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2025年上半期ニュース総まとめ・「物流施設」後編

冷凍冷蔵、DCなど新領域の開発加速する物流施設

2025年8月15日 (金)

拠点・施設2025年上半期は、物流施設の機能進化がいっそう顕著になった。従来型の「保管」「配送」の枠を超え、冷凍冷蔵、環境対応、地域連携など、多様なテーマが複層的に施設開発に組み込まれてきている。

物流を「社会インフラ」として再定義する試みが、こうした機能的・社会的な広がりを後押ししている。

拡大する冷凍冷蔵ニーズ

▲「GLP神戸住吉浜」(出所;日本GLP)

生活様式の変化や医薬品・食品物流の高度化を背景に、冷凍冷蔵施設への投資が加速している。ことし3月に満床稼働を発表した「GLP神戸住吉浜」は、国内最大級の賃貸型全館冷凍冷蔵・全館可変温度帯仕様のマルチテナント型物流施設として、物流施設市場の本格的参入を象徴する物件と言えるだろう。日本GLP(東京都中央区)は大阪市内で全館冷凍冷蔵物流施設「GLP南港I」「南港II」の開発も発表しており、成長を続ける家庭用冷凍食品市場を中心に、既存の自社施設建て替えや、フロンガス対応など冷凍冷蔵施設の標準形確立を主導する姿勢だ。4月には首都圏港湾エリアに国内最大級規模の冷凍冷蔵マルチテナント型物流施設「GLP川崎II」(27年8月完成予定)着工を発表、5月に千葉県市川市で「GLP市川II」「市川III」の開発・取得プロジェクト始動も発表するなど、市場への攻勢を強める。

▲冷凍自動倉庫として初めて運用フェーズに移行した「LOGI FLAG TECH 八戸Ⅰ」(出所:霞ヶ関キャピタル)

一方、賃貸型冷凍冷蔵市場を開拓した先駆者ともいえる霞ヶ関キャピタルは、昨年末に「冷凍“自動”倉庫」としてさらに付加価値を高めたプロジェクトを展開しており、「LOGI FLAG TECH」ブランドとして所沢市で昨年稼働をスタート、「東扇島I」(仮称、川崎市川崎区)、「名古屋みなとI」(名古屋市港区)、「越谷I」(埼玉県越谷市)などの開発・着工と、「大阪茨木I」(大阪府茨木市)、「大阪南港I」(大阪市住之江区)、「八戸I」(青森県八戸市)の運用開始を発表、この市場の先導者として賃貸型冷凍冷蔵の展開を本格化している。

一方、三菱地所(ロジクロス大阪住之江)、SANKEILOGI(SANKEILOGI春日部)といったプレーヤーも、それぞれのブランド初の冷凍冷蔵倉庫開発を打ち出しており、市場競争の激化が進むなかで独自性と先進性が問われている。

環境貢献は「標準」、そして「差別化」へ

あるデベロッパーの営業担当者に話を聞くと、テナントの施設選びにおいて入居施設の環境性能を重視するというよりは、もはや一定レベルの環境性能はあって当然との認識になっているという。太陽光発電パネルやLED照明などの導入はもはや標準仕様となりつつあり、今後は、館内エネルギーの再エネ化やカーボンクレジットの活用といった「テナント企業の環境貢献にどう貢献できるか」という視点での実効性が重視される。

RE100対応やESG投資の観点からは、施設単体の環境性能に加えて、デベロッパー自身の持続可能性戦略も評価対象として、より環境負荷低減への取り組みを強化していく必要がある。建築費が高騰するなか、どんな資材、どんな開発計画で環境、SDGsに貢献できたのか、施設入居者はもちろん、社会全体で取り組みを評価できるような仕組み作りも進めなくてはならない。

