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プロドライバーは完璧じゃない、西濃の事故抑止策

2021年6月9日 (水)

話題なぜ、後突事故はなくならないのか。

交通事故統計などを診れば、事業用トラックの関わる事故は減少傾向にある。だが、「ついうっかり」バックをしている時に起こしてしまう接触事故はなかなか減らない。後突事故は物流センターや事業者の敷地などの私有地で発生することが多いため、実数として統計に表れにくいことも厄介だ。

東海クラリオンがリリースしたバック運転用カメラ機能拡張ユニット「iBOX」(アイボックス)は、2020年10月に発売されたにも関わらず、わずか半年あまりで800台の車両に設置された実績を持つ。

ヒットの秘密は後突事故を回避する「仕組み」と、ソナーに比べて3分の1のコスト感、そして拡張性の高さにある。

端的にいえば、既存のバックカメラとバックモニターの間に介在させるだけで、後方の障害物を検知し、ドライバーに警告を伝えられるようになる、という手軽さが支持された要因だ。「iBOX」の導入を決めた西濃運輸のインタビューも交えながら同製品が人気を集める理由を探っていく。(坂田良平)

撲滅し難い後突事故、その理由は

▲西濃運輸の小林勝氏

「PCS(衝突被害軽減ブレーキ)のおかげもあって、前進時の事故は格段に減らすことができました。悩ましいのは後突事故です」(西濃運輸輸送品質部の小林勝部長補佐)

西濃運輸に限らず、同様の悩みを抱える運送会社は少なくない。なぜ、後突事故を減らすことが難しいのか。

以前筆者はある運送会社に請われ、安全対策の状況を視察したことがある。その一環で、同社の物流センターで積み込みを行うドライバーたちが、後進でプラットフォームへ寄せる際の目線の動きをチェックしたことがあった。

バックモニターとサイドミラーをバランスよく目視しているドライバーは、わずかだった。サイドミラーをメインとして確認を行うドライバーは、バックモニターに一瞬視線を向けるだけ。逆に、バックモニターをメインとして確認を行うドライバーは、サイドミラーを十分に見ていない。皆がバックモニターを注視するのは、プラットフォームに対し、車体をギリギリまで寄せる後進の最終段階に限られるケースが多い。

「バックカメラを設置したのですが。実際どの程度ドライバーたちが利用しているかは疑問なんですよね…」

これは、ある運送会社の安全対策担当者から聞いた言葉だ。同社ではここ数年、前進時の事故は発生していないという。にも関わらず、後突事故の発生件数は以前とほぼ変わらないというのだ。

(イメージ画像)

筆者は元トラックドライバーである。自身の経験を思い返してみても、後突事故の削減は難しい。プラットフォームや荷役すべき位置に後進でトラックを寄せるために要する時間は、せいぜいが数十秒から2分程度であろう。そのわずかな時間の間に左右のミラーとバックモニターを十分に確認するのは物理的に無理がある。

教科書のような物言いをすれば、後方の安全確認をしっかりと行うためには、途中で後進を止め、都度サイドミラーとバックモニターを確認し、安全を確認した上で後進を再開すれば良い。不審があればトラックを下車し、目視で後方を確認すべきである。だが実際、トラックが後進をする場合には他のクルマを待たせたり、もしくはクルマの流れが切れた一瞬を狙い後進させるケースも少なくない。特に街なかであれば、待たせているのは一般ドライバーの方々であり、「迷惑をかけてはいけない」という意識も、ドライバーは抱いてしまう。安全のためとはいえ、現場は教科書どおりにはいかないのだ。

「仕組み」として後突事故削減に貢献を、と開発

「iBOX」を開発した東海クラリオンは、東海地区におけるクラリオン製品の販売を行う。ただしその活動は幅広く、車載機器の専門商社として、オリジナル製品の開発と販売なども手がける。「iBOX」は、東海クラリオンのオリジナルブランド「elpis」(エルピス)ラインアップのひとつである。

