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「自動物流道路に関する検討会」

輸送と保管を融合、「自動物流道路」構想の全貌

2025年8月15日 (金)

ロジスティクス物流の未来を賭けた壮大な実験が始まる。国土交通省は24年2月、深刻化する物流危機に対する切り札として「自動物流道路に関する検討会」を設置した。同検討会は道路という既存インフラの概念を根底から覆し、物流専用の自動化空間を創出するシステムの構築に挑む。

クリーンエネルギーを動力源にして、無人化・自動化された搬送機器が絶え間なく荷物を運ぶ。まさに物流の新たな動脈を描く構想だ。この構想が実現すれば、トラックドライバー不足や24年問題、カーボンニュートラル実現といった物流業界を取り巻く三重苦を一挙に解決する可能性を秘める。物流事業者にとっては、まさに”一石四鳥”の効果が期待できる。

24時間眠らない輸送サービス、人手に頼らない小口・多頻度輸送、輸送と保管の境界を溶かすバッファリング機能による需要の波の平準化、地球環境への負荷軽減という4つの恩恵を同時に手にする道筋さえ見える。これは単なる技術革新を超えた、物流業界の地殻変動の始まりかもしれない。

気象に左右されず、災害時は物流ネットワークの確保に貢献

自動物流道路は「道路空間を活用して専用空間を構築」し、「デジタル技術を活用して無人化・自動化された輸送手法」により荷物を輸送する画期的なシステムだ。従来の物流が人の労働時間や気象条件に左右されるなか、自動物流道路は24時間稼働するインフラとして、輸送空間を保管にも使用する「バッファリング機能」で物流需要を平準化し、物流全体の最適化を図る。物流専用空間を確保し、人の侵入や風雨の影響を可能な限り排除する。平常時は気象に左右されず、災害時には重要な輸送手段として物流ネットワークの確保に資する。

▲自動物流道路のイメージ(出所:国土交通省)

検討会は東京大学大学院工学系研究科の羽藤英二教授を委員長とし、日本経済団体連合会、全日本トラック協会、流通経済研究所、中日本高速道路、立教大学、東京海洋大学、日本ロジスティクスシステム協会、流通経済大学の専門家で構成する。30年度には輸送力が34%(9億4000万トン相当)不足する可能性があり、CO2排出量のうち2割を運輸部門が占める現状を踏まえ、抜本的な解決策を模索する。

▲7月に開催した「第10回自動物流道路に関する検討会」の様子

自動物流道路の最大の特徴は、完全自動化により人的リソースの制約から解かれることだ。小口・多頻度輸送が可能となり、省スペースで安定輸送を実現する。輸送と保管を統合したバッファリング機能により物流需要の平準化が可能になり、物流全体の効率化を実現する。対象は小口・多頻度で輸送される荷物。標準仕様パレット(平面サイズ1100ミリ×1100ミリ)に積載した荷物を輸送単位とする。

アマゾン「工場間の輸送で自動物流道路を活用したい」

これまでの議論では物流事業者が強い期待を示した。味の素は「場合によっては配送拠点・ネットワークの再構築が考えられる」と述べ、アサヒグループジャパンは「工場間の輸送で自動物流道路を活用したい」と表明した。アマゾンジャパン(東京都目黒区)は「大きな期待をしており、ユーザー希望企業として企画や設計段階からニーズを反映いただけるよう協力したい」と積極的な姿勢を見せた。

技術面では搬送機器の開発が重要な課題となる。インフロニア・ホールディングスはタイヤ式台車技術を、Cuebus(キューバス、台東区)はリニアモーター式二次元貨物搬送システムを提案した。搬送速度は当初時速30キロを想定したが、現在のリードタイムと同等のサービス提供のため、時速70-80キロを目指す方向で検討が進んでいる。

ことし7月末に公表した最終とりまとめでは、自動物流道路の具体的な実装方針が明確化された。対象区間は東京-大阪間を基本とし、関東・東関東や兵庫への拡大も検討する。拠点は中間地点を含む複数拠点を設定する。他モードとの連携も考慮する。荷姿は標準仕様パレット(平面サイズ)に統一する。高さ2.2メートルまでを基本とする。搬送機器とトラック間の自動積み込み・荷卸しが必要で、保冷機能や自動仕分けについても検討を進める。

「夜間にトラックで輸送し、翌朝に配達する」商慣行の転換

さらに、最終とりまとめでは自動物流道路が果たすべき役割として物流全体の最適化、物流モードのシームレスな連携、カーボンニュートラルの実現、災害時の安定的な物流確保を掲げた。「夜間にトラックで輸送し、翌朝に配達する」商慣行の転換と、トラックの位置情報と拠点機能の連携で荷待ち時間を削減し、ドライバー負担を軽減する。

パレットやデータを標準化し、フィジカルインターネットを実現することで物流全体の最適化を図る。自動物流道路の24時間稼働、小ロット輸送、バッファリング機能を活用し、トラックの輸送需要の平準化や需要を見越した自動物流道路内での荷物の事前待機により、輸送計画の柔軟性を高め、リードタイムの短縮を実現する。

▲自動物流道路における、入荷から走行まで(クリックで拡大、出所:国土交通省)

事業スキームについては46社からの意見提出があった。民間事業者は建設、運営、維持、保有の各業務フェーズでさまざまなリスクがあると指摘。国の関与なしでは事業実施が困難との見解を示した。検討会では「民間資金を想定し、民間の活力を最大限活用」する方針を確認する一方、サービスレベル確保のため事業規制や構造・安全基準の議論が必要とした。

ことし5月には「自動物流道路の実装に向けたコンソーシアム」を設置し、104社の民間企業が参加した。ビジネスモデル、オペレーション、インフラの3分科会で具体的な検討を進める。今年度は搬送機器の走行性能など6つのユースケースについて実証実験を実施する。新東名高速の建設中区間での27年度までに実験を重ね、30年代半ばまでに、小規模改良で実装可能な区間での運用開始を目指す。

検討会がはじき出した効果試算では自動物流道路は将来不足する輸送量の8-22%のカバーが可能。ドライバーの労働時間2万-5万7000人日、CO2排出量240万-640万トン(年間)の削減効果が見込める。最終とりまとめではケーススタディーとして伊勢原ジャンクション(JCT)など東名厚木インターチェンジ(IC)周辺から東名駒門パーキングエリア(PA)もしくは愛鷹PA(沼津IC)、東名厚木IC周辺(伊勢原JCT)から新東名駿河湾沼津サービスエリア(SA)、名神養老JCT周辺から名神関ヶ原IC周辺、新名神城陽ICから八幡京田辺IC──の4つの区間を選定し、整備イメージの具体化を進める方針を示した。

▲最終取りまとめで提示されたケーススタディー区間(出所:国土交通省)

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