データセンター開発による事業領域拡大

クラウドサービスの発展によりIoT(モノのインターネット)・5G通信需要の拡大、さらに生成AI(人工知能)の急速な普及など、データ通信量の増加も「社会インフラ課題」と位置付けられる状況だ。データセンター供給を事業戦略として、あるいは社会的使命として掲げるデベロッパーの動向も注目される。ことし6月に「REITの保有資産としてデータセンターを組み入れるための環境整備を行うこと」が金融庁より公表されたことも、さらなる後押しとなることも予想されるが、センター運営に必要な電力確保など課題も大きい。

日本GLPは6月、データセンターに特化した不動産ファンドを組成し総額3500億円を調達したと発表した。データセンター向け投資の拡充によりファンドの規模は国内最大級となり、今後外部からの借り入れなどで1兆円規模への拡大を目指すとしている。三井不動産は30年に向けたロジスティクス事業の基本戦略にデータセンター事業の拡大を明記、累計投資額3000億を用意すると公表している。

本国でのデータセンターに関するノウハウも豊富なプロロジス(東京都千代田区)は昨年末、福岡の「プロロジスパーク小郡」内にコンテナ型データセンターを開発した。施設の太陽光発電から電力を供給する再生エネルギー活用データセンターとなる。同様にグローバル市場でのデータセンター開発を手がけるESR(港区)も、昨年大阪市住之江区にESRグループ初のデータセンター「ESR コスモスクエア データセンター OS1」を完成させ、今後OS2、OS3と整備を進めて最終的には130メガワットの巨大プロジェクトになる。

地域と共にある物流施設へ

▲「T-LOGI仙台(仮称)外観イメージ」(出所:東京建物)

日本全国の消費圏ごとに、より機動力のある配送体制が必要となり、開発の舞台は都市部から地方圏にも広がっている。地域の雇用、環境に大きなインパクトを与える大型施設の開発においては、「物流拠点でありながら、地域と共生する場づくり」という観点が、ますます重要性を増すことだろう。

24年問題を機に、東北エリアでの開発事例では、仙台や盛岡のポテンシャルが評価され、大手デベロッパーの初進出なども報告されている。東京建物も3月、同社として東北初の物流施設となる「T-LOGI仙台」(仮称)の建設に着手したことを発表、26年6月の完成を予定している。

不安定な海外情勢を受け、製造の国内回帰、海外巨大事業の国内進出などが、九州などへの施設供給計画などにも大きな影響を与えている。地域経済の活性化は、見方を変えれば地域の人材の取り合いに直結する。地域に開かれた新しい時代の施設像を打ち出すことは、働く人々を確保する前提となっていくだろう。全国ネットワークを意識しながらも、地域の雇用や交通インフラ、環境資源との連携を視野に入れた設計思想、地域への深い理解無くしては、拠点戦略が機能しない局面を迎えている。

建築費、土地取得価格の高騰は今後も高止まり、上昇傾向となる。さらにその先には、「自動運転」「自動物流道路」といった、新時代の物流インフラとの親和性を見据えた施設開発へと競争軸が移行していく。インターチェンジ直結など限られたプライム立地の開発競争、より先進的な自動化技術導入など、新たなインフラ構築となるまでには巨額の投資を織り込んだ戦略が必要だ。国内外からの投資は変わらず旺盛とはいえ、投資サイドからは物件取得能力や、自動化、環境対策などを投資判断に組み込む動きも強まる。多数のプレーヤーが物流施設市場に参加した状況から、市場をけん引する事業者、撤退する事業者などの選別も進むのではないだろうか。

ことし上半期の物流施設市場を振り返ると、一時期の大量供給期から、施設機能、エリア開発など、より24年問題対応力を打ち出した開発期へと移行していることがわかる。引き続き拡大するEC市場、宅配需要などの増加の受け皿として機能する使命はもちろん、外部要因による急激な変化に対応できる柔軟性の重要性も、再認識させられた上半期と言えるだろう。物流デベロッパーには、施設ごとに明確な物流危機対策や環境対策としての開発コンセプト、施設仕様を打ち出す「提案者」としての姿勢が、ますます求められることとなるだろう。

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