「柔軟な発想と創造性を基盤に、クルマ空間の安心と安全をお客様へご提案いたします」をコンセプトに掲げ、1948年の創業以来、クルマ社会への貢献を続けてきた東海クラリオンが「iBOX」を開発しようと考えたのはなぜか。

▲東海クラリオンの大西功氏

「日本自動車工業会の『2018年度普通トラック市場調査』によれば、バックカメラの装着率は61%。これはドライブレコーダーの59%を超える数字です。にも関わらず、後突事故に関する悩みは絶えません。バックカメラを販売する私どもとしても、これは由々しき問題です」(東海クラリオンビジネスソリューション事業部の大西功部長)

そこで東海クラリオンは、「仕組み」として後突事故削減に貢献できるソリューション開発へと乗り出したのだ。

「見ていない」前提の設計、導入しやすさも特徴

▲障害物を検知し赤枠を表示

最大の特徴は、既存のバックカメラとバックモニターの間に配線・設置することで、後方の障害物を検知し、警告音とバックモニター上のマスキング表示によって、ドライバーに警告を伝えることにある。間に介在させたiBOXが、バックカメラの捉えた映像を解析し、後方の障害物や移動物を検知するのだ。

障害物を検知した場合には、バックモニターの画面上に赤枠が表示され、さらに近づくと警告音が鳴る。移動物を検知した場合には、モニターに人や自転車などの移動物の進行方向が矢印で表示され、同時に警告音が鳴る。もしドライバーがバックモニターを見ていなかったとしても音によって危険を警告し、未然に事故を防止する仕組みなのだ。

半分以下のコストでソナー機能を代替

▲東海クラリオンの加賀健太郎氏

後方を映すだけのバックモニターであれば、ドライバーがモニターを目視し、危険を認知しなければ事故を防ぐことはできない。もしドライバーがモニターを見ていない状態でも事故を防ぎたければ、ソナーが必要となる。大型トラックの場合であれば、上下左右4つのソナーが必要となり、その投資額は決して安くない。

「ソナーに比べ、半分から3分の1のコストで取り付けが可能です」と、東海クラリオン営業本部ソリューション企画Gの加賀健太郎係長はコストメリットを強調している。

設置済みのバックカメラシステムへ後付け可能

「トラックの6割がバックカメラを取り付けているとすれば、それを活かさない手はありません。さらに、iBOXはクラリオンのほか、業界内でシェアの高い、三菱、市光のバックカメラにも対応しています」(東海クラリオンの加賀氏)

トラック用車載機器の中には、ある機能を求めると関連する機器一切をすべて入れ替えなければならないものも少なくない。そういった業界内にあって、既存のバックカメラ、バックモニターをそのままに追加可能なメリットは、コストだけではない。

▲「iBOX」の設置施工例

「例えば、すでに設置済みのドライブレコーダーと接続することで、iBOXが記録した動画をドラレコ側で保存する、といったことも可能です。私どもはユーザーのニーズに応え、ユーザー環境下の他社製車載機器やシステムと連携し、さらに使い勝手や安全性能を高めるためのカスタマイズやセットアップにも積極的に取り組んでいます」(東海クラリオンの加賀氏)

なお、iBOXそのものはタバコよりも一回り小さなサイズである。したがって、取り付けに関しても苦労をする可能性は少ないと考えられる。小型軽量であることは、デジタコやドラレコ、もしくはハンディターミナルと連携する車載用プリンターやカーナビゲーションなど、さまざまな機器がすでに設置されていることも多いトラックにおいてはとても役立つ。

西濃運輸は、なぜ「iBOX」導入を決めたのか?

