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ANAとヨーカ堂、「産直空輸」の農産品を販売

地方生産者のビジネス創出は運輸事業者にも好機だ

2021年7月16日 (金)

(イメージ画像)

ロジスティクスANAホールディングスとイトーヨーカ堂(東京都千代田区)が、全国の採れたて野菜や果物の「産直空輸」による試験販売に取り組んでいる。新鮮な農産物を旅客機で東京国際空港に輸送し、「イトーヨーカドー グランツリー武蔵小杉店」(川崎市中原区)で7月17日からの2日間、試験販売を実施し販売状況や来店者の反応を検証する。航空便と陸上輸送の連携で、収穫から最短で6時間後に店頭に並べる仕組みを実現。地方の農業従事者をはじめとする産業振興と、首都圏での全国の農産品の認知向上を図る狙いだが、ANAには旅客便の有効活用を目指す目論見もありそうだ。

大都市圏に農産品を鮮度を維持して輸送する場合、当然ながら距離が遠いほど航空便のメリットは大きくなる。とはいえ、輸送費用や運航数などの理由から、農産品輸送は相当遠い距離でもトラック輸送が主役なのが実情だ。大都市近郊で農産品の出荷が盛んなのは、トラック輸送の利便性が高いからだ。

ここで、「産地直送」に最適なはずの航空便での農産品輸送の実証実験に乗り出したのがANAだ。ことし3月に「イトーヨーカドー大森店」(東京都大田区)で北海道や九州産の野菜などを販売する「産直空輸」プロジェクトの第1弾を実施。その後も東京都と神奈川県内のイトーヨーカドーで同様の実証実験を経て、今回が5回目となる。今回も、北海道産のフルーツトマトや山口県産の畑わさび、鹿児島県産の空心菜など14品目を直売する。

鹿児島からイトーヨーカドー グランツリー武蔵小杉店までの「産直空輸」のイメージはこうだ。生産者が朝に収穫した野菜を車で朝10時に鹿児島空港に貨物として納入。ANAの旅客便で東京国際空港へ運ばれた野菜は、ANAの手配した車両で店舗へ。鹿児島空港へ納入されてから店頭に並ぶまでの時間はわずか5時間。ほぼ丸一日かかるトラック輸送と比べて大幅に短縮できる計算だ。

(イメージ画像)

そもそも、鹿児島のこうした生産者には、首都圏で採れたて野菜を定期的に販売する発想はほとんどないと言ってよい。首都圏の店頭に並ぶ採れたて野菜は、北関東など近郊産地のものが大半だ。ANAの実証実験は、地方の生産者に新たなビジネスチャンスを提供できる可能性を秘める。

新型コロナウイルス感染症の拡大による航空旅客の減少は、ANAの経営にとって大きな打撃となっている。こうした状況を打破するために、農産品の輸送に積極的な姿勢は、コロナ禍で停滞する経済を刺激する効果もあり、歓迎すべき取り組みだ。JR旅客各社が新幹線や旅客列車を使った貨客混載に活路を見いだそうと躍起なのも、全く同じ構図と言える。

地方経済や生産者を支援することが、運輸事業者の新たなビジネス創出につながる、そんなしたたかな戦略は、コロナ禍という異常事態にあっては、有効な選択肢だと思う。今後のANAの取り組みから目が離せない。(編集部・清水直樹)