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論説/地方自治体は未来のために物流事業を

2021年3月15日 (月)

話題数年前から地方自治体が手がける物流機能誘致を推してきたが、拙稿には「楽市楽座」や「地域活性化」「自治体の収益事業活動」などの言葉が頻出する。それはもはや始まっている、人口減少と高齢化による地域維持の困難に立ち向かう方策のキーワードとして用いている。(企画編集委員・永田利紀)

■ 「出」を防ぎ「入」を促す

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国家の状態は、地方自治体を護送船団方式で導くことなど起こりえないところに至っている。各種交付金や補助金、時の政権独自の「大盤振舞」「特例助成金」などは今後難しくなる。さらなる増率を控える消費税・固定資産税・贈与税・相続税などの「取りやすい」各項は、コロナ禍終息後には、次々に更新を始めそうだ。福祉財源という錦の御旗はためく消費税率の増加と、歩率アップを後押しする路線価の下値堅持政策。生産性のない土地の価値が頑なに下がらない理由は、推して知るべしというものだ。

ちなみに反対や批判をするつもりは全くないことも付記しておく。わが国の将来を考えれば、もはや選択肢は限られていると思うからだ。税収による財源確保のために、行政は「収税強化」の一点張りで、個人情報の収集管理に拍車をかけるだろう。地方自治体は、その国策に準じて増税を含む行政運営に勤しむが、対象となる住民が減ってしまえば元も子もなくなってしまう。転出防止と転入促進――これをいかに行うかが肝心であることは自明だ。

■ 授かりものの終わり

ふるさと納税制度が始まって久しい。都市部自治体の住民税収が、他の地方自治体へと移動することで成り立っている制度。富める者は「分配という負担」を受容しなければならないという所得税率の累進性と同質だ。地方自治体にとっては天からの授かりものに等しい寄付金に違いないが、その多寡も自助努力や創意工夫次第という状況。今や過熱気味の競争にブレーキや冷水を要する状況になっている。

そして何よりも指摘したいのは、「全然恩恵がない」「そもそも参加していない」「参加したくても返礼品などの“ウリモノ”がない」が実情の、大多数を占める地方自治体の今と今後についての議論が少ないことだ。

■ 当てにしてきたツケ

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さらに深刻な事態に陥ると予想されるのは、ふるさと納税である程度潤ってきた自治体の「ふるさと納税祭りが終わったあと」ではないだろうか。数年にわたって手にし続けた「寄付金」は、想外の善意として蓄えておくのではなく、自治体の事業収入として認識されていたはずだ。それは予算化され、投資財源として計画的に収支が勘定されていたに違いない。だから減少すれば厳しくなるだろうし、無くなれば成り立たなくなる機能や施設やサービスが数多くありそうだ。

「そんなことは考えたくない」「そうなったらなったでどうにかする」「考えてはいるが、代案がない」という現実逃避ともいえる無責任な先送りによって、青少年や幼子たちが将来背負うマイナスや過大な負担は大きく膨らみ続ける。東京都などの一部を除いて、地方自治体の首長には「住民サービスの財源を国策に依存しすぎるのは危険」という感性を持ち合わせてほしいと願う。子供たちの未来と現役世代の老後を危うくする芽は早く摘み取って、耕す土には実りをもたらす種をまくことが正道というものだろう。

■ 本当はうちのお金

ふるさと納税制度の変更や中止により、減や無になる「わが町のお金」と勘違いしていた財源。本来属する元の場所に戻れば、そこでは「本当はわが町のお金」と呼ばれる。今後は住民の囲い込みによる、各種納税と域内消費の監視や確保が今以上に自治体運営の重要事項となる。自治体間の競争は誰の眼にも明らかなほどに激しさを増すだろう。

財源確保のための施策としての拙案は、「自治体の税収につながり、かつ自治体が手掛ける事業として無理のない内容」を趣旨とするもので、それは生活物資の供給方法を自治体主導で安定させる、というものだ。加えて近隣自治体との連合や共同、共有、共通、協力、相互などの言葉を冠する内容の各論を想定している。

とってつけたようなサービスや仕組みではなく、各自治体の人口動態や地域事情に即した内容で、かつ自治体運営の基盤となるもの。そして単独で頑張るのではなく、隣接自治体と一体化したり、共通化したりして、交渉や委託を幾つか検討する。各自治体も職員の大幅な増員や人件費予算の増額は難しいだろうから、現状のまま、もしくは最少の増員やコストで新規事業を進めなければならないはずだ。従って「一石二鳥」ぐらいは当然として、「一石多鳥」を目論むぐらいの野心と気概をもって事に当たる必要がある。

何らかの策で税収を維持もしくは増加させなければ、その地域の未来が暗くなってゆくことは間違いないことだ。大阪弁でいう「必死のぱっち」で気張らねばならない。

■ 生活配送のススメ

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「生活配送」を自治体事業として採用する案を考えている。文字どおり「暮らしの品物を配達する」が中身のすべてだ。自治体存続の大前提として、在住・在勤人口の維持があるはずだから、「住むに支障ない」「働く場がある」を叶えるようにするのが正攻法ではなかろうか。

その礎となるのは「暮らしの基本が成り立つ」だ。それは生活物資の供給が滞らないことと同意であり、食料と日用品の入手に困らない状態を指している。そのためには、JRや第三セクターの鉄道、地元交通会社、スーパーマーケット運営企業や生協各社などとの交渉や委託などが自治体職員の仕事となる。具体案のひとつは過去の連載「駅からのみち」にあるので、ご参照いただければ幸いだ。

■ 地方自治体の危機感

事業案の作成や交渉補助などは、協力者を外部から募るのも良いだろう。ただし、何でもかんでも丸投げは厳禁。かつての「お役所仕事」はもはや通じないし、実りは得られない。

ということをわざわざ断らなくても、地方自治体の有志達は十分な危機感と自助の要を心得ていると感じている。「わが町」のことはわが町を挙げて取り組むという当たり前の意思表示に迷いはないはずだ。

技術論の各項目をここで挙げることはしないが、基本的なスキーム次第では、時代の追い風が吹きそうだということを付記しておく。それは車両の自動運転技術の進化と普及であり、末端の配達車両だけでなく、地域巡回車両や拠点間輸送の根本が変わる可能性が極めて高い。

さまざまな道具の充実は、地域格差や人口の粗密による有利不利の段差緩和に有効だ。つまり人が少なく、高齢化して高額なインフラ投資ができないような大多数の地方自治体であっても、そこそこの生活維持対策を施せるようになる。あくまで物流屋としての素案に過ぎないが、一考の価値はあるはずと自負している。