▲ドアがボディの後方部に収納される

西濃運輸がiBOX導入を決めた背景や理由について、西濃運輸輸送品質部の小林氏に話を聞いた。

「当社の大型トラックは路線便運行という業務の都合上、後進する機会が多くあります。また、当社営業所では他路線便事業者よりも狭い間隔でプラットフォームに駐車させます。これはプラットフォーム上の効率を高めるための工夫であり、そのため当社のトラックは、ボディの後方部にスライドさせて収納するタイプのドアを採用しています。このような事情もあり、当社でも後突事故の削減には頭を悩ませていました」

▲たしかに他社路線事業者の営業所では、ここまで間隔を詰めて停車していない

西濃運輸では、2010年から小林氏も参加する安全風土構築委員会を設け、安全対策に取り組んできた。その活動の成果は2016年、2020年の2度に渡り、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団が主催する「2020年度エコドライブ活動コンクール」において、事業部門の最優秀賞にあたる国土交通大臣賞を受賞したことにも表れている。

後突事故の対策として、安全風土構築委員会では2020年度に、100台強のトラックにバックソナーの設置を決めたという。だが、同社の保有する車両は総数で1万台を超える。バックソナーを全車に設置するとなると、総コストは相当の金額になる。悩んでいた小林氏に対し、東海クラリオンが提案したのが、半分以下のコストで設置可能なiBOXだった。

▲『iBOX』の感想について、ドライバーから話を聞く小林氏(左)

西濃運輸では、3トントラック、4トン車トラック、大型トラックそれぞれ2台づつ計6台で、フィールドテストを行い、その効果を確認したそうだ。フィールドテストに参加し、利用したドライバーからは、このような評価が得られた。

「後突事故を起こすドライバーは、まんべんなく左右のサイドミラー、バックモニターを見ることができていないと考えられます。そんなドライバーにも音で障害物の存在に対して注意を促し、カメラのモニターを見る”ドライブテクニック”を身に付けさせることで、後突事故の削減に大きく貢献できるはずです」

結果、西濃運輸では、2021年度に納車される4トントラック、大型トラックの新車497台に導入することを決定したのだ。

全国に120か所の営業所を持つ西濃運輸が、安心して導入できた背景には、設置とメンテナンスを担当する東海クラリオン協力店の国内全域ネットワークの存在があったことも、付記しておこう。

プロドライバーと言えども、常に完璧ではいられない。だからこそiBOXが求められる。

トラックドライバーだった頃、筆者は前頭部を11針縫う怪我をしたことがある。当時は労働基準法が気休めにもならなかった時代である。春の繁忙期、引越ドライバーだった筆者は休みもなく毎日3-4時間の睡眠で働き続けていた。揚げ句の果てに、ある卸先のアパートに張り出していた梁に激突、大怪我を負ったのだ。怪我の前日、後突事故を起こしていた。高速道路のパーキングエリアで後進し、ガードレールに4トントラックの後部をぶつけたのだ。後にも先にもこんな馬鹿げた事故を起こしたことはない。ただ、今から思い返してみると幸運だったのだと思う。なぜならば、壊したのはトラックと筆者自身であり、ほかの人を不幸にしていないからである。

人の認知機能には限界がある。集中力が続く時間には限界があるし、疲労は人の認知機能を下げてしまう。プロドライバーと言えども、常に完璧ではいられないのだ。だからこそ、安全を担保するための仕組みが求められる。そしてiBOXは、減らすことが難しい後突事故を防ぐ仕組みとして心強い味方となる。

東海クラリオンは2021年6月16-18日、インテックス大阪で開催される「関西物流展」に出展する。展示会では、本記事で紹介したiBOXのほか、フォークリフトの死角をなくし、フォークリフト上方から見下し360度の視野を確保するカメラシステムなど、さまざまな安全対策製品が展示される。

本記事をご覧いただき、興味を持った方がいらっしゃったら、ぜひあなた自身の目で安全性能をご確認いただきたい。きっとあなたもiBOXの優れた安全性能に驚くはずだから。

東海クラリオンの「第2回関西物流展」出展案内
日時:2021年6月16日〜18日 10時〜17時(最終日16時まで)
会場:インテックス大阪6号館(大阪府大阪市住之江区南港北1-5-102)
出展ブース:B9-17 ※出展社名「elpis株式会社」
展示内容:iBOXを含むカメラを使用した安全システムの提案
「iBOX」に関する問い合わせ
東海クラリオンソリューション企画グループ
住所:愛知県名古屋市中区正木1-14-9
電話:052-331-4461
ウェブサイト:https://www.tokai-clarion.co.jp/