、ほとんどの企業物流では、庫内業務の完全自動化など不可能なはずだ。「現在の物流規格の氾濫状態のままでは」と言い換えてもよい。

状況として「この部分だけは自動化・無人化できている」が正しい表現と説明だろうが、それに補足して「その自動化を維持するために、別の倉庫ではこんなことをしている」も書き忘れてはならない事実。結局は減るどころか増加している総コストやその原因である二重業務、業務フローの断裂や並列化などの副産物をどこまで許容するかは経営判断だ。

倉庫や配送の現場を宣伝や広報の具にすることに異存はない。むしろ今まで裏方や縁の下にあった基幹機能に照明が当たるようで誇らしい。人材投入すべき部門であり、正しい業務内容の理解は従事希望者の増加につながるだろう。自動化一辺倒の業務内容に向かわないからこその人材投入だと願っている。

第6章- 人間と機械

かれこれ10年あまり「日本は亜熱帯化している」と主張し続けてきた。この5年ぐらいは「春と夏と秋は亜熱帯、冬は亜熱帯間際の温帯」としている。気象統計やオゾン層破壊による…のような科学的根拠には明るくないが、体感として「もはや温帯ではないだろう」はゆるぎない私見だ。

■ 我慢は危険

都市部で延々と続く熱帯夜。35度超も珍しくない連日の高温。熱帯雨林のような局所的豪雨。大型化して直撃確率が上がり続ける台風。報道各社は「我慢は生命の危険に直結」と注意喚起している。

確かに一般家屋の空調普及率は上がり、大規模な商業施設内に逃げ込めば、凶器のような暑気や風雨から逃れることができる。昭和の時代に比べれば、設備面では著しい進化を遂げたと評せる。省エネ対応しつつも、機能向上、小型軽量化、低価格という三拍子を揃えるメーカーには頭が下がる。我が国の誇るべき技術資産だと胸を張りたい。

■ 倉庫内とヤード

しかし、最新の機能を備えた大型倉庫でさえも、全館空調設置の稼働には至っていない。築年数が増せば増すほど、庫内環境は悪化するのが一般的だ。建材そのものが蓄熱したり断熱効果に乏しかったり、構造的に輻射熱が逃げにくいなど、夏季の庫内温度の上昇や冬季の低温維持は、労働環境として劣悪である。

天井高5.5m、床面積が1層2000㎡の4階建、というような今や中~小型と評される倉庫建屋でさえ、全体空調はその効果が厳しいだろうし、仮に設置を考えたとしても設備コストは現実味のない試算になるはずだ。年間光熱費まで勘定すればなおさらだろう。

ましてや大型倉庫ならば、その試算の必要すらないことは推して知れる。庫内だけでなく、開口部であるバースやヤードでの半屋外作業もアスファルトやコンクリートからの照り返しや、立ち上がってくる熱の塊をいなしながらの作業となる。

従って、頻繁な休憩と補水がどの倉庫でも行われるようになっており、言うまでもないが生産性という数値は後ろに回されてしまう。

■ できることから

拙案は、「夜間に作業する」が善後策として最も現実味があるというものだ。特別な投資も不要で、即実行できる対処策だ。酷暑の夏季は、受注の締めから出荷完了までの許容時間を1営業日延ばしてもらう。取引先の理解を得ることは経営の責務だ。

そしてここでこそ自動機能の出番だ。夏季の日中作業は機械の出来る業務だけに絞り、日没後、やや気温が下がったころから人間様のお出ましとする。夜間作業を機械にやらせるのは、倉庫によっては間違いとなるだろう。空調設備のない夏季の庫内作業にとって、夜間こそがプライムタイムなのだから。

第4回(6月29日公開予定)に続く

第1回:https://www.logi-today.com/382504
第2回:https://www.logi-today.com/381562

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ~正社員不足、求人企業は偏見改めよ
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コハイのあした(コラム連載・全9回)
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