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シベリア鉄道利用の欧州向け輸送開始、コスト焦点

2020年11月4日 (水)

国際国土交通省は2日、シベリア鉄道を利用して日本から欧州に貨物を輸送するパイロット輸送を11月5日から12月上旬にかけて行うと発表した。3年目となる今回の取り組みの焦点は「海上運賃の1.5倍とされる輸送コストをいかに圧縮できるか」にある。

コストを引き下げる手段として、シベリア鉄道を運営するロシア鉄道が取引量を増やすことで料金を割り引く「ボリュームディスカウント」を提示したことから、コンテナ1本でテストしてきた前回までと異なり、今回は列車1編成をまるごと日本が借り上げる「ブロックトレイン」方式で実施する。

パイロット輸送は、日本とロシア極東地域を結ぶフェスコ(Far East Shipping Company=FESCO)の航路を利用し、11月6日に横浜港、8日に神戸港、12日に富山新港をそれぞれ出港。13日にウラジオストク港に入港、18日にウラジオストク駅からブロックトレインが出発し、モスクワを経由してブレスト(ベラルーシ)に到着。その先はほかの鉄道やトラックに積み替え、12月上旬にそれぞれのコンテナが欧州の目的地に到着するスケジュールを想定している。

新型コロナウイルスの影響もあり当初は荷主の反応も鈍かったが、9月以降、経済活動が復調する兆しを見せたほか、国交省が精力的に呼びかけたこともあって最終的に日本触媒、ホンダ、三井物産プラスチック、日新、日本通運、山九など数多くの荷主・物流事業者が協力を表明。日本から欧州への貨物をパイロット輸送に乗せる案件は15案件、対象貨物量は40フィートコンテナ14本、20フィートコンテナ6本の合わせて20本、34TEU(20フィートコンテナ換算)に達した。

■利用拡大のカギは「どこまで海上輸送コストに近づけられるか」

シベリア鉄道を利用したアジア・欧州間輸送は、かつて海上輸送よりも安価とされた時期もあったが、飛躍的なコンテナ船の大型化によって海上輸送コストが下がり、現在は相対的に鉄道利用時のコストが1.5倍程度に高くなっている。

ロシア鉄道のアントンコズロフ海外事業・国際協力部長は「(海上輸送に比べて)当然ながらインフラが手作業の鉄道は、無料の海域を航行するよりも高くつく。一方これとは逆に、納期にセンシティブな貨物も一部にはある。貨物自体が高価なため、鉄道輸送料金でも十分に見合うケースだ。ロシア鉄道による輸送の基本料金は、ここ数年変わっていない」と主張。

これに対し、ロシア側との交渉にあたった国交省は、取材に対し「輸送コストがネックになっていることはロシア側に伝えており、コストを下げるためにブロックトレインを利用する方法が示された。現時点でどの程度下がるかは何ともいえない状況だが、年明けのとりまとめで検証する」と交渉過程を説明した。

コスト交渉に苦心している状況がうかがわれたが、海上輸送に比べてコスト面で優位に立つことを目指すのではなく「どの程度、海上輸送コストに近づけられるか」がポイントとなる、との考えを示したものといえる。ただし「鉄道を利用した欧州向け輸送は、”航空・海上輸送の間”に位置づけられるため、企業のBCP(事業継続計画)を強化する選択肢になるのではないか」とも話しており、大幅なコスト引き下げを実現するのは厳しそうだ。